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F1ニュース

投稿日: 2015.07.21 00:00
更新日: 2018.02.17 09:20

ロータス小松礼雄コラム:ハミルトンの絶妙ピットに新説


 ロータスF1チームで昨年、ロマン・グロージャンを担当していたレースエンジニアの小松礼雄氏。今シーズンはチーフエンジニアに昇格してグロージャン、そしてパストール・マルドナドの2台のマシンでF1を戦います。

 今季の躍進著しいロータスF1チーム。上位3つのワークスチームに次いで、4~5番手を争うパフォーマンスを見せていますが、前戦のイギリスGPではまさかの同士討ちでオープニングラップで2台リタイア……。それでもライバルチームの動向をつぶさに追っていた小松氏。どのようにイギリスGPの週末を振り返るのでしょうか。

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ハミルトンの絶妙ピットに新説
エンジニア視点で見えたタイヤ交換時の真相

 イギリスGP、まずはFP2が大変で、ウチは想定以上にすごくクルマのバランスに苦労しました。興味深かったのは金曜日のプレスリリースで他のチームのドライバーコメントを見たら、(ニコ)ロズベルグが「ひどいクルマだった」って言っていたことですね。ロズベルグってFP2トップですよ。それでもそう言っているということは、金曜日の風の状況と、あのタイヤと、あの高めの路面温度はみんなきつかったんだろうなと思います。どのドライバーも安定して気持ちよく走れるようなクルマは持っていなかったということなんですね。でも、その中でもメルセデスレベルのダウンフォースがあればタイムは出るわけです。

 そもそも、セットアップでダウンフォースの最大値を稼ぐのには限界があります。通常、ダウンフォースを上げるには空力のアップデートパーツを入れますが、それはお金の少ないチームでは簡単ではありません。なので、可能な限りいろいろセットアップで妥協点を探します。例えば、単純に言えばどれだけ速く走れるかというクルマの限界はグリップで決まるわけですが、今のF1では、その限界はダウンフォースでほぼ決まるわけです。でも、仮にその限界が高くても、クルマが運転しづらくなってしまえば結果は出せません。その場合、むしろクルマの限界を下げてでも、運転しやすいクルマにすることで結果が出やすくなるわけです。ダウンフォースのピークを下げればクルマの特性も変わるので、絶対レベルでは低くなるけれども、安定してパフォーマンスを出せることになる場合もあります。

 それでも、今回のシルバーストンでの予選は良くなかったですね。ウチのクルマのパフォーマンスを出し切れたわけではないですが、コンディションが難しかったので、ウチだけでなく他のみんなも力を出し切っていたとは思いません。ウチが持っている力を出せればQ3に行けたけれども、それを出し切れなかったということ自体に問題があると思います。

 ウチはクルマのバランスが全然安定していなく、とても運転が難しいクルマでした。コーナーの進入でも、出口にかけても、しかもコーナーのタイプによってけっこう特性が変わってしまった。そうするとドライバーはいつもより多めのマージンを残さなければいけないのでタイムは出ないですよね。それは風の影響とかタイヤがどう作動しているかなどによるのですが、結局はみんな、同じような問題を抱えながら走っていたと思います。ただ、その状況でも簡単に言えばダウンフォースがあればあるほど、同じ問題があっても症状は小さくなるわけです。

 予選Q1でロマン(グロージャン)のコースインが残り5分の段階でかなり遅かったですが、あれは予定していたわけではありません。実は、1回目のプライムタイヤがなかったんです。予選直前、ウチのオフィスからガレージに向かって歩いて行ったら、タイヤマンに止められました。タイヤウォーマのブランケットが故障したとのことで、実際に見たらロマンがQ1の最初に走る予定のプライムタイヤが完全にダメージを受けていました。いろいろ考えたのですけど、どうしようもない。

 Q1の最初のランでオプションを履いたらQ3進出を最初からあきらめているようなものです。しょうがないからガレージに行かずモーターホームに引き返して、ロマンに話しました。「いいニュースじゃないけど、何もできない。プライムで走れないから、Q1は1回だけオプションで一番最後に走るしかない。マージンがあるから大丈夫だと思うけどすまない、ごめん」って言いました。本当にガレージに行く直前の出来事だったので、どうしようもなかった。それで1回しかアタックに行けない状態だったんです。

 Q1で最初に走るプライムタイヤがダメになりましたが、ロマンはQ1で本当に良くやってくれました。やっぱり予選最初のプライムランというのはP3からQ1に時間が空くから、風とか路面温度とかグリップレベルとかトラックコンディションの変化を判断するのにすごく重要なランになるわけです。なので、プライムでコンディションを確認してから最後にオプションでアタックするのと、ぶっつけ本番でオプションでアタックするというのは全然、ドライバーの気持ちの面で違うんです。特に今回はP3でオプションの感触が良くなかった。それを考慮すると、今回のロマンのQ1は、すごく良くやってくれました。

 あとQ1ではパストール(マルドナド)がターン9で飛び出してタイムが抹消されたりしましたが、あれはダメですね。当然、担当エンジニアからも事前に注意事項として伝えていて、予選日の朝にも彼に言ったし、予選の直前にも言いました。それでもQ1のアタックで飛び出してしまったので、本当に残念でした。

 Q1ですからマックスのタイムではなく、コンマ3秒くらいマージンを残しても全然OKなわけですよ。通常、1アタックなら1周分のガソリンで足りるのですが、一応、万が一に備えて3周分積んで出て行きました。本当は余計な重りになってしまうので積みたくないんですけど、状況によってはマージンが必要なので積みます。クルマにもマージンが必要だけども、特にドライバー、彼の心にもマージンが必要だからです。

 そしたらしっかりとターン9でワイドになって、1周抹消されました、悪い意味で予想どおりです(苦笑)。あれでガソリン1周だけで行っていたらQ1落ちですよ。あり得ないミスです。その時点で、いくらクールダウンしてもオプションで2度目のアタックではタイヤがもうタレているから、僕はほぼQ1落ちだなと思っていたんですけど、ラッキーにギリギリ残りました。16位の(フェリペ)ナッセと100分の1秒差でQ1をクリアしましたが、何回も言いますがやってはいけないミスです。どういう状況でどう走ればいいかを頭でわかっているだけじゃなくて、実践出来ないとこのレベルでは辛いですね。

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「ハミルトンのピットストップのタイミングに新説」
「ウイリアムズに勝てるチャンスはあったのか?」
「ライコネンのピットは止めるべきだった」……etc.