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投稿日: 2021.02.01 12:10

2014年のル・マン24時間。アウディ、ポルシェ、トヨタによる“技術戦争”【サム・コリンズの忘れられない1戦】


コラム | 2014年のル・マン24時間。アウディ、ポルシェ、トヨタによる“技術戦争”【サム・コリンズの忘れられない1戦】

 ル・マンの取材では耐火スーツと鮮やかな色のベストを着て、緩衝ヘルメットを被らなければならない。私はピットレーンからのリポートもしていたので、アンテナ付きの無線用ヘッドセットも付けていた。その姿は間抜けに見えたし、非常に暑かった。

 ピットでポルシェに目をやった私は、ボディワークに新しいパーツが取り付けられていることに気づいた。だがボディワークはたわむようになっているままのようだった。

 このボディワークは高速でたわむように特別に設計されたというのが、私の考えだった。その日、ポルシェは2台とも頻繁にピットインし、リヤのボディワークは絶えず焼けて煙を出しているように見えることに私は気づいた。

 1日の終わりに、ストレートに行っていたカメラマンが撮影したものを私に見せてくれた。リヤのボディワークがまさに高速で大きくたわんでいるのは明白だった。それはほぼ確実に、高速走行時にドラッグを低減しているのだ。

 その後、ポルシェのドライバーのひとりが、それはトップスピードでは6km/hに相当する効果があったと私にテキストメッセージで認めた。また彼は、ボディワークはたわみすぎるため、ターボチャージャーの熱で焼けてしまったということも認めた。

 ポルシェの秘密兵器を発見したことに私は満足していた。だがカメラマンが私の関心を他のものに向けた。それはトヨタのリヤウイングだ。

 彼は、サーキットの高速セクションではリヤウイングが低速セクションと比べて異なって見えることに気づいたのだ。だが、数枚の写真では違いがはっきりしていなかったので、私は確信を持てなかった。

 そのため、私は彼に「トヨタは異なるセットアップを見つけるために、違うウイング角度で走行していたのではないか」と言った。

 テストデーの後、私は南フランスのアルプスで数日間の休暇を過ごし、翌週に公開車検のためにル・マンへ戻った。TGVの座席でビールを飲みながら、テスト中にピットレーンで撮影した写真を何気なく眺めていたが、私はあることに気づいた。

 写真に写るトヨタTS040ハイブリッドのリヤウイングのエンドプレートの内側の面にかすり傷がついていた。それは走行中に何かにこすられたような感じだった。

トヨタTS040ハイブリッドのリヤウイングのエンドプレートの内側
トヨタTS040ハイブリッドのリヤウイングのエンドプレートの内側

 私は確信が持てず、知り合いのエンジニアにその写真を送り、意見を聞いてみた。すぐに私たちは画像や動画、アイデアを交換した。カメラマンは正しかったのだ。

 高速走行中にトヨタのリヤウイングは、ドラッグを軽減するために回転していたのだ。可動式の空力デバイスはレギュレーションで厳しく禁止されており、私はそのリヤウイングが合法とは思えなかった。

 私がフランスの田舎を楽しんでいた数日間、ル・マンではかなりの騒ぎがあったに違いない。公開車検のために私がル・マンに戻ると、ポルシェのリヤエンドは急きょ改造を施されていた。小さなプレートが車体の後部にボルトで固定され、リヤのボディワークがたわまないようになっていた。

 一方トヨタは、TS040のリヤウイングは合法であるとFIA国際自動車連盟とACOフランス西部自動車クラブを納得させたようだった。彼らは義務付けられた検査すべてに合格した。

 ル・マンでの公開車検はちょっとしたイベントだ。レース前の日曜日と月曜日に、町の大広場でメディアと数千人のファンを前にして車検が行われるのだ。ほとんどのマシンの技術検査すべては、メディアと一般の人々の衆人環視のなかで行われる。

 しかしLMP1クラスのワークスマシンの場合、適切な技術検査はコースにあるACOのガレージで行われる。そのため、柔軟性検査を見て、トヨタがどのように検査をパスしたのかを理解することはできなかった。

 マニュファクチャラーチームが適切な技術検査をメディアの前で行わないのは本当に残念なことだ。だがこれがル・マンの現状なのだ。そういうわけで私がポルシェのリヤをあらためて見たのは、水曜日のフリープラクティスでのことだった。

 水曜日の時点でマシンには改良が施されており、どうやってもボディワークをたわませることはできないようだった。私はポルシェ、そしてアウディがこの状況に少々怒りを感じているだろうと思った。ポルシェのドラッグ軽減ボディワークが禁止されたのに対し、トヨタのリヤウイングは禁止されていないのだ。

 また、ポルシェ、アウディは別の理由でもトヨタに対し怒りを感じていると思った。その日の夜、ドイツ人のエンジニアから受け取った内部情報から、トヨタのブレーキングシステムについてライバルチームに不満が広がっていることがわかったからだ。

 トヨタのシステムは、自動の“ブレーキマイグレーション”システムを備えており、コーナーの奥にマシンが差し掛かると、自動的にフロントとリヤのバランスをとるようになっていた。マシンの電子管理システムが自動的に管理するので、これは本質的にはアクティブブレーキバランスのひとつだ。

 このシステムの存在が浮上すると、誰かが(おそらくポルシェかアウディだろう)その合法性に疑問を呈した。実際にレギュレーションには、トヨタのシステムの挙動が違法とされる可能性があるように書かれていた。私はこのシステムの合法性を疑うオンライン記事を書いた。

 翌朝、私は自ら書いた記事について話し合うために、トヨタのチームエリアに呼び出された。バセロンは、どうやって私がTS040ハイブリッドのブレーキングシステムの情報を入手したのか教えるように要求した。

 私にとって、記事を書くための情報をくれる人々の存在は重要だ。だから情報源は秘密にしている。バセロンに対しても、具体的な情報の出所を話すことは拒否した。

 バセロンは、私の記事がいくつか細かい部分で間違えていると主張し、システムについて詳細を説明した。私はオンライン記事をアップデートして彼のコメントも付け加えた。

 その日遅く、ACOとFIAはブレーキシステムについて技術説明書を発行した。それによってバセロンが私に説明したシステムは合法ということになった。だが私の情報源はそれを違法と言っていた。

 バセロンも私の情報源も、過去あるいはこれ以降に私に嘘をついたことはない。しかし彼らの説明は異なっていた。今日にいたるまで、私は自分が最初に書いた見解が正しかったのか不正確だったのか、わかっていない。この疑念は私につきまとった。

 2014年シーズンの後半にACOとFIAは規則を明確化し、私の情報源が当初語っていた内容を合法にし、規則をF1で使用されているものに合わせた。

A.デイビッドソン/N.ラピエール/S.ブエミ組の8号車トヨタTS040ハイブリッド
A.デイビッドソン/N.ラピエール/S.ブエミ組の8号車トヨタTS040ハイブリッド

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