ロータスF1チームで昨年、ロマン・グロージャンを担当していたレースエンジニアの小松礼雄氏。今シーズンはチーフエンジニアに昇格してグロージャン、そしてパストール・マルドナドの2台のマシンでF1を戦います。
今季の躍進著しいロータスチーム。上位3つのワークスチームに次いで、4~5番手を争うパフォーマンスを見せていますが、ここ数戦はポイントを獲得するも、またしてもアクシデントが起きてしてしまい……。現場でエンジニアリングをまとめる小松氏は、どのようにカナダの週末を振り返るのでしょうか。
今回はグロージャンのミスを題材に、小松エンジニアが過去に近くで見ていたフェルナンド・アロンソと比較して、ドライバーのメンタル面について考えたいと思います。
F1速報サイトでしか読めない、完全オリジナルコラム、第9回目の一部をお楽しみください。
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心の管理もエンジニアの仕事
グロージャンとアロンソのメンタル
今回のカナダグランプリはなんといってもブレーキが一番心配でした。逆に言えば、ブレーキさえ持たせられれば4番目のチームとしてポイントを獲れると思っていました。ですので、普通はFP1でインスタレーションラップ後に、ニュータイヤ、ニュータイヤ、スクラップド(ユーズド)タイヤで3回のランを比較的軽い燃料で走りますが、今回はFP1の最後のランはガソリンの量を上げて、ブレーキにほぼ一番厳しい状態でデータを取ると決めていました。これが予定どおりにできたので、FP2が途中から雨になりガソリンを多く積んだロングランが出来なくても、ある程度自信を持ってレースに臨むことが出来ました。そこら辺はP1でロングランをしなかったチームに対しては少しアドバンテージになったかもしれません。
予選に関しては、5番手から8番手の中のどこかだろうと予想していましたが(セバスチャン)ベッテル、(フェリペ)マッサのトラブルもあって、今シーズンベストの結果を出せました(5番手&6番手)。今シーズン初めてQ3にオプションの新タイヤを2セット残しておけたところまでは予定どおりだったんですけどね……。Q3の1回目のアタックもまあまあ良かったんですけど、2回目があまり良くありませんでした。
Q3の最後のアタックの時には、ちょっとしたアクシデントがありました。テレビにも映っていましたが、パストール(マルドナド)とロマン(グロージャン)が同時にコースインして、ピットロードでサイド・バイ・サイドになったことです。本当はパストールの方がロマンより20秒早く出ていく予定だったんですけど、ガレージ内でロマンのクルマの作業が早くて、パストールに追いついてしまったんです。そしてロマンの方がやや先にエンジンが掛かってタイヤのブランケットも外し始める段階まで行ってしまいました。そこでクルマを出すのを遅らせることもできますけど、そうするとタイヤの温度もちょっと下がってしまいますし、ロマンは特にそういうところを気にします。なので、そのままロマンを出したところ、パストールの方はエンジンが掛かってからガレージを出るまでの時間がロマン側よりやや速く、結果的に2台同時に出てぶつかりそうになってしまいました。見ている方はチームメイト間の争いということで面白いかもしれませんが、あれは僕のオペレーションのミスです、反省しています。
結果的に予選ではロマンが4番手のボッタスにコンマ1秒以内で負けたわけですけど、そのマージンは細かいところの積み重ねに原因があります。最後のアタックのコースインで2台が重なって、そこでドライバーの集中を妨げたとか、ロマンがパストール先に行かせるために速度を緩めなければならなかったのでアウトラップのタイヤの準備が十分じゃないとか、コース上でミスなど、細かいズレが全部加算されてタイムのマージンになります。もしオペレーションが完璧にできていたら、ロマンがボッタスの前に出れたかもしれない(もちろん、これはボッタスの方は完璧な予選だったと仮定しての話しですが)。そう考えると、たとえ今シーズンのベストグリッドだとしても、今回の予選結果は手放しでは喜べなかったです。
レースではロマンはまずまずのスタートを切り、ポジションをキープ出できたので、フリーで走ることができました。しかし、ペースが全く良くなかったので、これで事実上、ウイリアムズとの勝負はついてしまいました。このペースの悪さは全くの予想外でしたが、理由はだいたい判ったのでオーストリアでは修正したいと思います。パストールはと言えば、オープニングラップの3コーナー手前で前のロマンにちょっと詰まってしまい無難に行ったところを(ニコ)ヒュルケンベルグに大外刈りをくらって、抜かれてしまいました。お陰でヒュルケンベルグにずっと詰まってしまって、ペースの悪いロマンからも16周目まで、さらに7秒ほど遅れてしまいました。
パストールがヒュルケンベルグに詰まっている間、僕らはいくつかの状況を見ながらピットストップのタイミングを考えていました。先ずは当然ヒュルケンベルグより先に入ってアンダーカットするタイミングを逃さないこと。しかしタイヤのデグラデーション(劣化)が予想より低かったので、誰もピットインしない。そうするとウチが最初にピットインすれば、後ろでまだ入っていないザウバーやトロロッソに詰まってしまう可能性がある。さらに後ろから来るマッサはリバースストラテジーなのでレース終盤にオプションで追い上げてくるのは判っています。これに対処するにはレース終盤にタイヤを良い状態で持っていかなければならないので、必然と第1スティントを引っ張らざるをえない。それに加え、ベッテルが7周目のすごく早い段階でマッサに詰まったので見切りをつけてピットインして、怒涛の如く後ろから来ていました。
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「ロマンの接触と、本人の反省」
「アロンソのメンタルも強くはなかった」
「オーストリアGPはロータスのチャンス」……etc.