ロータスF1チームで昨年、ロマン・グロージャンを担当していたレースエンジニアの小松礼雄氏。今シーズンはチーフエンジニアに昇格してグロージャン、そしてパストール・マルドナドの2台のマシンでF1を戦います。
今季の躍進著しいロータスF1チーム。上位3つのワークスチームに次いで、4~5番手を争うパフォーマンスを見せていますが、ここ数戦はポイントを獲得するも、またしてもアクシデントが起きてしてしまい……。国際映像でもたくさん映りましたが、現場でエンジニアリングをまとめる小松氏は、どのようにオーストリアGPの週末を振り返るのでしょうか。
今回はブレーキに厳しいサーキットでのエンジニア側、そしてドライバー側の対処の方法、コーストダウンを中心に現場とファクトリーでの連携などをテーマにオーストリアGPを振り返ります。
F1速報サイトでしか読めない、完全オリジナルコラム、第10回目の一部をお楽しみください。
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コーストダウンの目的と使用法
現場とファクトリーをつなぐ“レポーター”
オーストリアGPでは残念ながらいろいろトラブルが出てしまいました。それもロマン(グロージャン)のクルマに集中して毎セッション問題があったのでホントに申し訳ないと思います。FP2のロングランはブレーキ関連のトラブルで走行を切らなきゃいけなかったし、FP3とQ3では油圧系に問題が出ました。そして最後はレースでギヤボックスの問題でリタイアとなってしまいました。オーストリアGPはブレーキがキツイことは分かっていたので、ブレーキをマネージメントできればポイント圏内で帰って来れると思っていましたが、いろいろリライアビリティ(信頼性)の問題が起きてしまい残念です。
前戦のカナダGPでもブレーキが課題でしたが、ブレーキのマネージメントはエンジニア側とドライバー側の両方でするものです。エンジニア側は単純ですが、きちんとブレーキを適正温度まで冷やせる状態でクルマを走らせてやること。しかし、もしクルマ側でブレーキを冷やしきれない場合にはドライバーに対処してもらわなければいけないことになります。
この場合、ドライバーはストレートエンドまでフラットアウトで進んでブレーキを踏む、という普通のアプローチではなく、ストレートエンドで完全にスロットルを戻す、コーストダウンと言う状態からブレーキを踏むことになります。それを何度か繰り返すだけで、ブレーキの温度をかなり下げられます。
このコーストダウンをレース中にどのくらいしなければいけないのか、そしてどうラップタイムに与える影響をどう最小限に留めるかというのが、ドライバーの技術に関わってきます。もちろん、やらなくて済むのが一番いいんですけどね(苦笑)。またこれは燃費にも影響を与えるのでレース前にどれだけコーストダウンが必要なのか、なるべく正確に把握する必要があります。
以前、国際映像で、あるチームのエンジニアがドライバーに「あと50m足りない」とか「100m足りない」とか指示を出していましたが、ウチはその様な指示はラジオではやりません。全てはソフトウェアに組み込まれているので、ドライバーにはステアリングを通して明確に指示が行きます。コーストダウンの技術はドライバーによって上手い下手はありますが、そこまで下手な人はあまり見たことはありませんね。ブレーキの踏み方もそれほど違いが出るわけではなく、単純にストレートエンドでスロットルを戻すしかありません。
他にも走行ラインや前後のクルマとの間隔もブレーキのクーリングに影響が出ます。もちろん、スリップストリームに入っていれば冷たい空気は受けられないし、さらに言えば、その状態ではDRSを使っていることになるわけです。DRSを使えば、最高速が少なくとも10キロは伸びるので、ブレーキの負担はより大きくなります。もちろん、十分なクーリングがあれば、そういったことは考えなくてもいいのですが、ブレーキダクトを大きくすればするほど空力的に効率がよくないので、そこら辺りの兼ね合いが重要になります。
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