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投稿日: 2020.10.09 12:33
更新日: 2021.03.25 17:46

スーパーGT:JAF-GTの名が消える? 大転換期を迎えたGT300クラス/GTA坂東代表インタビュー


スーパーGT | スーパーGT:JAF-GTの名が消える? 大転換期を迎えたGT300クラス/GTA坂東代表インタビュー

 8月14日、JAF(日本自動車連盟)は『2021年JAF国内競技車両規則 第1編レース車両規定』として以下の内容を発表した。

■FIAインターナショナルシリーズ スーパーGT適用車両規則

 JAF申請のFIAインターナショナルシリーズとして開催される同シリーズは、FIA国際競技規則第2条4項に基づき、クラス毎にそれぞれ以下の車両規定が適用される。

(1)GT500:シリーズオーガナイザー(公認団体:株式会社GTアソシエイション)が定めるクラス1(class1)
(2)GT300:
1. シリーズオーガナイザー(公認団体:株式会社GTアソシエイション)が定めるGT300(GT300)
2. シリーズオーガナイザー(公認団体:株式会社GTアソシエイション)が定めるGT300MC(GT300MC)
3. FIAグループGT3(FIA-GT3)
※JAF MOTOR SPORTS(http://jaf-sports.jp/)より抜粋

 GT500クラスをクラス1車両が走り、GT300クラスにFIA-GT3車両が走ることはこれまでと何ら変わりない。しかし大きく変わるのは車両規則をJAFが定めるのではなく、『シリーズオーガナイザー』であるGTアソシエイション(GTA)が定める形に変わることだ。さらに、これまでの『JAF-GT300』の名称が消えて、それに相当する規定が『GT300』となっている。

 これによって何が変わるのか、またGTAとしてどのように車両規則を変えようとしているのだろうか。10月4日の定例会見にもあるようにGT500については2023年まで現行規定を維持する方向にある。しかし、GT300についてはマザーシャシー(GT300MC)のエンジン等について今後、新たに選定する必要に迫られており、規則変更にも着手する必要がある。GT300にテーマを絞りGTA坂東代表に話を聞いた。

■規則制定主体がGTAに

──本年のGT300参戦車両30台のうち、現状JAF-GT、マザーシャシー合わせて7台で、残りはFIA-GT3(GT3)です。GTAとしてこの割合が変わり、JAF-GTやマザーシャシーが今後増えることを望んでいるのでしょうか?

GTA坂東正明代表(以下、坂東代表):コストの安さもあってFIA-GT3で参戦するエントラントが増える流れがあった。FIA-GT3はマニファクチャラー(自動車メーカー)がつくり販売したものを、そのまま使用することが前提で、それに対して、ここまで我々がつくり上げてきたJAF-GTはものづくりできる自由度をチームに与えている。マニファクチャラーの立場としては、登録、公認というところからそれを支援するかたちだ。

 しかしJAF-GTをゼロから開発するには、高い技術が要求されてコストも大きい。そこでカーボンモノコック、エンジン、駆動系を用意して、サスペンションや空力に自由度をもたせたマザーシャシーをGTAとしてつくった。

 FIA-GT3を軸としてGT300を考えることは、今後も変わることはなく、SRO(ステファン・ラテル・オーガニゼーション:世界各地の『GTワールドチャレンジ』を運営)が定めるBoP(性能調整)を今後も採用するので、それを前提にJAF-GTやマザーシャシーのあり方は今後、考え直さなければいけない。そうした狙いもあって、プロモーターとしてのGTAが考える安全規定などが盛り込めるように、かねてからJAFに働きかけてきた。

──その成果がこの来季規則ということですね。

坂東代表:そうだ。例えば現行マザーシャシーは規定上スーパーGT以外では使えない。新たにマザーシャシーをつくるのであれば、DMSB(ドイツ・モータースポーツ連盟)などに協力を仰ぎクラッシュテストを実施して、FIA規格をクリアした上で、他カテゴリーにも転用ができるようにしたい。

 そのうえで、そのマザーシャシーをJAF-GTでも使用できる規定として、GT500のクラス1同様にスケーリングを実施して、ホイールベースやトレッド、車高、オーバーハングなど空力に大きな影響を及ぼす部分の寸法を揃えることも考えられるだろう。

