『速いマシンは美しい』のか、あるいは『速いから美しく見える』のか。F1ファンにとっては、永遠に答えの出ない命題であろう。その伝でいけば、『遅いマシンは醜い』という言い方もできるかもしれない。
フォーミュラワン世界選手権が始まってから、もうすぐ70年。これまで数え切れないほどのF1マシンが登場し、消えていった。『F1i』のジャーナリスト、ミカエル・ドゥラネイが今回紹介する『史上最も醜いF1マシン10選』を眺めるだけでも、マシンデザイナーたちがいかに知恵を絞って、ユニークなマシンを作り上げようとし、そして失敗を繰り返したかを実感していただけると思う。
ここに登場する10台のマシンのほとんどは、期待された速さを発揮することはなかった。まさに『遅いマシンは醜い』ということなのかもしれない。
(1)エンサインN179(1979年)
パキスタン人デザイナー、シャバブ・アフメドの手になるエンサインN179は、同チーム初のグラウンドエフェクトカーだった。最大の特徴はラジエターをマシン両脇ではなく、前面に置いたこと。コスワースDFV・V8エンジンの冷却を、これですべてまかなおうという目論見だった。
しかし実際にコースに出ていくと、いきなりのオーバーヒートに悩まされた。さらにラジエターの真後ろに座るドライバーも、灼熱地獄に苦しめられた。さらにグラウンドエフェクトの効果もほとんど発揮できず。あらゆる意味で、失敗作となったマシンだった。