4月27日、DTMドイツ・ツーリングカー選手権に参戦するアウディが、2020年限りでのDTM活動の終了を発表した。2020年からアウディとBMWのみが参戦するDTMにおいて、2社のうち1社が撤退するのはシリーズにとっても大打撃とも言える出来事だ。新型コロナウイルス感染拡大の影響で取材もままならぬ状況ではあるが、現段階で得られる情報から、何が起きているのかと今後についてを考察した。
■突然のアウディ活動終了発表
DTMドイツ・ツーリングカー選手権は、1984年から1995年まで行われ、過激なハイテクデバイスとメーカー同士の争いで盛り上がった後、1996年にITC国際ツーリングカー選手権に発展。ただ費用高騰により、この年限りでシリーズは消滅。2000年に当時の失敗を踏まえ新たなかたちでDTMが生まれた。
第2期のDTMはメルセデスベンツ、オペルといった第1期に参戦したメーカーに加え、当初アプトのプライベート参戦というかたちだったアウディがワークスとして参戦した。ただ2005年にオペルが撤退した後、しばらくはメルセデスとアウディの戦いとなっていた。
当然2社の争いはファンにとっても訴求が難しい部分があり、メルセデスとアウディ、さらにDTM側が望んだのは第3、第4のメーカーだった。そこである意味で“誘われた”のがBMW。ただBMWはグローバルに、特に大きなマーケットであるアジア、アメリカにも訴求できるならば参戦の価値があり、車両開発のメリットがあるとしていた。
こうして生まれたのが、現在DTMとスーパーGT GT500クラスに採用されている車両規定の『クラス1』だ。当初この規定が生まれるにあたり、DTM側はスーパーGTと同時に北米のIMSAにも声をかけていたのは、BMWをはじめメーカーの希望があったのは間違いないだろう。
このクラス1規定は、第1期DTMの失敗を忘れていないDTM側と、車両開発のコストを下げプロモーションに活かしたいスーパーGTの意志もあり、現段階では多くの共通パーツを使用。コスト面ではまだ大きなものではあるが、この速さをもつレーシングカーとしては、かなり合理的なものになっている。空力面でもそれほど開発の余地はなく、唯一のハードルとも言えるエンジンは、スーパーGTを見ても分かるとおり、一度作れば改良を加えながら比較的長く使うことができる。
そんななかでアウディが下した活動終了のジャッジの要因は、公式は発表としては二酸化炭素排出量削減への取り組みのなかでのモータースポーツ活動再編と、新型コロナウイルス感染拡大の影響による経済的な側面が理由として挙げられている。
このなかでもやはり大きいのは、二酸化炭素排出量削減に関する問題だろう。ドイツでは2030年にはガソリン車の販売が禁じられる予定で、ここまでに代替エネルギー車にシフトしなければならない。特にフォルクスワーゲングループは、排ガス問題の影響が色濃く残っており、この問題にはセンシティブだ。すでにフォルクスワーゲンブランドでは、内燃機関のレーシングカーの生産を行わないことを発表している。グループ内のアウディが近い選択を強いられても不思議ではない。
当然同様の問題はBMWにも降りかかっているだけでなく、ヨーロッパのモータースポーツ界全体に重くのしかかっている。音とスピードが魅力のモータースポーツのなかで、電気自動車にシフトしないまでも、ある意味“免罪符”とも言えるのはハイブリッドユニットを積むことで、DTMでもここ1〜2年ハイブリッドの噂がささやかれていた。
すでにクラス1規定の車両では、スーパーGTのホンダNSXコンセプト-GTがハイブリッドを積んでいたこともあり、技術的には不可能なことではなかっただろう。ただそれでも、ハイブリッド投入を待たずして活動終了の決定が下されたのは、“ハイブリッドでは足りない”事情がアウディのなかでもあったのだと推測される。新型コロナウイルスによる経済減速もその事情のひとつだろう。
■「ワークスありき」だったDTM
とはいえ、ドイツ国内では地上波でもテレビ中継され、毎戦数万人の観衆を集めるほどの人気を誇るDTMだけに、その活動を終えるというアウディの決断はやはり衝撃的だ。この決断によって、シリーズには本来“誘われた”ようなかたちのBMWだけが取り残される結果となってしまった。
2020年にDTMに参戦を予定している台数はアウディがワークス6名、プライベーターのWRTが3名の合計9名。BMWがワークス6名、プライベーターが1名の計7名だ。現段階でWRTの活動がどうなるかは触れられていないが、もしWRTが出場しないとなると7台のBMWが走るだけのレースになってしまう。台数を増やしたとしても、BMWにとってはまったく魅力もないだろう。
では代わりのメーカーが参入するかといえば、それも厳しい状況だ。ヨーロッパにはDTMに参戦できるほど体力があるメーカーがあるともあまり思えず、すでにマシンをもっている日本の3メーカーも、2019年にクラス1車両を公開した際、オートスポーツからの質問に対し、いずれもDTMへの参入について「意志はない」と明言している。マーケティングの面からもそこまで効果はないだろう。
ちなみに近年のDTMは、車両面ではかなりコストが抑制されていたものの、それ以外の面では行きすぎとも思えるような“プロモーション競争”が白熱していたのも問題点のひとつだ。また特に状況を難しくしていたのは、“DTMはワークス活動で行うもの”というドイツメーカーの考え方だ。
スーパーGTでは、過当なメーカーの参入を避けるべく、基本的にチームがメーカーの支援を受けながら参戦するスタイルがとられている。ドライバー決定等にメーカーの意向が関わることはあるものの、あくまで主体はチームで、カラーリングを決めたりピット内の設備をどうするのかも多くはチームの裁量だ。さらに言えば、チームはGT300に活動の場を移すこともできる。
しかしDTMは、あくまでメーカーが主体。各チームは、メーカーの意匠に完全に則った設備でピットを用意し、カラーリングもメーカー内はすべて共通。またプロモーションも大規模で、モーターショーのメーカーブースのような建築物が毎戦建ち並ぶ。それがDTMの良さでもあったものの、やはり非常に多くのコストがかかっていたはずだ。
2019年からDTMはプライベーターの参加も受け入れるかたちとなっているが、やはりDTMは“ワークスがやるレース”という印象は拭えずにいる。メーカー自らガソリンを使うレースに巨額の投資を行っていくのは、やはりアウディ、そしてフォルクスワーゲングループにとっては不可能だったのではないだろうか。