 FIA-GT3とおなじカテゴリーで競争するならば、開発を制限するためにアップデートは1シーズン1回に限定して、ローダウンフォース仕様とハイダウンフォース仕様を登録制にすることも考えられる。

GTA坂東代表へのインタビューはスーパーGT第4戦もてぎの現場で実施された。元GT300エントラントとしてJAF-GTへの思いも強いはず
GTA坂東代表へのインタビューはスーパーGT第4戦もてぎの現場で実施された。元GT300エントラントとしてJAF-GTへの思いも強いはず

■マザーシャシーの次期エンジンは検討中

──パイプフレームで継続したいエントラントも多いと聞きます。

坂東代表:共通モノコックとすることでコストを抑制したい。安全性もやはりカーボンが上だ。長期に使用する前提であれば、初期投資も長い時間をかけて回収することが可能となり、海外展開できればさらに可能性が広がる。FIA規格に沿っていればレースカー以外にも使えるかもしれない。GTAとしてモノコックの販売の可能性もある。

──クラス1規定決定の経緯をみても、スケーリングなども含めた新規則制定には技術的検証などにコストと時間が膨大に掛かるように思います。

坂東代表:マザーシャシー規定の制定の実績もあり、クラス1の事例も参考にできるので、そこに大きな障害はない。

──来季2021年はJAF-GTも燃料タンクが100Lから120Lに拡大されると聞いていますが、それ以外の部分は踏襲して、大きく規定変更するのは2022年に向けてでしょうか?

坂東代表:それくらいになるだろう。もう少ししたら具体的に動き出す。

──移行期間を設けて、現行車両も走れるようにしたうえでの変更となるのでしょうか?

坂東代表:普通に考えればそうだろう。マニファクチャラー主体ではなくチーム主体でやるのが日本のレースだと認識している。その前提に立って、将来のモータースポーツ基盤づくりに対して、お客さんからみて面白い競争が成り立つレギュレーションでなければならない。いまの環境に合わせつつ、競争原理も失いたくない。ものづくりの技術を維持、発展させていきたい気持ちもまだある。マザーシャシーもよりスタンダードなものにして東南アジアで広めていきたい。

──そのマザーシャシーのエンジン供給が止まるのでしょうか?

坂東代表:来年までは大丈夫だ。次のエンジンについて供給体制やコストについて検討しなければいけない。国内製でも海外製でもいいと思っている。扱いが難しくないエンジンであることは条件だろう。

──現行JAF-GTではパッケージに大きな差があります。具体的には使っているエンジンがそれぞれまったく違う。スケーリングしても空力を合わせることは難しいのでは?

坂東代表:現行のように1100kgの車両最低重量を基準とすると、FIA-GT3と性能を揃えるのは難しい。1200~1250kgぐらいの車両重量とそれに見合うパワーを条件として、ある程度重量をFIA-GT3と近くすることで過度のタイヤ競争も抑制できるはずだ。もし軽い車両重量のままでやるならば別クラスにする必要があるだろう。別クラスを望むのか、重量を合わせてマニファクチャラーに挑むのか、望むかたちはそれぞれエントラントによって立場があって違うはずだ。
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 このほかタイヤ競争を抑制する手法としてレース距離の見直し(レース距離を伸ばす)やドイツで動きがみられる水素を使う燃料電池車でのレースの導入など、坂東代表のビジョンは中長期まで広がっているようだった。

 坂東代表が語るようにマニファクチャラーにサポートしてもらいつつ、チーム主体で競争原理が失われないレースが、ファンが望むかたちとも一致しているように思う。レギュレーション策定の主体がJAFからGTAに移るのは極めて大きな転換である。この大転換を追い風としてGT300が、さらにエントラントにとってもファンにとっても面白いカテゴリーとして発展することを期待したい。

 モノコックという大物部品の開発があることを考えると、2022年規則制定に向けても残る時間はあまりない。なお、10月9日発売の『SUPER GT file Ver.8』では、クラス1+αの開発状況と技術的戦況分析、JAF-GTとマザーシャシー最新開発状況のほか、これらの課題各項目について、検証を加えている。

SUPER GT file Ver.8
10月9日金曜発売
定価:1222円(本体価格1111円)

『SUPER GT file Ver.8』の詳細と購入はこちらまで
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