短いサマーブレイクを挟んでシーズン終盤戦を迎えた2022年ERCヨーロッパ・ラリー選手権第7戦は、チェコ共和国の名物ターマック戦『バウム・チェコ・ラリー・ズリン』が8月26~28日に開催された。
週末を通じて悪天候に見舞われた難易度の高いステージ群に対し、地元出身の大ベテランで古典的“ターマック・スペシャリスト”と呼ぶに相応わしいヤン・コペツキー(シュコダ・ファビア・ラリー2エボ)が、ホームイベントで圧巻のドライビングを披露。チェコ・マイスターによる典型的かつ支配的なパフォーマンスにより、記録的な10回目の勝利を収めている。
この第7戦の開催を前に、年間ランキングで2位につけていたシモーネ・テンペスティーニ(シュコダ・ファビア・ラリー2エボ)の最終2戦へのエントリーが見送られたことから、序盤からシリーズを牽引してきたエフレン・ヤレーナ(シュコダ・ファビア・ラリー2エボ)の新チャンピオン獲得が決まった2022年のERCシーズン。
そんな状況で迎えた第7戦の金曜予選ステージでは、チャンピオンシップ挑戦権のない地元スペシャリストが躍動。シュコダのエースが午前から最速タイムを叩き出すと、スタート順選択とズリン市街中心部でのセレモニアルスタートを経て、金曜夜のオープニングSSSでもステージ制覇を飾り、オーストリア出身のサイモン・ワグナー(シュコダ・ファビア・ラリー2エボ)や、同じくチェコが地元のフィリップ・マレシュ(シュコダ・ファビア・ラリー2エボ)らを抑え、早くも主導権を握った。
「この種のステージでは、あまり多くを獲得することはできないが、多くを失う可能性はあるんだ」と、踏切越えも設定されたイベント初日の夜を終えたコペツキー。「僕らはコンマ1秒でも見つけ出そうとしているけれど、それはスーパースペシャルステージ(SSS)におけるゲームの一部に過ぎない。ベストを尽くしたし、最速だったのは良かったけれどね」
明けた土曜午前のループも不安定な天候が続くと、雨量とグリップレベルが1km単位で変化する中、40歳のベテランはミディアムコンパウンドのカットスリックを装着。これが裏目に出て、SS2ではウエットタイヤを装着したライバルに遅れ5番手タイム。総合3番手に後退する。
しかし続くSS3で爆発的な瞬発力を見せたコペツキーは、18.4秒差をつける圧巻のベストタイムで早くも首位の座を奪い返し、その後も3回のSSベストを記録して34.6秒差で本格ステージ初日を終えた。
それでも「愚かなミスを犯したくないから、ペースを少しコントロールした。2回目のパスでは、午前中よりグリップがさらに悪いセクションがいくつかあったからね。そういう場所では、3速と4速でもアンダーステアが出る」と、余裕のコメントを残したマイスター。
明けた日曜も不安定な天候がドライバーを翻弄し、大雨と水浸しのターマック路が続いたかと思えば、次のステージではドライコンディションと青空が広がるワインディング……そしてインカットで掘り起こされた土と泥が不意にグリップを奪う難しい条件が続く。
この一貫性のないラリーステージで“Mr.コンシスタント”を貫いたコペツキーは、リスクを冒さず、ミスを犯さず、リードを維持することに専念。この日は一度もステージベストを記録することがなかったにも関わらず、後続のライバルをさらに引き離し、37.5秒の差をつけてフィニッシュランプへ。自身のホームラリーでキャリア10回目の優勝を手にしてみせた。