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投稿日: 2021.02.01 12:10

2014年のル・マン24時間。アウディ、ポルシェ、トヨタによる“技術戦争”【サム・コリンズの忘れられない1戦】


コラム | 2014年のル・マン24時間。アウディ、ポルシェ、トヨタによる“技術戦争”【サム・コリンズの忘れられない1戦】

 予選が終わってみるとトヨタとポルシェ勢が最速で、タイムも拮抗していた。双方のマシンは3台のアウディよりも速く、レベリオンよりはるかに速かった。

 ニッサンZEOD RCはLMP2マシンのなかで一番遅かったが、どのGTマシンよりも速かった。電力モードのみで1周予選を走ることはできたが、マシンはトラブルを抱えているようだった。決勝では5周でリタイアとなった。

 レースはフェルナンド・アロンソの振るスタートフラッグのもと、非常に暑い晴天のなかでスタートした。トヨタが首位になり、ポルシェ勢との差を広げていた。さらに後方のアウディは、速い2台のポルシェと、トヨタのどちらのマシンとも争えるペースがないようだった。

 数時間後、私は解説ボックスでの仕事を始めていたが、天気が劇的に変わり、激しい雨になった。ストレートでは数台の多重クラッシュが起きていた。スローゾーンがコースの1カ所で導入されたことに多くのマシンが気づかなかったのだ。

 この多重クラッシュでトヨタとアウディの1台が大きなダメージを負った。アウディはリタイアしたが、トヨタは修理のためにピットに戻ることができた。少々興奮させられる場面だったが、レースはこれで終わりではなかった。

 もう1台のトヨタはまだ首位を保っており、コースに夜の帳が下りるにつれて、ある程度の差を広げていた。7号車の中嶋一貴は先頭で落ち着きを見せ始めていた。しかし彼が周回遅れのライバルのマシンを抜いた時、そのマシンのドライバーはTS040ハイブリッドの後部に小さな炎が出ているのを見つけた。

 偉大なスポーツマンシップによる行動として、ライバルチームたちはトヨタに出火していることを知らせた。だがトヨタのクルーは、中嶋に連絡ができなかった。炎は無線の接続を焼いてしまっていたのだ。

 電気系統が故障したため、7号車TS040ハイブリッドはレースからリタイアを余儀なくされた。優勝確実とみられていたポジションからのリタイアはトヨタにとって厳しいものだったが、これはトヨタにとって最もつらいル・マンでのリタイアとはならなかった。

 7号車TS040ハイブリッドがレースから外れたことで、優勝争いは2台のポルシェと2台のアウディの戦いとなった。

 アウディは、1台にターボチャージャーのトラブルが出て、交換のためにピットで20分を失うまではわずかに優勢だった。その後もう1台のアウディが同じ問題に見舞われ、長い時間をガレージで過ごすことになった。これで流れはポルシェに来ているかと思われた。

 しかし首位の20号車ポルシェ919ハイブリッドを駆るマーク・ウエーバーもトラブルに見舞われた。サスペンショントラブルで、リタイアとなったのだ。もう1台の14号車919ハイブリッドはギヤボックスの問題に悩まされ、修理のためにピットストップを行わなければならず、アウディがふたたびレースの首位に立つこととなった。

 レースが終わりに向かうなか、私はOAKレーシングのガレージにいた。チームはニッサンエンジンを積んだリジェでLMP2クラスに参戦していた。ガレージの真ん中にひとり座り込み、気落ちして見える若いドライバーは、この数年で知り合った人物だった。

 彼は見事なドライビングをしたが、表彰台フィニッシュは逃してしまった。その人物、ヤン・マーデンボローがどれだけ自身を追い込むのかということに私が初めて気がついた時だった。

 彼は非常に自己批判的であり、優勝だけが満足できる結果なのだ。私は、彼が多くの人々を感心させ、彼より経験のあるチームメイトのアレックス・ブランドルよりも速く見えたほどであったことを伝えた。これで少しは彼を元気付けられたと思う。

 レースはアウディのワン・ツー・フィニッシュで終わった。生き残った8号車トヨタTS040ハイブリッドは勝者より5周遅れの3位につけ、ドイツ勢のライバルたちのトラブルから恩恵を受けたかたちとなった。私はアウディが優勝するというレース結果を喜ばしく思った。

 ドライバーはアンドレ・ロッテラー、マルセル・ファスラー、ブノワ・トレルイエであり、私の友人のレーナ・ゲードがエンジニアを務めていた。彼女が優勝車のエンジニアリングを担当したのはこれが3度目だった。彼女のモータースポーツでの最初の仕事が、イギリスのフォーミュラVeeでの私のレースメカニックだったことを、誇りに思っている。

 LMP1-Hマシンがトロフィーを受け取った後、LMP1-L(ノンハイブリッドカー)マシンに対してLMP1-Lクラス優勝という賞が送られた。それはレベリオン・レーシングのマシンの1台に与えられたもので、唯一このレースを完走したLMP1-Lマシンだったのだ。このマシンのドライバーだけが表彰台に上がった。

 実際のところレースに出走したLMP1-Lマシンはたったの2台で、両方ともレベリオン・レーシングだった。何が起ころうともチームはクラス優勝を保証されていたのだ。言い換えれば、無意味な賞だった。

 レースの数週間後、FIAとACOは空力レギュレーションの解釈を明確化し、トヨタの可動式リヤウイングは禁止された。そもそも最初の時点でそれの使用がどうして許可されたのか、私には理解できなかった。

 アウディ、ポルシェ、トヨタという3メーカーによる激しい技術戦争はその後も数年間続いたが、レギュレーションが厳しくなるにつれて、戦いは以前のように激しいものではなくなった。現在では、技術戦争は完全になくなった。残念ながら、それはバランス・オブ・パフォーマンスにとって代わられたのだ。ル・マンは以前ほど特別なものではなくなってしまった。

2号車アウディR18 e-トロン・クワトロ(マルセル・ファスラー/アンドレ・ロッテラー/ブノワ・トレルイエ)
2号車アウディR18 e-トロン・クワトロ(マルセル・ファスラー/アンドレ・ロッテラー/ブノワ・トレルイエ)
優勝はマルセル・ファスラー/アンドレ・ロッテラー/ブノワ・トレルイエ組2号車アウディR18 e-トロン・クワトロ
優勝はマルセル・ファスラー/アンドレ・ロッテラー/ブノワ・トレルイエ組の2号車アウディR18 e-トロン・クワトロ
3位となったA.デイビッドソン/N.ラピエール/S.ブエミ組の8号車トヨタTS040ハイブリッド
3位となったA.デイビッドソン/N.ラピエール/S.ブエミ組の8号車トヨタTS040ハイブリッド
リタイアとなったT.ベルンハルト/M.ウエーバー/B.ハートレー組の20号車ポルシェ919ハイブリッド
リタイアとなったT.ベルンハルト/M.ウエーバー/B.ハートレー組の20号車ポルシェ919ハイブリッド

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サム・コリンズ(Sam Collins)
F1のほかWEC世界耐久選手権、GTカーレース、学生フォーミュラなど、幅広いジャンルをカバーするイギリス出身のモータースポーツジャーナリスト。スーパーGTや全日本スーパーフォーミュラ選手権の情報にも精通しており、英語圏向け放送の解説を務めることも。近年はジャーナリストを務めるかたわら、政界にも進出している。


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