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スーパーGT ニュース

投稿日: 2020.09.25 14:10

「薄皮1枚でクビがつながった」ZENT GRスープラが、第4戦もてぎでようやく脱した悪い流れ

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スーパーGT | 「薄皮1枚でクビがつながった」ZENT GRスープラが、第4戦もてぎでようやく脱した悪い流れ

「19、じゃまー!」

 Q2でラストアタックに入ったZENT GRスープラの立川祐路は、ダウンヒルストレートエンドの減速で前を走っていたWedsSport ADVAN GRスープラ(19号車)の国本雄資に並び、軽く接触。「心の中で思わず絶叫してしまった」というが、立川の“心の叫び”は、無線に乗ってチームの人々にも届いていたようだ。

 コースの所々で霧雨が降り、ドライタイヤでコースインしたQ1通過組はすぐピットに入り、ウエットタイヤに履き替えた。立川も判断を迷ったが、チームから交換の指示を受けたときはすでにストレートに差しかかっていた。

「ミラーを見たら誰もいなくて、ポツンとひとり。ドライでも行けたかもしれないけど、自分たち1台だけリスクを負う必要はないなと、次の周(ピット)に入りました」と立川。

 ドライと迷うほど雨量は少なく、ウエットタイヤでのアタックは1回しかできない。タイヤはすぐに温まり、ワンチャンスにかけていた状況で国本に追いつき、結果的に当たってしまった。

「自分が寄りすぎたと思ったので、ミラーを見て国本が来ているのを確認してホッとしました。でも、審査結果がどうなったのか分からず、車両保管のところでクルマを止めカメラを向けられたときも、喜んでいいものかどうか分からなくて……」

 それが、控えめで小さなガッツポーズの理由だった。自身が持つ最多ポールポジション(PP)記録を「24」に更新した記念すべき瞬間にも関わらず、立川は素直に喜べなかった。

2020年スーパーGT第4戦もてぎ ZENT GR Supra 立川祐路
2020年スーパーGT第4戦もてぎ ZENT GR Supra 立川祐路

「あの後、国本に会って『ゴメン、オレが悪かった』と謝りました」

 かくしてZENT GRスープラと立川は、18年の第2戦富士以来となるPPを獲得した。Q1を担当した石浦宏明もダブルイエローでアタックラップを遮られたが、黄旗中にタイムを更新した2台のGT-Rがタイム抹消となったことで、何とか通過。薄氷を踏みながらの予選制覇だった。

「前戦の鈴鹿までは何をやってもダメだったので、ようやく流れが良くなってきたのかもしれないですね」

 鈴鹿では一時トップに立つなどZENT GRスープラは今季一番の速さを示したが、ギヤトラブルでリタイア。あまりの悔しさに、立川はレースを見届けることなくクルマで帰路につき、夜7時前には自宅に着いていたという。

「その日はレースの結果を見たくなかったし、しばらくはレースのことを考えたくなかった。『もう終わったな』と。2、3日経ってようやく気持ちが切り替わりました。クビの皮は完全に切れたと思っていたけれど、ちょろっとつながっていた。明日の決勝はそれを縫合できればいいな(笑)」と、立川は久々に饒舌だった。

 しかし、ドライコンディションとなった決勝直前のウォームアップで、ZENT GRスープラは予選2番手のKEIHIN NSX-GT(17号車)より2秒近く遅かった。そのためチームは、グリッドに着く直前にセッティングを見直した。「このままではビリになってしまう」と、石浦は危機感を覚え、スタートを担う立川が、いくつかポジションを落すことを覚悟した。

18年の第2戦富士以来となるポールポジションを獲得したZENT GRスープラ。
18年の第2戦富士以来となるポールポジションを獲得したZENT GRスープラ。

 上々のスタートを決めた立川は、KEIHIN NSX-GTを駆るベルトラン・バゲットの猛攻をしばらく抑えたが、8周目にオーバーテイクを許した後は大きく離された。その後、セーフティカー(SC)が2回入り差は縮まったが、立川も、28周目にバトンを受け継いだ石浦も、リスタートであっという間に置いていかれた。

「後輪を守るようなセットアップにしていたのですが、SC中にタイヤの内圧と表面温度が下がると後輪のグリップが回復してしまい、リスタートしても上がるまでの3周くらいは全然曲がらなかった。若干ヒート気味になったほうが前後のバランスは良く、後ろは引き離せたけれど、17号車を追うような雰囲気ではなかったですね」

2020年スーパーGT第4戦もてぎ ZENT GR Supra 石浦宏明
2020年スーパーGT第4戦もてぎ ZENT GR Supra 石浦宏明

 石浦は明言を避けたが、関係者の証言をもとに推測すると、ブリヂストン勢の中ではKEIHIN NSX-GTが選択したタイヤが低い路面温度にもっとも合っていたようだ。逆に、ZENT GRスープラを始めとする多くのクルマは、高温下での摩耗リスクや長い走行距離を考え、やや保守的な選択をしていた。KEIHIN NSX-GTのタイヤに関するアドバンテージは、1周0.6秒程度あったのではないかとも言われている。

 そう考えると、ZENT GRスープラは優勝こそ逃したとはいえ、KEIHIN NSX-GTを除けばクルマの仕上がりは悪くなかった。しかし、ZENT GRスープラの村田卓児エンジニアは「ようやくクルマを理解できてきましたが、仕上がりはまだ40点です」と、自己採点はかなり辛口だ。

「迷走していた開幕戦のときと比べたら、エンジニアが頑張ってくれてちゃんと戦えるようになってきていると思います。でも、17号車みたいな尖った速さを出すためには、もっとやらなくてはならない。今回は鳥皮くらいの薄い皮1枚で何とかクビがつながりました」と、石浦は安堵の表情を浮かべた。


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