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スーパーGT ニュース

投稿日: 2021.05.19 17:40
更新日: 2021.08.29 17:48

工夫次第で選択の幅は無限大? GT300クラスの“供給パーツ戦争”【全29台サプライヤー調査】

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スーパーGT | 工夫次第で選択の幅は無限大? GT300クラスの“供給パーツ戦争”【全29台サプライヤー調査】

 スーパーGT GT300クラスでは、ドライバーの腕やチーム力、そして14車種29台のマシンのパフォーマンスが競われているが、その過酷な戦いを支えるのはエンジンやタイヤ、空力パーツだけではない。あまり外観からではパッと見で分かりづらい、各所の重要なパーツも、さまざまなサプライヤーが競って開発を行い、スーパーGTの激しい戦いを支えている。今回はそのなかからホイール、シート、ハーネス(シートベルト)、ワイパーの4種類のシェアを見てみよう。なお、これらの結果はオートスポーツweb編集部の独自調査によるものでチームやサプライヤー各社の公式発表ではないことを承知頂きたい。

* * * * * * * *

 マルチメイクによるタイヤ戦争が行われているスーパーGTでは複数のメーカーが参戦してタイヤコンペティションを繰り広げているが、同様にマシンとタイヤのパフォーマンスを支えるホイールでも複数のメーカーによるコンペティションが繰り広げられている。

 現在のGT300全29台のシェアを見てみると、RAYSとTWSがそれぞれ21%で同率トップ、続いてENKEIとWORKがそれぞれ18%と、国内に自社の製造工場を持つ4大メーカーがシェアの75%をわけあっている。

ホイールシェア結果(編集部調べ)
ホイールシェア結果(編集部調べ)

 そして、スーパーGT公式発表の資料ではメーカー未発表であったマッハ車検 GTNET MC86 マッハ号だが、現在装着しているホイールは以前同じマザーシャシーのトヨタ86 MCを使用していた他チームからホイールを譲ってもらったという経緯があるようだ。チームは明言を避けたが2バルブの特徴的なデザインを装着していることから、WedsSportのホイールを使用しているとみられる。

 シェアだけ見れば8メーカーが参戦する“ホイール戦争”だが、装着する車両によってホイールのオフセットも変わるため、それぞれの車両に合わせたサイズが設計・製造され供給される。そのため、同じメーカー、同じデザインのホイールであってもそれぞれ個性が光る。なかには、ディスクセンターに向けてディスク面が沈んでいくことで、立体感を出すコンケイブデザイン(日本では通称“逆反り”)を実現している車両もあり、ドレスアップの観点から見ても参考にしたい点が多い。

 8メーカー29台のうち、PACIFIC NAC CARGUY Ferrariが履くアメリカのMotegi Racingを除けば、7メーカー28台が日本ブランドのホイールであった。日本のホイールメーカーにとって、製品の研究、開発ができるGT300というカテゴリーは貴重な存在なのだということが読み取れるだろう。

Hitotsuyama Audi R8 LMSのリヤホイールはRAYS。センターホイールにサイズが刻まれており、18インチ13J、インセットは+43ということがわかる
Hitotsuyama Audi R8 LMSのリヤホイールはRAYS。センターホイールにサイズが刻まれており、18インチ13J、インセットは+43ということがわかる
スポークサイドには3本の溝が掘られており、レースで耐えうる強度を保ちつつも、軽量化を試みていることがわかる
スポークサイドには3本の溝が掘られており、レースで耐えうる強度を保ちつつも、軽量化を試みていることがわかる
Yogibo NSX GT3のホイールはModulo製。表面にアルミニウムの陽極酸化被膜を施し、耐傷付き性や耐食性、耐摩耗性の向上を計った仕様だ
Yogibo NSX GT3のホイールはModulo製。表面にアルミニウムの陽極酸化被膜を施し、耐傷付き性や耐食性、耐摩耗性の向上を計った仕様だ

 次はドライバーが全身を預け、マシンの挙動を感じ取る上でも重要なシートのシェアを見てみよう。チューニングやカスタムカーの分野でも活躍するBRIDEやRECAROを抜いて、シェアトップを誇っているのがなんと、レーシングカーコンストラクターである童夢のシートだ。というのも、童夢はレーシングカー用の安全規格であるFIA8862-2009規格に対応したレーシングシートを2016年から販売しているのだ。実は埼玉トヨペットGB GR Supra GTはBRIDE、たかのこの湯 GR Supra GTはRECAROを使用しているが、いづれも童夢が製造を担当しており、販売元によってブランドが変わるとのことだ。

シートシェア結果(編集部調べ)
シートシェア結果(編集部調べ)

