日本にマシンが到着し、今年2月にシェイクダウンを行った際も、最初からそのポテンシャルの高さを充分に感じ取ることができたという。
「以前のヴァンテージはフロントに積まれているV12エンジンがミッドレイアウトされていると言っても、少し重くて、(コーナリング時に)ロールする印象でした」
「今回はV8ターボエンジンになったことで、エンジン搭載位置がさらに低く、奥になって、重心も下がっている。それによってブレーキング性能も格段に上がり、ダウンフォースももちろん増えていて、本当にFRの正常進化という感じですね」
そして藤井が「かなり“カルチャーショック”なデバイス」と表現する電子制御も、新型ヴァンテージGT3の大きな武器だ。
「電子制御はアストンマーティンがいちばんいいと思います。ドイツ系のメーカーも含めて、いちばん進んでいます。具体的にはトラコン(トラクションコントロール)なんですけど、ちょっと特殊なトラコンで、制御のロジックが根本から違うんです」
藤井はニスモ契約ドライバーとして、歴代のニッサンGT-RニスモGT3を開発してきたほか、数多くの車種でレースを戦ってきた経験を持つ。そんな藤井から見てもトラクションコントロールに関して「考え方も含めて『どういう制御をするか』という点で、アストンマーティンはすごく面白い」仕上がりなのだという。
「(第4戦)タイでもそれがいい方向に行って勝てそうなレースができましたけど、このクルマは“電子制御ありき”で考えないとダメ。オフにするとまったく別のクルマになります」
「トラコンに関してはどのメーカーも持っていない技術を入れていますし、発想がイギリスっぽいんです。だからタイヤもすごく保つだろうし、そこはかなり優れてます。そういった技術はやはり耐久レースから来ているんですよね」
「シャシー関連で言えば剛性も上がっています。ブレーキングについてもV12エンジン時代は少しリヤのリフトする場面がありましたけど、新型はブレーキングでもクルマの動きが減って接地性も上がっています」
「アストンマーティンは今ハイパーカーも出してますが、ロードゴーイングカーだと、この2シーターのヴァンテージ、その上にちょっとラグジュアリーなDB11というクルマがあって、さらにその上にDBSがあります。そのなかでもヴァンテージが50:50の重量配分でクルマが軽く、ハンドリングもスポーティなんですよ」
「アストンマーティンのイメージは全体にGT的な雰囲気だと思うんですけど、ヴァンテージは乗っているとドリフトしたくなるようなバランスなんです。かなりスポーツカー寄りのハンドリング。元の素性でそうなので、GTEやGT3にしたときのバランスは良いに決まってる」
「その意味では、ポルシェもすごくノーマルの素性が出るクルマで、(WEC向けの)RSRを除いて、ベースに乗ったらその限界を高めた延長線上にカップやGT3が想像できる。この新しいヴァンテージも一緒で、ロードカー、GT4、GT3、GTEが全部一直線上にある感じです」
こうした言葉も新型アストンマーティン・ヴァンテージを普段の私生活でも相棒にする、藤井ならではの評価だと言えそうだ。