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F1 ニュース

投稿日: 2022.06.10 12:52
更新日: 2022.06.10 12:57

【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第7回後編】無理な追い抜きに大クラッシュ。プレッシャーのかかる状況でもがくミック

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F1 | 【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第7回後編】無理な追い抜きに大クラッシュ。プレッシャーのかかる状況でもがくミック

 2022年シーズンで7年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニアリングディレクター。2連戦で迎えた第7戦は、伝統のモナコGP。持ち込みのセットアップは非常にいい状態で、その後の仕様変更もうまく機能したハースだったが、レースではミック・シューマッハーが大きなクラッシュ。プレッシャーのかかる状況で結果を出せないという状況は変わらず、さらにはいいペースで走っていたケビン・マグヌッセンもトラブルでリタイアに終わり、ハースは獲れたはずのポイントを逃がし続けている状況だ。それでも明るい材料はあると小松エンジニアは言う。

 コラム第7回は、前編・後編の2本立てでお届け。後編となる今回は、モナコGPの現場の事情を小松エンジニアがお届けします。

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2022年F1第7戦モナコGP
#47 ミック・シューマッハー 予選15番手/決勝DNF
#20 ケビン・マグヌッセン 予選13番手/決勝DNF

 モナコでは決勝レースの24周目にミックの大きなクラッシュがありましたが、幸いなことにミック自身に大きなケガはありませんでした。クルマは真っ二つになったものの、クルマがバリアにぶつかる前にスピードが落ちていたこともあって、サウジアラビアGPでのクラッシュの時ほどダメージはありません。シャシーも基本的には大丈夫で、大きな修理もしなくてすみました。

 とはいえギヤボックス、フロアやフロントウイングなどのボディワーク、ラジエーターダクトなどは交換が必要です。ただ今のところエンジンは無事なので、次のアゼルバイジャンGPのフリー走行で確認して、大丈夫であればそのまま土曜日以降も使う予定です。

ミック・シューマッハー(ハース)
2022年F1第7戦モナコGP プールサイドシケインでクラッシュしたミック・シューマッハー(ハース)

 このクラッシュの前に、ミックはターン5でアレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)と接触してフロントウイングを交換し、最後尾まで順位を落としていました。ミックはブレーキングでアウト側から抜きにかかりましたが、コーナー進入時にアルボンにスペースを残していなかったのです。この時ミックは「アルボンが突っ込んできていた」と無線で言っていました。しかし僕から見れば、アルボンの内側にはスペースがないので彼にはどこにも行き場がないのに、どうしてそんなところでターンインしたのか、という感じです。

 アルボンはそれ以前にシケインをカットしていて、後ろにいたミックはフラストレーションが溜まっていました。アルボンはこの件で5秒のタイムペナルティを受けましたが、やはりミックのこの対応はダメだったと思います。マイアミGPでセバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)と接触した時もそうでしたよね。あの時はミックがイン側にいてベッテルの動きが見えていたのに、それでもクラッシュしたわけですから。マイアミでポイントを獲れていれば自信にもなったはずですが、プレッシャーがかかった時に間違った判断をして結果を出せないということが最近繰り返されていると懸念しています。

 課題としている予選一発のアタックもそうです。今回の予選Q1では、まず最初に1分16秒997というタイムを出し、タイヤを冷やしてもう一度アタックする予定でしたが、ミックはそこでミスをしてタイムを出せず。一方でケビンは1回目が1分17秒061、2回目が1分14秒743と2.3秒速くなりました。

 Q1序盤は路面状況がとても悪いので1回目のタイムは参考にはなりませんが、2回目のタイムは、2セット目のタイヤでアタックするためのいいレファレンス(参考)となります。つまり2回目のアタックでタイムを出せなかったミックは、刻々と路面の状態が変わる状況下で、2セット目のタイヤでアタックする際にレファレンスがないということです。

 ケビンが2セット目のタイヤで出した1分13秒069というのも特別にいいタイムというわけではないですが、きちんと段階を踏んできているので出せるタイムです。比べてミックはケビンのコンマ4秒落ちの1分13秒469でした。また1セット目のタイヤでタイムを出せず、レファレンスがないまま次のタイヤでアタックするというミックの流れは、次のQ2でも同じで、その結果予選は15番手となってしまいました。

ミック・シューマッハー(ハース)
2022年F1第7戦モナコGP ミック・シューマッハー(ハース)

 ちなみに今回のクラッシュのせいで今後フランスGPで予定しているアップグレードが遅れるなどの影響は今のところありません。それよりも問題なのは、アップグレードされたパーツというのは今使っているものとは全然違うので、今使っているスペックのパーツは今後製造する予定がないのです。ということは、次のアゼルバイジャンGPからフランスGPまでの4戦の間にパーツを壊してしまうと、どんどんスペアが無くなり、極端に言えば、レースできない状況にもなりかねません。

 このようにカツカツの状況だとすべての面で運営が厳しくなり、パフォーマンスにも影響が及び、考えなくてもいいことまで考えないといけない状況になってしまうのです。ですからあのような比較的大きいクラッシュというのはその時だけでなく、その後何戦にも影響が出てきてしまうのです。

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