ロータスF1チームで昨年、ロマン・グロージャンを担当していたレースエンジニアの小松礼雄氏。今シーズンはチーフエンジニアに昇格してグロージャン、そしてパストール・マルドナドの2台のマシンでF1を戦います。
酷暑のマレーシアでも、予選Q3に進出するなど昨年とはまったく異なる速さを見せたロータスF1チーム。現場でエンジニアリングをまとめる小松氏は、どのようにマレーシアの週末を振り返るのでしょうか。
F1速報サイトでしか読めない、完全オリジナルコラム、第4回目の一部をお届けします。
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小松礼雄コラム 第4回
Q2のハプニングを乗り越えて~予選の戦い方
第2戦のマレーシアGP、ロータスF1チームは残念な結果になりました。予選のスピードとかレースペースを考えれば、きちんと走っていれば7番手でポイントが取れたはずで、トロロッソに勝てたか、少なくともいい勝負ができたと思います。そうなればトップ3の下でフィニッシュするという目的達成だったのですが……0ポイントで帰ってきたというのは非常に残念でした。
今回も金曜日からいくつかリライアビリティ(信頼性)の問題に悩まされました。今回のフリー走行の目的は新しいエアロパーツのデータ収集です。それでもパーツが2台分、きっちりと揃っていたわけではないので、たとえばフロントエンド回りのことはロマン(グロージャン)のクルマ、リヤエンド回りはパストール(マルドナド)のクルマでと決めて、センサー類もすべて割り振ってセットアップのデータ収集を行いました。
ただ、P2ではロマンには(ルイス)ハミルトンと同じエンジン側の問題が起きてロングランができませんでしたし、オプション(ソフト側)タイヤで走ることもできなくて、そのデータ不足はやはり日曜日響きましたね。
今回のマレーシアは予選の雨がひとつ、大きなポイントになりましたので、どのタイミングで2台をどうアタックさせたのかなど、予選の進め方をチーフエンジニアとしての立場からお話ししたいと思います。
まずは予選に向けてのストラテジーを考えるわけですが、それは基本的に僕の役目になります。もともと僕は予選が大好きでして(笑)、純粋に速さを競う予選は、やっぱりフォーミュラカーの醍醐味ですよね。その大好きな予選で、しかもマレーシアのような読めない展開になると、それはもう、ものすごく楽しくなります(笑)。
でも、楽しかったと言えるのも、それはマレーシアの予選を失敗しなかったから言えること。セッション中はもう、限られた短い時間の中で集中力とかプレッシャーとか、いろいろなものを抱えながら一秒、一瞬を競っています。でも、それこそが醍醐味。だから予選は大好きなんです。
予選の基本的なランプラン(どのタイヤをいつ使うか、何周走れるのか、どのタイミングでピットに入る、そしてピットから出るのか)は、昨年までのデータを元に計算するので大体現場に行く前からわかっています。これを金曜日のデータを元に補正をかけます。そしてP3後、予選前のミーティングで最終確認をします。
基本的に金曜日の夜の時点で大体、自分たちがどの位置にいるかはわかります。ですので、Q1を通るためにオプションを使わなきゃいけないとか、Q2で2回ニュータイヤを使わなきゃいけないなどは事前に決まっています。金曜日の時点では一発の予選シミュレーションはやっていませんが、燃料搭載量を補正することで予選のポジションが把握できます。
その金曜日のデータを元に、最後に土曜のFP3後に補正をかけますけど、P3から予選の間は2時間しか間がありません。ですので、そこでプランを変えることはほとんどありません。FP3を終えてバタバタしているようだと、金曜日の想定を見直す必要があるということになります。ですので、金曜日の走行データを見て、自分たちの位置がどこにいるかをきちんと把握できていないとダメですね。P3で驚いて補正をかけているようじゃダメです。
今回のマレーシアで言いますと、金曜日終わった時点でウチのチームがQ3は残れる可能性は本当にギリギリでした。もちろん、マレーシアですから予選は雨の可能性が高いので、現場に来る以前、そして来てからもその想定は何度もしていました。それで無事Q1を2台ともクリアしてQ2に向かいますが、Q2は雨が振ることが確実な状況でした。
ですが、クルマとしては予選Q1が始まった時点でセッティングは大きくは変えられません。予選でピットレーンに出た時点で、そこから変えることができるのはフロントウイングの角度、ブレーキバランス、クーリング(天候が変わった場合)のみです。それ以外はレギュレーションで決められていて、変えることができないのです。ですので、Q2の雨のセッションもエアロバランスを調整するくらいで車高も変えられません。もちろん、ウエットの時はタイヤをウエットタイヤに替えますので、実際の車高は上がっています。
また予選セッション中は時間が短いだけに、チームの方針は、ほぼひとりが決めなくてはいけません。ウチのチームでは今年は僕が全部、実質的にはセッション中のタイミングなどをオペレーションすることになります。予選中にプランを変える場合は見直したタイミングを僕の上司(トラックサイドオペレーションダイレクターのアラン・パルメイン)に伝えて、彼が最終的にレースエンジニアに伝えます。基本的な組織の伝達経路はレースと同じようにしないと混乱するので、それはきちんと守られます。
ロータスの2台は順調にQ1をクリアしましたが、Q2ではハプニングが起きました。他のチームはどうだったのか分からないですけど、最悪なことにウチのチームはQ1とQ2の間にFIAからのメッセージが全部シャットダウンしてしまったんです。ですので、雨の気象情報、レーダー情報がなくて、Q2で雨がいつ降り出すかまったくわからない状況でした。
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「ウエット予選の難しさ。アタックタイミングをどう合わせるか」