ロータスF1チームで昨年、ロマン・グロージャンを担当していたレースエンジニアの小松礼雄氏。今シーズンはチーフエンジニアに昇格してグロージャン、そしてパストール・マルドナドの2台のマシンでF1を戦います。
 
 これまで何度も入賞圏内に入りながら、トラブルやアクシデントに遭ってきたロータスF1チーム。第3戦中国GPでは見事、7位に入り、今季初入賞を果たしました。現場でエンジニアリングをまとめる小松氏は、どのように上海の週末を振り返るのでしょうか。

 F1速報サイトでしか読めない、完全オリジナルコラム、第5回目の一部をお届けします。

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小松礼雄コラム 第5回

決勝戦略の考え方、ドライバーの不満

 中国GPはフィニッシュするべきところでフィニッシュしてようやくポイントを獲ることができ、まずはホットしています。すべてミスなくきちんとできればその位置に行けるということは判っていましたが、当たり前のことを当たり前にやるというのは簡単ではないこともありますね。

 ウイリアムズもきちんとクルマの性能どおりの5ー6位で終えています。外から見れば簡単なレースのように見えますけど、クルマを壊さない、予選もちゃんと結果を出す、そしてレースでもドライバーもミスをしない、ピットストップもミスがない、とちゃんと揃えて来ました。良い仕事をしましたね。

 今回のレース、ウチのチームとしての戦略という観点ではとてもうまく行きました。そのレース戦略という部分が、今年はチーフレースエンジニアである自分の仕事でもありますので、今回はその基本的な考え方をお伝えしたいと思います。

 レースに行く前の段階で、まずは去年のデータから何回のピットストップになるというのが想定できます。プライムとオプション、どちらのタイヤをどう使用するのか、どっちのタイヤがレースのメインになるのかを過去のデータを元に予測を立てて臨みます。

 どちらのタイヤがメインになるかは、2つのスペックの速さの差とデグラデーション(タレ)の差で決まります。その上でオプションタイヤが何周どのくらいのタレで持てば、例えば2ストップで行けるのかということを計算します。

 実際に金曜日に走るときには、ドライバー間でロングランするタイヤのスペックを替えて、タイヤのタイム差、限界までに可能な周回数などのデータを獲ります。今回良かったのは、金曜日にウチの2台が信頼性の問題もなく予定どおりのプログラムをこなすことができたことです(開幕2戦ではこれができませんでした)。

 これで、きちんと両方のタイヤのデータを取ることができました。でも、実際に取れたデータはサーキットに行く前に予測していたよりも悪い状況でした。想定していたピットストップ回数でタイヤが持つことは判りましたが。

 パストール(マルドナド)が走ったプライムのペースは悪かったし、ロマン(グロージャン)のオプションタイヤのタレ方も悪かったのです。それでも金曜日の夜にいろいろとデータを見て、その理由が大体分かったので、ある程度の自信を持って、その対策を金曜日の夜に施しました。

 FP3でそのセットアップ変更を試して走りましたけど、1時間のFP3ではロングランはできないのでデグラデーションは見ることはできません。確認できることは、プライムとオプションのペースの差くらいです。厳密に言えば、ロングランをしようと思えばもちろんできます。でも、金曜夜の対策にある程度の自信があったのでP3は予選の準備に専念することにしました。

 こういう状況でどれくらい自信を持ってセットアップを合わせられるかどうかというのは、レースチームの能力にかかってきます。僕らの判断ではデグラデーションは金曜日ほど悪くはならないという自信があったので、レース戦略は他チームの平均値を元に組み立てました。結果的にそれが上手く行きました。

 レースがスタートしてからは、スタート後の順位、前後に誰がいるかで戦略が変わってきます。今回のレースでウチが一番心配していたのは、前のグリッドにいる(ダニエル)リカルドに詰まってしまうことです。当然、前に詰まるとウチのペースが出せないから、非常に困ります。

 今の時点でウイリアムズに勝つのが厳しいのは分かっているので、彼らが離れて行っても仕方がないけれども、前の遅いクルマに詰まるということは後ろを離せない訳です。もしそうなったら、1回目のストップでリカルドをジャンプ、つまり、アンダーカットしなければいけなくなります。

 しかし当然ですが、次のスティントで使うタイヤの周回数に限界があるので、1回目にどこまで早くピットに入れるかというのは、それで決まってきます。そうすると動ける幅がどんどん狭くなっていきます。なるべく早くピットに入れたい。

 でも、ここで入ってリカルドをアンダーカットして前に出れたのはいいけど、2スティント目の途中でタイヤが終わってしまってまた抜かれるということになっては元も子もありません、そこが心配でしたが、あの第1スティントではリカルドがスタートで出遅れて、パストールも最初ザウバーの2台の後ろでしたが上手く抜いて、ウチのロマン(7番手)、パストール(8番手)がフリーエアで走ってくれたのが、大きなアドバンテージになりました。

 こうなるとウチのペースで走れるだけでなく、後ろの動きもカバーすることが比較的楽にできます。ですので、戦略的にもまったくリスクを取る必要がなくなります。

 第1スティントは2台とも、セットアップ変更が予測したとおりの作用をして金曜よりはタイヤのタレも少なく理想的なペースで走ることができました。実際には予想よりもほんのちょっと、0.03秒/1周くらいデグラデーションが良かったんです。ですので、予定よりも1周ほど最初のスティントを伸ばすことができました。

 当然、第1スティントを伸ばせれば、第2、第3スティントでタイヤが終わってしまうリスクを少なくすることができます。また、第2スティントはプライムで行くことを想定していましが、第1スティントのオプションのタイムを見て、プライムも計算どおりで行けることがわかりました。

 1回目のピットストップのタイミングは、第1スティントで履いたオプションタイヤの保ち方もありますが、あとはすぐ後ろのザウバーがピットインするタイミングと、ウチがピットインした後にどこに出てくるかで決まります。今回はまずザウバーが動きました。それに対応してうちもピットインしなければいけませんが、ここで普通なら前にいるロマンを先に入れます。

 しかし今回はパストールを先に入れました。なぜかというとロマンが入るのを待って、その次の周にパストールを入れた場合、彼はまだストップしていないペレスの後ろになってしまう可能性が高かったからです。

 先に入れたお陰でパストールは予定どおり、ペレスの前でコースに復帰しましたが、面白くないのはロマンです。結果としてパストールにアンダーカットされることになり、ロマンのピットストップがパストールのそれより0.8秒遅かったこともあり、ピットストップ後に順位が逆転してしまったからです。当然ロマンは早速無線で文句を言ってきました。

続きはF1速報有料サイトでご覧ください
「グロージャンへの公平な措置、開発スケジュールの現状」

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