 また、aprが走らせる2台のTOYOTA GR SPORT PRIUS PHV apr GTに至っては、同じチーム、同じマシンであるにもかかわらず、採用しているシートが異なっている。31号車はRECAROだが、30号車にはなんとフェラーリ488 GT3の純正装着品であるOMPのシートが採用されている。フェラーリ純正シートの方が軽量であったこと、そして永井宏明選手の身体にフィットしており、なおかつ永井選手がフェラーリ488 GT3を所有していたことが理由だというから驚きだ。

 さらに、HOPPY Porscheも「ポルシェ純正は幅が広く、日本人のサイズに合わない」という理由から、無加工で装着が可能なアウディR8 LMS GT3のシートを装着している。このように、GT300クラスではドライバーの身体とのフィット感を追求し、ドライバーが集中できる環境を作るために、シートにおいても各チームはそれぞれ工夫を行っているのだ。

30号車TOYOTA GR SPORT PRIUS PHV apr GTのシートに入るOMPと488 GT3の刺繍。さらにBRIDEのチューニングパッドの姿も見える
30号車TOYOTA GR SPORT PRIUS PHV apr GTのシートに入るOMPと488 GT3の刺繍。さらにBRIDEのチューニングパッドの姿も見える
HOPPY Porscheのシート。搬入日に撮影したため、まだウエイトが納められている
HOPPY Porscheのシート。搬入日に撮影したため、まだウエイトが納められている
HOPPY Porscheのシートの背面下部にはアウディ製であることを示すステッカーが
HOPPY Porscheのシートの背面下部にはアウディ製であることを示すステッカーが

 次はハーネスのシェアを見てみよう。GT300クラスで38%と最も多くのシェアを集めたのがイタリアの老舗ブランド、Sabelt(サベルト)だ。続いて、GT500クラスでは50%を超えるシェアを誇るドイツのSCHROTH(シュロス)が28%と続いた。なお、SabeltはニッサンGT-RニスモGT3にニスモブランドで純正ハーネスを供給しており、合計すれば52%のシェアを誇ることとなる。

ハーネスシェア結果(編集部調べ)
ハーネスシェア結果(編集部調べ)

 なお、とあるチームから「ホンダNSX-GT3はデリバリーの時期によって純正ハーネスのメーカーがOMPとSCHROTHでわかれる」という話を耳にした。純正採用であっても、デリバリー時期で純正装着メーカーが変わるというのは、非常に珍しい話だ。ちなみに、2021年シーズン第2戦富士の時点ではGT300クラスに参戦する全てのNSX-GT3がイタリアOMP製のハーネスを装着している。

SCHROTHのハーネスを使用するSYNTIUM LMcorsa GR Supra GT
SCHROTHのハーネスを使用するSYNTIUM LMcorsa GR Supra GT

 最後に、ウエットコンディションにおいて視界を確保するために重要なパーツであるワイパーのシェアを見てみよう。昨年実施したGT500でのシェア調査では全車がBOSCHのワイパーを使用していたが、GT300は多種多様だ。

ワイパーシェア結果(編集部調べ)
ワイパーシェア結果(編集部調べ)

 最大シェアを誇るのは変わらずBOSCHだが、そのシェアは52%に過ぎない。なかでも意外だったのが日本メーカーミツバのシェアの高さだ。これはNSX-GT3が純正でミツバのワイパーを採用していることに由来する。イタリアのJASモータースポーツが製造を担うNSX-GT3だが、ワイパーは、ロードカーのNSXでも採用されている日本メーカーミツバのものを変わらず使用しているのだ。

 また、GT300規格の3台のGRスープラはそれぞれ違ったメーカーのワイパーを使用している。ワイパーという細かい部品のシェアからも、GT300クラスの部品選択の幅広さと自由度の高さを改めて感じることができるだろう。

GAINER TANAX GT-RのワイパーはBOSCH。
GAINER TANAX GT-RのワイパーはBOSCH。

 近年のスーパーGT GT300クラスではカスタマーレーシング車両であるFIA-GT3車両が22台で全体の75%を占めている。FIA-GT3車両はチーム独自の大きな改造・開発が許されないという印象から、パーツにおいても自由度は低いのではないかと予想していた。

 しかし、細かい部分に目を向けてみると、GT300マシンやマザーシャシーと同様に、複数のサプライヤーによるコンペティション、そして各チームの創意工夫が展開されていたのだ。

 今季も依然コロナ禍によりパドック入場制限などで2021年車両を間近で見る機会が厳しい状況が続いているが、以上のシェア率を参考に、スーパーGTの“パーツ戦争”をより身近に感じてもらえると幸いだ。

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