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F1 ニュース

投稿日: 2021.04.29 13:00
更新日: 2021.04.29 17:59

セナ以外まともに操れなかった鬼才の過ち、ウイリアムズFW16【GPカー創刊10周年特別企画Vol.3】

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F1 | セナ以外まともに操れなかった鬼才の過ち、ウイリアムズFW16【GPカー創刊10周年特別企画Vol.3】

 結論から言えば、セナはFW16で1勝も挙げられていない。彼がこのマシンで残した記録は3戦出走とポールポジション3回だけで、完走すらない。ブラジルではスピンアウト、続く英田(現岡山国際サーキット)では1コーナーでクラッシュ、そしてイモラの事故と、どのレースからもセナらしさが見られなかった。何かに焦っているような落ち着きのなさが、その走りにも表れていたように思える。

 彼の死後、何度も繰り返された裁判では結局最後まで事故の真相が導き出されることはなかった。諸説語られてきた中で一番有力視されていたのがステアリングコラムの破損だ。

 セナがステアリングの位置(低すぎた)を好んでいなかったことは、彼の代役として走った当時のテストドライバーであるデビッド・クルサードが証言している。クルサードが初めて参加したテストの現場で、セナの希望に沿うようにクルーたちが改造を施していたという。

 FW14以降のFWシリーズのコクピットは、空力を考慮したデザインでステアリング上部を“風防”で覆うような処理が施されていた(94年途中から禁止に)。セナが好む位置にステアリングを配置するために、まさにステアリングを覆っているモノコックの上部を切り取る改造が施されたとクルサードは説明する。

 そして、あのイモラの現場でもステアリングコラムの改造が行なわれた事実は、検察に問い詰められた末にウイリアムズの代理人が裁判で認めている。

 デイモン・ヒルも語っていたが、前年車と比べてコクピットがタイトになっており、イモラで行なわれたコラムを切断しての改造はドライバーに空間的余裕を与えるためであり、切断部分に径の小さいパイプを挿入して溶接してコラムを延長したのである。開幕前にクルマに一箇所手を加えるとしたら? という問いかけにセナは「ステアリングホイールの位置」と語っていたほど、彼は最初から気に入っていなかったのだ。

 しかし、FW16をデザインしたニューウェイ本人は、ステリングコラムの故障は認めるも、事故の直接原因ではないと自身の考えを述べている。彼はそもそも自らの設計が不十分であったと証言している。結果論であるが、アクティブ時代以上に車高変化の想定幅をずっと広くする重要性を疎かにしていたのだ。

 これはアクティブで成功したウイリアムズだからこそ直面した問題だったといっていい。初めてコースに出た時のFW16は車高変化にあまりに敏感で、セナですら乗りづらいマシンになっていたとヒルは証言している。ヒル曰く、低速コーナーではまともに走れず、高速コーナーではいまにもコース外へ放り出される感じだったようだ。

“ブーメランウイング”とも称された弓なりの形状を施したロワウイングが採用されたFW16
“ブーメランウイング”とも称された弓なりの形状を施したロワウイングが採用されたFW16

 ヒルはあのクルマでセナがミハエル・シューマッハーについていけたことが信じられなかったと語っており、クルサードもあのクルマで3回もPPを獲得したセナの走りはもはや別次元にいたと評している。のちのチャンピオンと通算で二桁勝利するドライバーたちが語るのだから、初期のFW16が抱えていた問題の大きさと、セナだからこそあの位置につけられていた事実が見えてくる。

 だからこそ、超えてはいけない壁をセナは超えてしまったと語るニューウェイは、タンブレロを飛び出したマシンがオーバーステアになっていたと証言する。セナがそれに気付いたのはタンブレロを通過した直後だろうとも。

「アメリカのオーバルレースでは時々見られる現象で、マシンがリヤのグリップを失い、ドライバーがそれを修正しようとするとマシンは直進してしまう。結果、彼のマシンは壁に激突してしまった。おそらく右後輪がコース上のデブリを踏んでパンクし、ステップアウトしたのだろう。私はこの可能性がもっとも高いと思っている」

■ニューウェイの後悔

 エースのセナを失ったことで、チームの士気は下がるようにも思われたが、ニューウェイはFW16が直面する問題を即座に把握し、改良に取り掛かった。実のところこのプロジェクトはセナ存命の時から決まっていたものであり、中盤戦に向けて改良型のFW16Bを登場させることは既定路線にあった。

 ヒルもクルサードも口を揃えてFW16Bが見違えるほどに扱いやすいマシンとなったと評価する。結果的に彼らはベネトンに追いつき、そしてタイトル争いを繰り広げた。ヒル6勝、セナの代役で4戦限定でステアリングを握ったインディカー帰りのナイジェル・マンセルが1勝と、FW16は年間7勝を挙げ、ドライバーズタイトルこそ逃したものの、コンストラクターズタイトルは死守した。ウイリアムズにとってコンストラクターズタイトル三連覇は初の快挙だった。

 それでもニューウェイはいまも悔やみ続けている。マシンの問題を取り除き、立て直してタイトルもひとつは守れたが遅すぎたとことに……。その時すでにセナはいなかったのだから。

開幕3戦で3度のポールポジションを奪ったアイルトン・セナとウイリアムズFW16
開幕3戦で3度のポールポジションを奪ったアイルトン・セナとウイリアムズFW16

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