「僕は基本、リヤ(のグリップ)がないとダメなんですけど、その先はフロント(のグリップ)も欲しいタイプ。でも小林はリヤさえあればそのまま走っちゃうタイプです。今年はレイクもついてるけど、サスペンションの使い方を変えていい方向に来ている。今季はよりタイヤを優しく使える方向にもっと思い切って振った感じです」
これまでUPGARAGE 86はサードエレメントを使ってブレーキング時のマシンリヤ側の姿勢制御を行ってきたが、ロール(横)方向の荷重変化に対してはバンプラバーなどサスペンション周りのパーツは用いず、硬めのサスペンションスプリングを使用して対応してきた。
そのためロール方向で高負荷がかかる鈴鹿などでは1発の速さを見せてきたが、その弱点もまた「理解できていた」と中山は言う。
しかし、今季からは足回りを動かしながらも高速コーナーなど高い負荷が掛かる状況では、そうしたパッカーやバンプラバーを使用する方向にシフト。これで予選から決勝に向けてスプリングの硬さを変える必要がなくなった。
「小林がふと『基本的には予選と決勝で変わらないセットアップで走りたいですよね』と言ったんです。去年から(レース)フォーマットが変わって決勝前のウォームアップも短い。だから基本は片方(のドライバー)しか乗れません」
「後乗り(の経験が多かった小林)はアウトイン程度しか確認できないのに『決勝用に変えたクルマってどうなの』という。その不安を解消するべく言ってくれて、チームも『じゃあ』という空気になった」
TEAM UPGARAGEはレーシングチームとしては生まれて間もなく、特に2018年は独立チームとして新たなチャレンジを始めたばかり。そのためドライバーがドライバーの仕事に徹するのみでなく「起きた現象に対して『何が原因だったんだろう』と全員でデータを見るチーム」だと、エースは語る。
「小林もそういう経験は初めてだと思う。僕もGT500を含めていろんなチームでやらせてもらったなかから、エンジニアやメカニックさんの橋渡し役を意識したり、メンテをしてもらう上で『癖があるクルマだからこそ、知っている人に触ってもらった方がトラブルなどが起きそうなときの対処が早いし、気づいてもらえる確率も高い。それは限られた時間で戦うモータースポーツでは大きいから、すごく助かる』と意見をした」
「大きいチームだとなかなか届かないことも、(TEAM UPGARAGEでは)僕たちドライバーの意見が反映されやすい。だから自分で先を読んで考えれば、そしてクルマを開発できれば、伸びしろしかない。だから今年は楽しみしかないですよ」
第5戦富士までを終えてドライバーズランキングは7位。これまで年月をかけてきたチームビルディングの高い意識は、この4年目に花開きつつあるようだ。