2019年シーズンもまだ折り返し地点を過ぎたばかりだというのに、2020年のスーパーGT GT500クラスのシート争いが何やらざわついている。異例とも言える早いタイミングで、なぜこれほど騒々しいのだろうか。じつは、その震源はトヨタ陣営にある。彼らはいま、来季のドライバー確保に躍起になっているのだ。
GTA(GTアソシエイション)は7月26日に2020年のスーパーGT開催日程を発表した。例年は5月と8月の年2回行なわれている富士スピードウェイのレースが、来年は東京オリンピックの自転車競技会場として使用される影響で一戦だけの開催となる。また、マレーシア・セパンが久々にシリーズの一戦に組み込まれていることは大方の予想どおりだ。
話を戻すとトヨタ陣営が頭を悩ませているのは、このカレンダーが原因なのである。ご存じのとおりトヨタは世界耐久選手権(WEC)LMP1に中嶋一貴と小林可夢偉を送り込んでいる。彼らふたりに加えて、来季は山下健太がWECのLMP2にフル参戦することが明らかになった。
WECのカレンダーは2019/20シーズンまでが発表されており、現時点で2020/21シーズンはアナウンスされていない。そのため不確定な情報ではあるのだが一説によると「スーパーGTとWECのスケジュールが例年以上にバッティングしている」と言われているのである。ある関係者は「4戦も被っている」というが、その点に関しては定かではない。
ただ、いずれにしても両レースのスケジュールが重なっていたとしたらトヨタにとっては大問題である。
例年であれば、ゴールデンウイークの風物詩とも言えるスーパーGT富士大会とWECスパ・フランコルシャンがバッティングしていたため(厳密に言えば日程は異なっても、事実上掛け持ちできないスケジュール)そこでは代役が立てられてきた。2018年は一貴に代わってジェームス・ロシターが、可夢偉の代わりに坪井翔がステアリングを握り、今年は一貴の代わりに宮田莉朋が走った。
タイトル争いを考えると、年間をとおしてレギュラードライバーで戦い抜きたいところだが止むを得ない対応だった。ただ、その欠席が1戦ならまだしも2戦以上になると話は変わる。いまのGT500は代役がスポット参戦でいきなり戦えるほど甘くはなく、またチームメイトのモチベーションにも影響をおよぼしかねない。
しかも来年、欠席となるのは“ベテラン一貴”と“いま、もっとも勢いに乗る山下”の2名。当然のことながら可夢偉が代役を務めることもできず、トヨタ陣営としては“手痛いマイナス2”の補充を考えなければならなくなるわけだ。順当にいけば、そのうちのひとりは宮田だろうが、あとひとりが浮かばず、その対応に頭を悩ませている。
そこで白羽の矢が立っているのが、今年から日本で活動し、その評価がうなぎのぼりのサッシャ・フェネストラズ。今季のフェネストラズは全日本F3選手権をB-Maxで、GT300をKONDO RACINGで走っていることから、そのままニッサン系でのステップアップが自然な流れと考えられる。
ところが、当の本人は自らの目標を「F1が第一希望」と明言し、それがかなわない場合に限り「日本でスーパーフォーミュラ(SF)とGT500を戦いたい」と明かしている。もし、順当な流れでニッサン陣営のGT500に乗るとSF参戦はほぼ不可能となり、彼の希望はかなわない。
そのためフェネストラズ自身が来季のシートをトヨタやホンダに求めたとしても何ら不思議ではない。そして、その事情を知ったトヨタが「手痛いマイナス2」を埋めるため、SFのシートをチラつかせつつフェネストラズ獲得に向けて動いていると思われる。
ニッサンにとってみれば才能あふれる若手を、何とか自陣営に食い止めておきたいところだが、残念ながら対抗し得る切り札がない。つまり、フェネストラズがトヨタ入りする可能性は極めて高いと言えるだろう。
ホンダ陣営はトヨタ、ニッサンとは事情が異なる。今季のホンダは開幕戦の岡山といい、直近のタイといい(不可抗力があったにせよ)同士討ちにより大量のポイントを獲り逃した。そのクラッシュに関わっていたケーヒンの塚越広大やモチュール無限の中嶋大祐の動向が何より気がかり。
また、今季はNSX勢のなかで「もっともタイトルに近い」と言われていた本命のARTAながら、伊沢拓也の手痛いミスも目立っている。第2戦富士ではセーフティカー中のスピンでドライブスルーペナルティを、第4戦タイでは決勝2周目に7番手を走行していながら痛恨の単独スピンを喫した。4戦中2度におよぶ致命的なミスをホンダ陣営がどう判断するか。
その一方で、近年の同陣営は若手の成長が著しい。牧野任祐と福住仁嶺はSFでの走りを見る限り、NSX×ブリヂストンのパッケージであれば、いますぐにでもタイトル争いを演じられそうな勢いだ。
また、今季FIA-F2を戦う松下信治が、夢かなわずに来年から国内に復帰する可能性もゼロではない。つまり、来季に向けたホンダ陣営はベテランと若手の入れ替えに頭を悩ませそうだが、若手らの年間ランキングがはっきりしない限り、最終的な判断を下せないもどかしさがある。
いまの時点では、どのメーカーもまだ調査・検討段階であることに間違いないが、導火線には火がついた。そこで導かれた結論は秋口にかけて徐々に現実味を帯びてくるはずだ。
<2020レースカレンダー スーパーGT/スーパーフォーミュラ/WEC世界耐久選手権>
■SUPER GT
Rd. | Day | Circuit |
---|---|---|
1 | 4月11~12日 | 岡山国際サーキット |
2 | 5月3~4日 | 富士スピードウェイ |
3 | 5月30~31日 | 鈴鹿サーキット |
4 | 調整中 | チャン・インターナショナル・サーキット(タイ) |
5 | 調整中 | セパン・インターナショナル・サーキット(マレーシア) |
6 | 9月12~13日 | スポーツランドSUGO |
7 | 10月24~25日 | オートポリス |
8 | 11月7~8日 | ツインリンクもてぎ |
■SUPER FORMULA
Rd. | Day | Circuit |
---|---|---|
1 | 4月4~5日 | 富士スピードウェイ |
2 | 4月25~26日 | 鈴鹿サーキット |
3 | 5月16~17日 | オートポリス |
4 | 6月20~21日 | スポーツランドSUGO |
5 | 8月29~30日 | ツインリンクもてぎ |
6 | 9月26~27日 | 岡山国際サーキット |
7 | 10月31日~11月1日 | 鈴鹿サーキット |
■WEC 2019-2020
Rd. | Day | Circuit |
---|---|---|
1 | 2019年8月31日~9月1日 | シルバーストン |
2 | 2019年10月5~6日 | 富士 |
3 | 2019年11月9~10日 | 上海 |
4 | 2019年12月13~14日 | バーレーン |
5 | 2020年1月31日~2月1日 | サンパウロ |
6 | 2020年3月19~20日 | セブリング |
7 | 2020年5月1~2日 | スパ・フランコルシャン |
8 | 2020年6月13~14日 | ル・マン24時間 |
上記は、現時点で分かっている日程であり、ここから変更される可能性もある。スーパーGTとWECの日程がかぶるのは例年のことだが来年はこれまでと状況が違う。WECのカレンダーが19/20シーズンまでのため、2020年後半の日程が現時点では不明であるが例年の傾向に当てはめるとGT最終戦もてぎとWECの上海ラウンドが重なる可能性も高い。
さらにル・マン24時間の1週間前に行なわれるテストデイは、GT第3戦と重なる。おそらく2戦以上のバッティングは避けられないだろう。