5月28日に決勝レースが行われた第107回インディ500。優勝したのはジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)だった。アメリカ南部テネシー州のナッシュビル出身で現在32歳のニューガーデンは、すでにインディカー・シリーズタイトルを2017年と2019年の2度獲得しており、今回ついにインディ500ウイナーの称号を手に入れた。
「チーム・ペンスキーでは、インディ500を優勝していなければれっきとしたペンスキーのドライバーと認めてもらえない」とニューガーデンは言う。
ペンスキー入りした年のチームメイトは、エリオ・カストロネベス、ウィル・パワー、シモン・パジェノーの3人で、さらにインディ500ではファン・パブロ・モントーヤも加わった。
ニューガーデンが加入した当時、ウィル・パワーはまだ勝利していなかったが、インディ500の優勝経験者、そしてインディカーチャンピオンたちが集うラインアップに、当時はまだ新入りだったニューガーデンは肩身の狭い思いをしたことだろう。
しかし、ニューガーデンはチーム・ペンスキーに入った初年度、先輩のパジェノーとのバトルを制してインディカー・タイトルを獲得する。
その翌年には、カストロネベスがチーム・ペンスキーの行う他カテゴリーのスポーツカープロジェクトへと異動となり、パジェノーは2021年シーズンから3台体制となった際にチームから放出されてしまった。かくして現在のチーム・ペンスキーは、パワー、ニューガーデン、そして2021年から加入のスコット・マクラフランといった3人のドライバーが所属している。
今後はマクラフランが、“インディ500で勝ってない半人前”といじられるわけだが、一方のパワーはすでに42歳となり、今後のキャリアもそう長くはないだろう。ニューガーデンは、チーム・ペンスキーの看板を背負ってリーダーシップを発揮し、“インディ500”でさらなる勝利を挙げることが期待されるドライバーとなっていくはずだ。
ニューガーデンがインディ500初優勝を飾るまでには、長い時間がかかった。彼は初挑戦から12回目でようやく勝利に手を届かせたが、これは歴代2位タイに並ぶ参戦回数だ。しかし、同じ12回目に優勝したトニー・カナーンにくらべ、ニューガーデンのインディ500でのパフォーマンスは決して高くなかった。
予選でフロントローのグリッドを獲得したのも、トップ3フィニッシュをしたのは昨年を抜いてたったの1回だけ(カナーンはポールポジション1回を含めフロントローは3回、トップ3フィニッシュ2回、多くのリードラップを記録していた)。
今年もニューガーデンの予選順位は17番手と、ペンスキー勢らしからぬ後方グリッドしか手に入れることができなかった。パワーは予選2日目に進んでの12番手、フルシーズン3年目のマクラフランでさえニューガーデンより上の14番手だった。
今回のインディ500では、シボレーエンジンとホンダエンジンの差が縮まった、あるいはシボレー優位に逆転されていた今年、チーム・ペンスキーがマシンセッティングを最適化できていなかったのも事実だ。
その証拠に、エド・カーペンター・レーシング、アロウ・マクラーレン、A.J.フォイト・エンタープライゼスがポールポジション争いを行い、ペンスキー勢はそこに加わっていくことができなかった。
それでもニューガーデンが優勝できたのは、彼らが予選での不利を受け入れて決勝用マシンセッティングに完全にフォーカスしていたからだった。
17番手というスタート位置の不利は、トラフィック内であっても速さを発揮するマシンによって序盤でほぼ無きものとなった。さらに、チーム・ペンスキーのクルーたちによるスピーディなピット作業も、ニューガーデンの順位をより押し上げることに貢献した。
しかし、彼の勝因の中でも最も大きかったのは、混戦下でのアグレッシブなドライビングだった。終盤土壇場に繰り返されたリスタートでは、パト・オワード(アロウ・マクラーレン)とマーカス・エリクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)をメインストレートでまとめて抜いて見せた。
次のリスタートではエリクソンに逆転を許したが、最後の1ラップ勝負となったリスタート後のバックストレッチでエリクソンを抜き去り、メインストレートで前年度ウイナーを振り切って初勝利のチェッカーフラッグを受けたのだ。
マシンが良い時には走りがアグレッシブになるニューガーデン。第107回インディ500での彼はレース前半からリスタートでその豪快な走りを見せており、それが身を結んだ優勝だった。