しかし、この年のフェラーリはテストから不調で、マレーシアGPの予選でフェリペ・マッサがまさかのQ1落ちを喫する。しかも、このQ1落ちはチームの作戦ミスで、前年まで簡単にQ1通過していたため、Q1突破ラインを見誤ったためだった。この直後にフェラーリはヘッド・オブ・レースエンジニアリングを交代させ、バルディセッリはファクトリー勤務となった。
「このとき、みんなは私が更迭されたと思っただろうが、じつは私から申し出たんだ。前年の末に妻と別れたこともあって、家族との時間を見つめ直すためにね」
その後、バルディセッリはフェラーリ・ドライバー・アカデミーを設立。ジュール・ビアンキら優秀な若手をレースへ送り込んだ。
今年のマレーシアGPはバルディセッリにとって2009年以来、8年ぶりのグランプリだった。日曜日のセパン・インターナショナル・サーキットは、レース開始4時間前にスコールに見舞われた。その雨を見ながら、バルディセッリは「あのときと同じだ」と懐かしそうに、そして寂しく語って、ガレージへ消えて行った。