更新日: 2024.02.29 09:58
さらなる記録に挑む。「エンジンの高負荷領域を今までより多く」角田哲史LPLが語る今季のホンダ/HRCパワーユニット開発コンセプト
F1開幕を週末に控えた2月27日、ホンダ/HRCのF1開幕前取材会が栃木県さくら市のHRC(ホンダ・レーシング)Sakuraで行われ、ホンダF1に関わるHRCの首脳陣がメディアの取材に応えた。昨年は22戦21勝と記録を作り、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)の4連覇がかかる2024年シーズン、ホンダ/HRCのパワーユニット/エンジンはどのようなコンセプトで開発されてきたのだろうか。
ホンダF1のパワーユニット開発の総責任者、HRCエグゼクティブ・チーフエンジニアF1プロジェクトLPLの角田哲史氏が、まずはレギュレーションで開発凍結された現在のパワーユニット/エンジン開発の現状を語った。F1のパワーユニット(PU)は2022年に性能向上を目的とした開発は凍結されており、信頼性に関わる部分の開発のみが認められている。
「その中で一番大事なのが、信頼性開発という名のポテンシャルを最大化する競争があるというところです。耐久テストによって運転限界、どこまで使って大丈夫なのか。これをじわじわと確認エリアを広げて、パワーユニットの最大限のポテンシャルを出し切るような開発を我々としてはしています」と角田LPL。
「F1のパワーユニットは常時、最高出力で走っているわけではありません。コーナーを立ち上がって次のコーナーのブレーキングまでに、立ち上がりでは全開でコーナーを脱出するのですけど、だんだんブレーキングまでに出力を下げていきます」
「その理由としては2つあります。まずはエンジンの信頼性とのバランスさせるためにエンジンの負担を減らして走りたい。もうひとつはICE(内燃機関エンジン)で出力を使ってしまうと、MGU-H/ターボチャージャーで電気エネルギーを回生しているのですけど、そのエネルギーが減ってしまう。MGU-Hのエネルギーを使ってしまうと、その後に電気エネルギーを使いたい時に使えなくなります。エネルギーマネジメントと呼ばれていますけど、そのエネルギーを貯める/使うというのをうまくバランスさせなければいけません」
基本的には2024年のF1は年間3基しかICEが使用できず、1基あたりで7〜8戦を戦わなければならないが、当然、エンジンは使用するたびにいわゆる熱ダレなどでパフォーマンスは落ちていく。そのパフォーマンスの落ち方はメーカーによって大きく落差が異なると言われている。2022年以降のホンダのエンジン、PUの開発はその落ち幅をできるだけ小さくして、できるだけ長い時間、高い競争力を維持できるような開発を続けているのだ。角田LPLが続ける。
「エンジンの高負荷領域を今までより多く使えるようになったら、ストレートでも最高出力を発揮できる時間を少し延ばすことができるようになる。(ホモロゲーションで)最高出力は同じでも、それを使える時間の延ばすことでラップタイムに貢献できる。他にも、エンジンをオペレーションするときに運転温度が非常に重要になるのですけど、熱くなったら部品の強度限界がきて壊れてしまう。熱すぎるとエンジン出力はどうしても下げざるを得ません」
「出力が下がらずにどこまで運転温度を上げられるのかを確認していった結果、チームに対して、ここまで使っていいよ、たとえばこのエンジンは100度以下で使って下さいというのと、110度まで使っていいですといった時のラジエターのサイズは違ってきます(小さくすることができる)。そういうエンジンの限界値を上げていくことによって車体に対していろいろな設計自由度、特に冷却系の設計自由度を増やしていくことで間接的に我々は車体のパフォーマンスアップに貢献したいという活動を常に行なっています」
⚫︎昨年のコンセプトから大幅に変えたレッドブルの新車RB20とホンダ/HRCの関係
ラジエターのサイズが小さくできれば、その分、空力的にも車体をスリムにすることができ、車体の軽量化にもつながる。そういったホンダ側のチリツモの貢献がまさに、昨年のレッドブルの22戦21勝につながったわけだが、そのレッドブルは今年の新車RB20でさらに挑戦的なアプローチを施してきた。圧倒的な勝利を得たマシンのコンセプトを、敢えて変えてきたのだ。
「あそこまで昨年のコンセプトと違うマシンを作ってくるとは、最近まで知らなかった」と、角田LPLもRB20のデザインに驚いたという。
「レッドブルは昨年、あれだけ圧倒したクルマがあるのに今年、大幅にコンセプトを変えて、より攻めたデザインをしてきています。まさにこれがF1だと思いましたし、レッドブル・レーシングはやはりチャンピオンになるにふさわしいチームだなと私は改めて感じました」
RB20の大胆な進化。実際、ホンダ側とレッドブルはこの新車RB20に関する情報交換をどのように進められてきたのだろう。
「クルマの最終的な形については、これまでも開発の初期段階から情報共有をしてくれるわけではありません。『どういうふうにパワーユニットを使って欲しいか』『それが最大限のパフォーマンスを出せるよ』というのを議論している中で、彼らが結果を出すということになります。エンジン搭載周りのある程度の情報は我々としても共有してもらえますけど、もちろん、それがないと設計できない部分がありますから⎯⎯ただ、全容については我々も実車を見るまで、知っているわけではありません」
「新車には必ず『あれっ!?』というのはつきものですけど、熱交換のシステム自体もこれまで通り、インダクションポッドからの吸気で熱交換器に風が当たって冷えているので何か特殊な方法をしているわけではありません。『どこかにまだ吸気口があるのではないか?』と探したりしますけど、F1はそういうのが楽しいですよね(笑)」
その角田LPLに改めて、今季のライバルチームを挙げてもらった。
「当然、フェラーリとメルセデスがライバルになるのではないでしょうか。ただ、マクラーレンも昨年の後半から調子がいいですし、ずっと一緒に仕事をしてきたレッドブルのロブ・マーシャルさんという、デザインチームの親分がマクラーレンに移籍して、いよいよ仕事を始めています。そういう意味ではマクラーレンは怖いなと思っていますし、楽しみでもあります」
果たして、今週末から始まる2024年のF1でホンダPUはどのようなパフォーマンスを見せるのか。昨年の成績を超えるのならば、24戦中で22勝以上のリザルトを残さなければならない。フェルスタッペンとレッドブルの4連覇と共に、まさに記録に挑むシーズンになる。