アメリカのプロスポーツ界では<戦力の均衡化>が常に考えられてきた。毎年同じチームが連覇するとファンに飽きられる。そこでMLB(メジャーリーグ・ベースボール)もNBA(ナショナル・バスケットボール・アソシエーション)もNHL(ナショナル・ホッケーリーグ)も、特定チームがますます強くならないような手段を講じる。バジェットキャップ(予算)や新人獲得ドラフト制度など規則を変え、連覇が難しいように考慮するのだ。これがアメリカン・プロスポーツ(エンターテインメント・ショー)の原点思考なのだろう。
ヨーロッパは違っている。たとえばフットボール(サッカー)界はまったく逆、ビッグチームは巨額な資金をバックにスター軍団を組織し連覇を目指す。今のメルセデス・チームはそれに近い。大物エンジニアが多くいて、ファクトリーには1000人近いスタッフが従事し、その人件費は膨大だ。
F1大改革規定を進めるリバティ・メディアは、21年から「年間予算額1億7500万ドル(約187億円)」のバジェットキャップを提示。ただしドライバー契約金やパワーユニット(PU/エンジン)金額など、マーケティング経費もこれには含まれないという。事実上これではトップチームは総額“3億ドル(約321億円)”の活動予算も可能、現状からの大幅カットにはなりそうにない。また、その資金使途や明細などの会計検査も難しい。
バジェットキャップの論点をまとめると、アメリカン・プロスポーツの原点思考とヨーロッパのそれとの間にはギャップがある。2021年大改革にはほかにも技術規定、競技規則にかかわる案件が多い。6月から10月末までに後倒しされたのは次善の策であり、リバティ・メディアにはなによりまず<戦力均衡化>を望もう。7戦7人ウイナーが出たシーズンから7年が経つ――。
■今年の『世界三大レース』は独メルセデス、米シボレー、日トヨタが勝利
三大レースは毎年5月から6月の半月間に集中して開かれる。F1モナコGPは1929年から77回、インディ500マイルは1911年から103回、ル・マン24時間は1923年から87回。これまでに日本のエンジンが初勝利を記したのは順に1987年ホンダ、2004年トヨタ、1991年マツダだ。
今年はモナコGPがメルセデス、インディ500マイルがシボレー、ル・マン24時間はトヨタ。ドイツとアメリカと日本の“三大自動車国”が勝ち分けた。いまだジャパン・パワーはこの三大レースでトリプル・クラウンを果たしてはいない。エンジンが先かドライバーが先に現れるか、ル・マン24時間が過ぎるといつも思う。