スーパーGTのGT500クラスを始め、国内の各カテゴリーを最前線で戦うトムス。そのチーフエンジニアである東條力氏より、スーパーGTのレース後にコラムを寄稿いただいています。
第4回となる今回はスーパーGT第4戦ツインリンクもてぎ戦の分析と、レースエンジニアの“働き方今昔”に関する洞察です。東條氏が業界入りしてから30年、技術の進歩によってエンジニアの労働環境はどう変わったのでしょうか。
まずは灼熱のレースとなったもてぎ戦を受け、東條氏からの“多少の怒り”を伴った提案からお読みください。
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オートスポーツweb読者みなさん、こんにちは。トムスレーシングのチーフエンジニア・東條です。
灼熱のスーパーGTもてぎ戦が終わりました。どれくらいの灼熱度合だったのかと言うと、ストロベリー・フラ●チーノなら5秒で飲み干すくらいのLEVEL-5。気温34度/路温53度、真夏の鳥取砂丘と同程度の環境下で、レースが行われました。
熱中症の注意喚起がある中でのレース開催は倫理的にどうなのだろうと、我らB型は多少の怒りを伴って考えるわけです。
安直にレース時間を夕方にしたり朝にしたりすると、お客様のご都合が諸々悪くなります。中の人たちは、準備や片付けで前泊後泊が必要になり、反対意見がこぼれだすので、そこは先回りした結果、
『真夏はやらない』。
冬は寒いからとか雪が降るからとか、そういう意味合いも込めてオフシーズンとしているのですから、『暑いからやらない』というのも悪くないと思うのです。
真夏と真冬は付属イベント期間として、大いにファンサービスに努めましょう。
たとえば、オンラインシリーズをかつてない異次元のレベルで行うとか、ファン参加型としては、レースクイーン+ドライバーのBE●MSコラボイベントとか、さまざまなイベントをたたみ掛けるように行い、全宇宙に向けたオンライン配信はプライスレス。
そして、春秋には集中的に本戦を行うのです。4〜6月で4戦、9〜11月で4戦。昨シーズンの経験から、無理なく出来る範囲に収まりますよね。
……と、責任もなく思い付きで言ってみる(汗
最近ではB型仲間の皆さんに同調を頂くことが増えてきまして、世間的には少数派でありながらもレース業界ではしっかり根を張っていることに感謝しています。
■ベースセットを底上げ。高温低μ路面への対応は奏功
さて、もてぎのレースの振り返りから初めましょう。
我がトムスでは、優勝必達で臨んだ36号車au TOM’S GR Supraは3位表彰台。表彰台を目標にしていた37号車KeePer TOM’S GR Supraが7位入賞と、サクセスウエイトを感じながらも概ね好成績ではあったものの、どちらも目標には及ばず。ピットは微妙な空気感に満たされておりました。
しかし、シリーズ上位の14号車ENEOS X PRIME GR Supraと17号車Astemo NSX-GTが無得点でレースを終えたことで、得点差はグッと少なくなり、選手権は面白くなりました。
優勝は1号車STANLEY NSX-GT(BS)で、ポール・トゥ・ウィン。2位は19号車WedsSport ADVAN GR Supra(YH)。19号車は序盤でトップを奪う好走を見せましたが、ピットで逆転されてしまいました。
1号車と19/36号車で比べれば、その差は約4秒。各種ロスタイムや、燃費MAP等の影響が推測されますが、戦略的に見てもGRスープラより数周早くピットへ呼び込むことができているので、王道作戦を完遂されてしまいました。
36号車は予選4番手。スタート直後にひとつ上がって、燃費をコントロールしながら序盤は追走。スティント中盤からのチャージでは、1号車の背後に迫るチャンスはあったもの、トラフィックに遮られてしまいました。
第2スティントでも好走は続き、順調にギャップを詰めているところへ2度のFCY。1号車や19号車の方がグリップダウンが大きかった様子でしたので、36号車にとって2度のFCYが悪い方向へ働いてしまいました。
37号車も予選は5番手の大金星。最初のトラフィックまでは36号車の背後へピタリとつけていたのですが、GT300のトラフィックが絡んできたころから、じりじりとポジションを落とします。
ピットインを予定よりも1周早めたのですが、エンジン始動に5秒ほどロスがあり、ポジションを9番手まで落としました。ECUの始動ロジックに何らかの不具合が生じた可能性があり、調査対策を進めています。FCY後の再スタートでは、一気に2台を抜き去り7位まで順位を戻すことができました。
もてぎの路面は、全般にスムースでグリップは低めです。タイヤ的にはいわゆるソフトコンパウンドが主力となるのですが、真夏ですから50度超えも想定しなければならず、ソフトな中にも耐熱性の高いコンパウンドが必要となるのです。YH勢は事前にタイヤテストを実施しており、その成果が表れました。
昨年、GRスープラ勢はもてぎで大苦戦しました。もてぎはハイダウンフォースサーキットのくくりなのですが、コースレイアウト的にはブレーキイナーシャが大きく、やや特殊寄りのコースです。今季、TRDはベースセットアップの底上げを図りました。トムスは高温低μ路面への対応が奏功し、昨年よりも戦えたと実感しました。ただし次のもてぎ戦(11月)は低温になるので、違うアプローチが必要になります。
2回目のFCY実践レースは、機能したように感じています。明らかな減速違反は少なくなり、複数台がペナルティ対象となりました。レースの連続性もありました。
一方で、富士大会でのGT500、もてぎ大会でのGT300優勝車両は、共にFCYのタイミングでピットに居合わせていました。これもレースで、正解なのです。このようなケースは、これからも多くあると思われ、SCからFCYにしても変わりありません。
運営側から見れば、SCよりも介入のハードルは低いはずです。刻々と変化するコース状況によって、FCY発動を予測したピット戦略はSCと変わりなく、岡山のようにSC(FCY)宣言までに時間がかかるケースでは、ピットへの大量流入はあり得ることになります。
これを防止するには、アクシデント即FCYの判断が必要となりますが、乱発は避けたいはずですから、これをどう読むのかで“ギフト券”の行き先が変わることがあると思っています。