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F1 ニュース

投稿日: 2024.05.11 12:19

ノリスの成長を加速させた気鋭のチームメイト。好調が続かなかったリカルドへの懸念【中野信治のF1分析/第6戦】

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F1 | ノリスの成長を加速させた気鋭のチームメイト。好調が続かなかったリカルドへの懸念【中野信治のF1分析/第6戦】

 マイアミGPは今季2度目のスプリント・フォーマットでの開催となり、スプリントでは4番手スタートのダニエル・リカルド(RB)がカルロス・サインツ(フェラーリ)からの猛追を抑えきり4位に入りました。ただ、最後列スタートとなった決勝は15位と、スプリントとは対照的な結果となりました。

 RBのマシンはストレートスピードがそこまで速くはないこともあり、オーバーテイクが難しく、後方からの追い上げという点では戦いにくいクルマではあったと思います。ただ、前のクルマに引っかかって順位を上げられない状況でも、もう少しなにかしらの積極的なアプローチを見せて、もっと戦うことはできなかったのかな、とは感じます。

 おそらくこれは私だけではなく、F1パドックにいる関係者でも同じ思いを抱いた人は少なくはないと思います。というのも、接戦となった際のタイムの出し方、前のクルマへのアプローチの仕方、攻め方を見ると、リカルドのモチベーションを10点満点とすれば、決勝は8点や7点でコントロールしていたように感じました。

 スプリントで4位という結果を残したリカルドですが、決勝では気持ちの緩みとまでは言いませんが、『是が非でも上に行くんだ』といった、スプリントで見せたようなアグレッシブさを見せませんでした。また、これは今回のマイアミGPの決勝に限った話ではありません。

2024年F1第6戦マイアミGP ダニエル・リカルド(RB)
2024年F1第6戦マイアミGP ダニエル・リカルド(RB)

 F1を240戦以上戦ってきたリカルドは、ベテランがゆえにすごくさまざまな意味でコントロールしています。最終ラップに自己ベストをマークしたりしますが、タイヤが残っているのであればもっと前の段階から攻めて、ひとつでも順位を上げてもいいのではないのかな、とか。そんな印象は抱いていました。

 私も含めドライバーやドライバー経験者は、決勝ではタイムの推移を見ます。すると、リカルドがプッシュせず、ペースをコントロールしている様子が見て取れますし、そういった部分を見たRB側が物足りなさを抱いてしまう可能性もあるのではと感じます。

 予選も、前戦中国GPでのペナルティにより3グリッド降格が決まっていたとはいえ、Q3に残った(角田)裕毅と、Q1敗退となったリカルドの差は出てきます。リカルドにモチベーションがまったくなかったとまでは言えませんが、スプリントで見せた強さ、フェラーリを抑え続けた能力の高さを決勝では見ることができませんでした。

 難しい状況下に追い込まれた際のモチベーションの維持の仕方に、ベテランらしさが出てしまっていると言いますか、落ち着きすぎてしまっている印象です。そういったメンタリティの部分はこれから上に行こうとする若いドライバーとの大きな違いだと思います。また、優勝できるトップチームの立場から一度離れてしまったドライバーが、モチベーションを保ち続けることが難しくなるのも、F1に限らず少なくはない話です。

 入賞が難しいレースであっても積極的なアクションを起こすことができるか否かが、今後のリカルドに求められる部分かもしれませんね。すぐ背後にはリアム・ローソンもいますから、このような戦い方が続くとRBがどのような判断を下すのかという部分でも注目が集まると思います。そういったこともあり、マイアミGPはリカルドのいい部分と悪い部分の両面が出たグランプリだったと感じました。

2024年F1第6戦マイアミGP ダニエル・リカルド(RB)
2024年F1第6戦マイアミGP ダニエル・リカルド(RB)

 一方、裕毅はスプリントと決勝でダブル入賞を果たしました。裕毅が素晴らしかったのは、レース中に自分や他車の動きを俯瞰して見るかのように状況を判断し戦うという、ベテランドライバーのような落ち着きを見せつつ、攻めるところは攻める、守るところは守り、タイヤを無駄に使うことなくクレバーな戦いを見せてくれました。

 決勝ではSC導入タイミングの運もありましたが、その前後のラップタイムの刻み方が素晴らしく、最終的にメルセデスのジョージ・ラッセルを抑え切りました。ああいった走りを続けることは運を自分に呼び込むことにも繋がりますし、その運を掴むことも実力のうちです。いろいろな部分で乗れていると感じましたね。

2024年F1第6戦マイアミGP 角田裕毅(RB)
2024年F1第6戦マイアミGP 角田裕毅(RB)

 また、ドライバーズランキング10位に浮上したことで、レース終了後の国際映像でドライバーズランキングが表示される際、1枚目に裕毅の名前が出るようになり、私も嬉しくなりましね。今季のF1はトップ5チームの10台と、中段以降のチームとでは大きな差がありますが、そんななかでランキング10位に入れていることは、ポイントを獲れるときにきっちりと獲りきるなど、やれることをやりきっている結果だと思います。

 今回のRBは持ち込みセットアップの段階からマシンが決まっており、5強の一角のメルセデスと戦えるマシンでした。その決まっている状況でポイントを獲得できるかが、トップ10台に割って入れるかという境目だと思います。今の裕毅の強さはチャンスが来た際に、きっちりとチャンスを活かせる場所に居続けていることです。改めて、裕毅は強くなったと、そう感じることができたレースでした。

【プロフィール】
中野信治(なかの しんじ)

1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS)のバイスプリンシパル(副校長)として後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。
公式HP:https://www.c-shinji.com/
公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24


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