モータースポーツの「歴史」に焦点を当てる老舗レース雑誌『Racing on』と、モータースポーツの「今」を切り取るオートスポーツwebがコラボしてお届けするweb版『Racing on』では、記憶に残る数々の名レーシングカー、ドライバーなどを紹介していきます。今回のテーマは、トムス83Cです。
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2021年6月13日に決勝が行われたWEC第2戦ポルティマオ8時間レース。このレースはトヨタにとって『世界レベルの耐久レースシリーズ』にデビューしてから100戦目という、記念すべき節目の1戦でもあった。
トヨタの100戦への歩み、その第一歩は1983年に富士スピードウェイで行われたWEC JAPANに参戦した『トムス83C』という1台のマシンからスタートした。
トムス83Cは、童夢がル・マン24時間レースに参戦するために製作したCカー『RC83』と共通のシャシーを持つ兄弟車として誕生した1台である。83CとRC83は、フロントおよびリヤカウルのデザインが異なっており、さらにエンジンもRC83はフォード・コスワースDFLだったが、83Cはトヨタの4T-GT改エンジンを搭載していた。ここが2台の大きな相違点であった。
トムス83Cに搭載される4T-GT改エンジンは『WRC用エンジンの実車開発』という名目のもと、トヨタから供給を受けたエンジンだったが、スロットルバルブ、エキゾースト、ターボチャージャーなどがトヨタによってグループCカー用にモディファイされたものだった。
こうして誕生したトムス83Cは、1983年7月に行われた全日本耐久選手権の第3戦、富士1000kmレースでデビューした。初戦はリタイアに終わったものの、2戦目の鈴鹿1000kmではトラストの走らせるポルシェ956から3周遅れながら総合2位でフィニッシュを果たした。
そして、トムス83Cにとって初の世界選手権戦となるWEC JAPANへと挑んだ。WEC JAPANでは、チーム・イクザワにも83Cが供給され、2台がエントリーした。
残念ながらイクザワの83Cは練習走行中に炎上し、修復不可能となってしまったが、メインカーであるトムスの83Cは、予選で8番手グリッドを獲得。決勝では、アクシデントでスペアのフロントカウルを使い切ってしまい、童夢RC83のフロントカウルを借用して走るというハプニングもあったものの、一時はポルシェと5番手争いを繰り広げるなど好走した。
最終的にはトップが残り4周というところでタイヤバーストによりメインストレートでクラッシュを喫し、これによってレースが赤旗終了となってしまったため、総合9位という順位で完走扱いとなった。
波乱のレースながらも初の世界戦で完走を果たしたトムス83Cは、1984年の序盤戦まで実戦で使用された。その後、Cカーレース活動の主力はブランニューマシン『84C』へと移されたのだった。
トムスは、1982年にもトヨタ宣伝部からトムスの現・取締役会長である舘信秀がわずかな予算とエンジンの供給を受けて、童夢とともに生み出したCカー『トムス童夢セリカC』でWEC JAPANに参戦した経緯がある。
これこそ第一歩と数えるべきなのでは……とも思えるが、この時はまだトヨタ宣伝部から「セリカの格好に似ていること」という条件があり、トムスと童夢が思うような本格的なCカーではなく、エンジンもグループC用にチューンされたものではなかったことからも、容姿の条件がなくなり、WRC用とは別物のグループCカー向けのエンジンが供給されはじめた83Cこそが、本格的なスタートと言えるのだろう。
トヨタにとって初の世界選手権戦は、日本で行われた1戦に参戦したのみであったが、しかしこれが途中の休止期間を挟みながらも現在の『GR010 HYBRID』まで脈々と続くトヨタプロトタイプカーレースの歴史が始まった瞬間だった。
