TOYO TIRESがNovel Racingをパートナーに迎え、10年ぶりにニュルブルクリンクでのタイヤ開発プロジェクトを再開した。
レースプロジェクトを担うNovel Racingは、唯一ニュルブルクリンク耐久シリーズ(VLN)全戦とニュルブルクリンク24時間レースに参戦している日本チームだ。2020年シーズンは、ニュル近郊にファクトリーを構えるRING RACINGとコラボレーションして、早くも6年目の挑戦となる。
■GRスープラGT4とレクサスRCFを擁し、TOYO TIRESが10年ぶりに再挑戦
2020年 第48回ADAC・トタル24時間レース(ニュルブルクリンク24時間レース)には、『Novel Racing with TOYO TIRES & RING RACING』から2台がエントリーした。
1台目は、SP10クラスにエントリーする初登場の37号車GRスープラGT4。ドライバーはニュルのドライビングアカデミーのチーフを務め、“ニュルのスペシャリスト”と評されるアンドレアス・ギュルデンを筆頭に、朝日ターボ、東 徹次郎、そしてミヒャエル・ティッシュナーが揃った。
2台目は、SP8クラスにエントリーする54号車レクサスRCFだ。こちらのマシンには、ダブルヘッダーで朝日ターボが乗り込むほか、小山佳延、クラウス・フェルカー、プロドライバーのドミニク・ファーンバッハが加わった。
今季、TOYO TIRESの開発スタッフたちは毎戦、ニュルの現地へ足を運び、徹底的なデータ収集など、タイヤ開発プロジェクトのための業務に勤しむ予定だった。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大防止策の一環により、TOYO TIRESの開発スタッフたちは現地へ赴くことをあきらめざるを得なかった。そのため、レースの現場はウーヴェ・クレーン代表をはじめとするRING RACINGと、TOYO TIRESのドイツ駐在スタッフらに託されることとなった。
現場スタッフたちは、ピット内の通信システムを強化。日本でレースを見守るTOYO TIRES開発スタッフたちが常時ピットの様子を把握できるリモート観戦環境を整えて、ニュル24時間のレースウィークを迎えたのだった。
■雨模様の中、幕を開けた24時間の戦い。TOYO TIRES勢は数々の困難に襲われる……
例年ニュル24時間レースは、140台前後のエントリーで賑わう。しかし今年はコロナ禍ということもあり、全97台のエントリーにとどまった。
また、例年であれば20万人以上の観客で溢れかえるコースサイドも、今年はまったく異なる雰囲気だ。当初は無観客レースとして行われる予定だったものの、地方行政の厳しいコロナルールをクリアしたことで、1日最大1万人まで観客動員が許されることとなり、急遽グランプリコースのスタンドのみチケットが販売されたのは幸いだ。
そして、9月24日木曜日。
2020年のニュル24時間レースは、木曜日(9月24日)に幕を開けた。気温は14度だが、強風が吹き荒れており、体感的には温度計の数字よりも寒いように感じられた。
今年はフリープラクティスがなくなり、いきなり予選からのスタートだ。第1予選はドライコンディション。37号車GRスープラGT4と54号車レクサスRCFの2台は、順調に走行を終えた。
続いて、深夜にわたって行われる第2予選が始まった。このナイトセッションで、54号車レクサスRCFが予期せぬクラッシュに見舞われてしまう。ダメージを負ったマシンはすぐにニュル近郊のRING RACINGのファクトリーへ運び込まれ、修復作業が行われた。
しかし、思いのほかマシンの破損状況は深刻だった。そのため翌金曜日の第3予選を見送り、決勝レースを目指して修復作業が続けられることとなった。
そうして迎えた土曜日の決勝レース。ニュル上空は低く暗い雲に覆われている。まるで、これから始まる世界一過酷な24時間の戦いを暗示しているかのようである。
気温は8度。まだ9月下旬だというのに吐く息は白く、真冬並みの寒さを感じさせる厳しいコンディションだ。鉛色の空からは、雨粒が落ちてきた。
Novel Racing with TOYO TIRES & RING RACINGの37号車GRスープラGT4、そして20時間以上かけて修復された54号車レクサスRCFの2台は、無事にライバルらと共にスタートグリッドに並ぶことができた。TOYO TIRESにとっては、10年ぶりのニュル24時間レースへの復帰である。
そして、土曜日(9月26日)15時30分、隊列を先導していたペースカーがピットに入り、いよいよ決勝レースの火蓋が切って落とされた。
雨脚は時折弱まったり、強くなったりと依然として不安定な状態が続く。そんな中、37号車GRスープラGT4と54号車レクサスRCFは順調に周回を重ね、ともにクラストップを走り続ける。
だが、ニュル24時間の女神は気まぐれだ。22時過ぎには雨脚が益々激しくなり、視界も路面状況も悪化してクラッシュするマシンが続出する。
37号車GRスープラGT4もフロント部分を破損するアクシデントに見舞われてしまう。何とか自力でピットへ戻ったが、修復にはかなりの時間が必要となりそうな状態だった。
そんな中、22時32分に赤旗が降られ、レースは一時中断されることとなった。
すべてのマシンがピットへと戻ってきて天候が回復するのを待ったものの、雨は漆黒の路面を激しく叩き続けた。しばらくして、安全を優先させるために翌朝7時までは走行はさせないという通達がレースオフィシャルから出された。
9時間あまりのレース中断の間、RING RACINGやその仲間たちは、マシンの修復作業に全力で勤しんでいた。気温5度と凍えるような寒さの中、冷たいコンクリートの地面に這いつくばりながら、かじかむ手を温める暇もなく。
レース後にNovel Racingの渡邊 卓代表は、「困難が幾度も重なって、チームにとっては厳しい展開だった。だが、そうした数々の困難がチーム全体の絆を深めてくれた」と振り返った。
Novel Racing with TOYO TIRES & RING RACINGにとって今年のニュル24時間レースは、ひとつの困難を乗り越えたらまた別の困難がやってくる、それを繰り返すレースだったのだ。