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コラム ニュース

投稿日: 2021.04.28 19:36
更新日: 2021.04.29 20:57

【トムス東條のB型マインド】第1回:エンジンとタイヤから考察する開幕戦と、エンジニア勢“ひとこと紹介”付きトムス体制解説

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コラム | 【トムス東條のB型マインド】第1回:エンジンとタイヤから考察する開幕戦と、エンジニア勢“ひとこと紹介”付きトムス体制解説

 スーパーGTのGT500クラスを始め、国内の各カテゴリーを最前線で戦うトムス。そのチーフエンジニアである東條力氏が、オートスポーツwebにコラムを寄稿してくださることになりました!

 エンジニア視点でのレース分析に興味がある方はもちろん、エンジニアという職業やその仕事内容を知りたいという方、さらには「強い組織」の作り方に興味がある方に向け、長年トムスでエンジニアを務めてきた氏の経験をふまえ、(少しのユーモアを交えつつ)存分に語っていただく予定です。

 ちなみに連載タイトルは、東條氏がエンジニアに必要な資質のひとつとして挙げる「血液型はB型であること!」より。

 まず初回は、スーパーGT開幕戦の所感と、2021年のトムスのエンジニアリング体制紹介からどうぞ!

 * * * * * *

 オートスポーツweb読者みなさん、こんにちは。トムスレーシングのチーフエンジニア・東條です。スーパーGTのレースを中心に、インサイドレポート的な所感と、レースエンジニアリング全般について、お話ししていこうと思います。

■Rd.1岡山レビュー「開幕戦の結果=今年の勢力図」ではない理由

 オフシーズンのテスト結果から、厳しいシーズンになると感じていました。ハイダウンフォースサーキットの鈴鹿や岡山では、NSXがとても速く安定していました。富士公式テストではGT-Rのトップスピードが上がり、明らかにラップタイムが速くなりました。

 ところが、晴天に恵まれた岡山の開幕戦では、BS(ブリヂストン)勢のGRスープラが予選トップ5を独占し、6台すべてがQ2へ進出することができました。正直なところ、拍子抜けのような感覚がありました。そして、レースにおいてもGRスープラは強く、トップ4独占の好成績で終えることができました。

 しかし、単純に2年目のGRスープラは速いということではありません。私はその理由を以下のように捉えています。

1)エンジンの適合が素晴らしかった
2)タイヤのマッチングが良かった

1)エンジン
 昨年、NSXの予選パフォーマンスでの向上幅が、GRスープラを上回っていました。燃料リストリクターによるリーンバーン下でパフォーマンスを追及するNREでは、ノックによるダメージの恐れがあります。年間2基と決められた規則で、常時ハイパフォーマンスモードでの運用は非常に困難です。しかし、TRDはそれを高次元で両立させてきました。

 今回の結果を踏まえ、ライバルは直ちに改善を加えるはずです。NREのハイレベルな戦いは、シーズン中も続くと考えます。

2)タイヤ
 レースウィークは快晴で、大変穏やかでした。空気はそれなりに冷たく、気温は10~19度で推移しました。しかし、4月の岡山にしては路面温度が高く、予選・決勝では32~34度まで上昇、事前の想定温度上限を上回りました。

 これで何が起こるのでしょうか。例えばタイヤのコンパウンドをソフト(S)・ミディアム(M)・ハード(H)と単純に温度レンジで3段階に分けた場合、それぞれ最適な温度レンジで性能を発揮します。言い換えれば、レンジが合わないと充分に機能しないことになるのです。

 すべてのレンジを持って来れば良いのでは? となりそうですが、そうはいきません。なぜなら、タイヤの持ち込みセット数は最大6セットと決められているからです。

 バックアップも含めてレースを確実に戦うという観点から持ち込みタイヤスペックを考えた場合、2スペックを3セットずつ、計6セットの持ち込みが鉄板であると私は考えます。

 戦略的に3スペック持ち込むことは可能です。しかし公式練習で充分な性能比較と確認をできないまま予選やレースへ投入するスペックが現れてしまう確率が高くなり、タイヤに合わせたエンジニアリングというよりは、出たとこ勝負になりがちだからです。

 開幕戦、トムスの持ち込みスペックは、36号車(au TOM’S GR Supra)、37号車(KeePer TOM’S GR Supra)ともにMとHを3セットずつ。公式練習の結果から、2台ともHで予選~決勝を戦いました。それでも適正温度を超えていましたので、決して順風満帆ではなかったのです。対するライバルメーカー勢は、SやMの持ち込みが主流で、温度レンジが合わなかったのではないか? というのが私の想像です。

 以上の1)および2)から、開幕戦の結果が今年の勢力図かといわれると、まったくそんなことは無いのです。

 さて、レース展開はご存じのとおり。第1スティントは37号車と14号車(ENEOS X PRIME GR Supra)のマッチレースにやや遅れて36号車が追走する形に。

 ピットウインドウ・ミニマムでSC介入が有りそうなアクシデントが発生したため、トムスは2台とも即座にピットへ呼び込みました。SC介入まで2周程の時間を要した事もあり、この間にGT300を含めほぼ全車がピットレーンへなだれこみ、一時非常に危険な状況となりました。

 当初予定していた停車位置では37号車の作業ができないと判断したチーフメカは、直前で停車位置を切り替える好判断をしました。これがなかったら傷口はさらに大きく開いたはずです。しかし、それに100%対応する時間的余裕が足りず、作業時間が多くかかってしまいました。ギアがニュートラルにスタックするトラブルもあって37号車は4番手へ。その後3番手へと上がるのですが、先行する2台とは大きく離れてしまいました。

 SC明け、先頭は14号車、次いで36号車。ここから歴史的な好バトルが始まりました。坪井選手の36号車は圧倒的にフットワークが軽く、14号車はペースの上がらないマシンで山下選手が完璧な防御。正に息をのむ展開、素晴らしいマッチレースとなりました。

 次戦は富士500km。気温差の大きな季節ですから、ここでもタイヤ戦略が重要なカギとなりそうです。

レース後半、名バトルを展開した2台のGRスープラ
レース後半、名バトルを展開した2台のGRスープラ

■次のページへ:6名で7台。トムス・エンジニアリング体制のツボ


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