2021年限りでレーシングドライバーを引退した、3度のル・マン・ウイナーにして4輪初の日本人世界選手権覇者、中嶋一貴。昨年末、その引退発表と同時にトヨタGAZOO Racing・ヨーロッパ(TGR-E)の副会長に就くことが明らかにされ、“異色のセカンドキャリア”を歩むこととなった。
1月の就任以来、一貴副会長はドイツ・ケルンをベースにWEC世界耐久選手権やWRC世界ラリー選手権の現場に赴き、さらにその合間には日本を4往復するなど、多忙な日々を送っている。
副会長としての新たな仕事内容などについて聞いた前編につづき、この後編ではWECチーム代表を兼ねる小林可夢偉や、今季最高峰クラスにデビューした平川亮、さらにその先のドライバー育成などについて、話を聞いた。
■「自分をコントロールできている」平川亮
──今季から小林可夢偉選手がWECチーム代表を兼任しています。一貴さんから見て、彼の働きぶりや、それによってチームが変わった部分など、どう見ていますか?
一貴副会長:やっぱり、可夢偉は自分が「こういう風にしたい」ということを結構はっきりと表現するタイプなので、それはチームにとってはすごくいい影響があるんじゃないかと思います。チームのメンバーみんなが、「あ、何かいままでと変わったな」と感じているんじゃないでしょうか。
WECチーム内部だけでなく、可夢偉はいろいろな役割を背負っているので、よくこんなにいろんなことができるなぁと感心して……るだけじゃダメなんですけど(笑)、僕がサポートできることはしたいなと思います。本当にすごいな、と思いますね。
──おふたりで膝を突き合わせてシリアスに話す、という機会もありますか?
一貴副会長:ドライバーのときよりは、あるかもしれないですね。チームのことについてどうこうというよりは、それ以外の部分のことですが。やはりそういう機会は、ドライバーのときより増えているかもしれません。
──今季デビューを飾った平川亮選手については、ここまで4レース(※取材は富士戦前に実施)をどう見ていますか。
一貴副会長:いやぁ、どう思います? よく頑張っていると思いますよね。他のドライバーに比べて経験が少ない部分があるので、レースウイークが始まるたびにチームメイトを『追っかけていく』感じはあるのですが、ちゃんとレースまでには同じレベルに到達してきますし、とくにモンツァなどではレースに強いところも見せてくれました。だから、日本で平川が走っている印象そのままを、世界でも表現してくれたと思います。最近は僕もあまりアドバイスすることはなくなったかなという気もしますね。ル・マンが終わってからは、とくにそういう感じです。
──ル・マンでの平川選手は、どうでしたか?
一貴副会長:やっぱりル・マンのときは、ちょっと普段見ない姿ではありましたよね。妙にテンションが高かったりとか、「緊張してるんだろうなぁ」と。まぁ、そりゃあしますよね。当たり前のことではあると思うので。ただ、そういう中でもちゃんと自分をコントロールできるドライバーだと思いますし、実際にそのとおりやってくれました。
ル・マンも結構シビれる場面で走りましたが、7号車に対してもまったく遜色なかったですし、モンツァではそれをさらにワン・ステップ、進めてくれた気がしています。