話題の新車や最新技術を体験&試乗する『オートスポーツWEB的、実践インプレッション』企画。お届けするのは、クルマの好事家、モータージャーナリストの佐野弘宗さん。
第7回は、アルファロメオのDセグメントスポーツセダン『ジュリア』のSUV版、ステルヴィオを取り上げます。
日本に上陸したのは、2019年2月18日。市場でのSUV人気は継続しているものの、いまいちその流れに乗り切れていないステルヴィオ。でも、ステルヴィオにはドイツ勢や日本勢にはない、アルファロメオ独特の『美学』が込められています。
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■FCAのカリスマ直轄で開発。ステルヴィオに課せられた使命
ステルヴィオは、アルファロメオ(以下、アルファ)のDセグメント・スポーツセダンであるジュリアの背高SUV版だ。
ステルヴィオとジュリアの2台は、“プロジェクト・ジョルジョ(以下、ジョルジョ)”と名づけられたプラットフォーム(=基本骨格設計)を共用しつつ、ほぼ同時並行で開発された。
ジョルジョ最大の特徴は、フィアット(当時)傘下に入ってから約30年で初めて、アルファのためにゼロから専用開発された(という触れ込みの)プラットフォームをもつ量産商品ということだ。
現在のフィアット・クライスラー・オートモビルズ(FCA)は、アルファ以外にも、フィアットやランチア、マセラティ、そして旧クライスラー系のジープやダッジなど多くのブランドを抱える。
アルファは1910年に創業されて、第二次世界大戦前からモータースポーツで活躍した名門だ。そんなアルファは中高年マニアの間でいまだに知名度が高く、うまくカジ取りをすれば、メルセデスやBMWに対抗する高級車ブランドになれる……とは、フィアット時代からずっと考えられてきたことだ。
事実、FCAはこれまでも手を変え品を終えてアルファのテコ入れを図ってきたが、一方で、8Cや4Cなどの少量生産スポーツカーを例外とすれば、フィアット傘下で生み出されたアルファはすべて、大衆車と同じエンジン横置きFFレイアウトをベースとしてきた。
アルファ独自に4WDを前面に押し出したり、サスペンションのみを専用品にしたり、他社と共同開発した高級プラットフォームを使ったり……といった試行錯誤はあったものの、フィアット傘下以降のアルファが、ビジネス的に大成功したとはいいがたかった。
日欧ではそれなりに売れたこともあったが、高級車の最重要市場である北米には、何度挑戦してもうまくいかなかったからだ。
そんななか、FCAの将来にとって“アルファの復権”が必須……とあらためて考えた故セルジオ・マルキオンネ氏が、キモ入りでスタートさせたのがジョルジョだった。
マルキオンネ氏とは2004年に当時のフィアットグループCEO(最高経営責任者)に就任後、クライスラーを完全子会社化してFCAとなってからも陣頭指揮を執り、2018年に現役CEOのまま急逝したカリスマ経営者だ。
ジョルジョでは、現場が余計な雑音に悩まされずに“理想のアルファ”を開発できるように、あえてCEO直轄の極秘プロジェクトにしたとも聞く。
ジョルジョはメルセデスやBMWに真正面から対抗できる縦置きエンジンのFRレイアウト(とそれベースの4WD)を採用している。歴史的に見れば、これは約30年来の悲願達成ということだ。
また、現在の自動車産業では間違いなく、セダンよりSUVのほうが売れる。ステルヴィオの開発チームも同時並行開発となったジュリアのそれとは対照的に、あえて平均年齢30代の若いエンジニアで固められたという。
こうした事実ひとつにも、ステルヴィオにかけられた期待の高さがうかがえる。