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ル・マン/WEC ニュース

投稿日: 2022.08.17 11:56
更新日: 2022.08.17 11:57

いよいよWEC富士に初登場。“対照的なキャラ”のトヨタGR010ハイブリッド&プジョー9X8の戦力を技術面から分析

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ル・マン/WEC | いよいよWEC富士に初登場。“対照的なキャラ”のトヨタGR010ハイブリッド&プジョー9X8の戦力を技術面から分析

『FIA 世界耐久選手権 富士6時間耐久レース』が9月9日(金)〜11日(日)に富士スピードウェイで開催される。世界耐久選手権(WEC)が日本にやって来るのは2019年以来3年ぶり。2021年に従来の最上位カテゴリー、LMP1に替わって導入されたハイパーカー・カテゴリーの車両が日本に上陸するのは、今回が初めてだ。

■“ハイブリッド対決”が日本で実現

 エントリーリストの『ハイパーカー』カテゴリーの欄には、3チーム5台の車両が載っている。TOYOTA GAZOO RacingのGR010ハイブリッドが2台、アルピーヌ・エルフ・チームのA480が1台、それに、プジョー・トタルエナジーズのプジョー9X8(ナイン・エックス・エイト)が2台だ。

 このうち、純粋なル・マン・ハイパーカー(LMH)規定の車両はGR010ハイブリッドと、プジョーのモータースポーツ部門であるプジョー・スポールがフランスの石油大手トタルエナジーズと組んで開発する9X8となる。アルピーヌA480は旧LMP1規定の車両で、特例を受けての参戦だ。また、第3戦ル・マン24時間や前戦モンツァ6時間に出場したグリッケンハウス・レーシング(グリッケンハウス007LMH)はエントリーしていない。

 GR010ハイブリッドはハイパーカー規定が導入された2021年シーズンから走っており、今季で2シーズン目を迎えている。プジョー9X8は7月10日に決勝レースが行なわれた第4戦モンツァ6時間がデビュー戦だった。つまり、第5戦富士6時間はデビュー2戦目。ホッカホカの熱いハイパーカー対決が富士で見られることになる。

2021年、2022年とル・マン24時間レースを連覇しているトヨタGR010ハイブリッド
2021年、2022年とル・マン24時間レースを連覇しているトヨタGR010ハイブリッド

 新たに導入されたLMH規定は、ハイブリッドシステムの搭載が選択できる内容となっている。トヨタもプジョーも市販ハイブリッド車との技術の相互交流を行なう目的からハイブリッドシステムの搭載を選択した。最高出力が200kW(272ps)に規定されたモーターはフロントに搭載する決まり。エンジンは車両ミッド(コクピットの背後)に搭載して後輪を駆動する。エンジンの出力のみで走るときは後輪駆動。モーターがアシストを行なった際は4輪駆動になる。

 エンジンの最高出力は500kW(680ps)に規定されている。ハイパーカーの規定が特徴的なのは、モーターがアシストを行なった際の総合出力も500kWに設定していることだ。そのため、モーターが200kWの出力を発生した際は、エンジンの出力を300kW以下に抑えなければならない。モーターが150kWならエンジンは350kW以下、モーターが100kWならエンジンは400kW以下だ。制御はもちろん自動で行う。出力をオーバーさせないのはもちろんのこと、ドライバビリティに影響を与えずサーキットを速く走るための制御を成立させる必要があり、開発するメーカーの腕の見せどころとなる。

 エンジンは『ガソリン4ストローク』との規定があるのみで、排気量も気筒数も自由だ。トヨタは3.5リッターV6ツインターボを選択。一方、プジョーはバンク角90度の2.6リッターV6ツインターボを選択した。最高出力の上限は決まっているので、燃費やドライバビリティ、重量などの観点で排気量に選択の余地を生んでいる。

 9X8が燃料タンクの下に搭載する900Vの高電圧バッテリーは、プジョー・スポールと、トタルエナジーズ傘下でF1向けバッテリー開発も手がけるサフトとの共同開発だ。プジョーが属するステランティス(2021年1月にグループPSAとFCAが統合して誕生)は、DSブランドで2016年からフォーミュラEに参戦している。同シリーズへの参戦を通じて蓄積したエネルギーマネジメントの技術をハイパーカーの制御開発に活かす考えだ。

 旧LMP1規定の時代は効率を徹底的に追求する空力開発が行われたが、ハイパーカー規定はダウンフォースやドラッグ、空力効率の絶対値に規定が設けられている。過度な空力開発を抑制する狙いだ。開発する側としては開発のリソースを効率に振らなくていいぶん、スタイリングに振ることができる。その結果、自社ブランドのアイデンティティを反映させやすいカテゴリーとなっているのが特徴だ。

 トヨタのGR010ハイブリッドがLMP1規定の延長線上で正攻法にハイパーカー車両をデザインしてきたのとは対照的に、プジョーは自社ブランドのカラーを前面に押し出してきた。量産車のデザイン部門がスタイリングに関与した力作で、プジョーの量産車と共通する3本線のフロントライティングが目を引く。ライオンが鋭い爪を持つ前足で引っかいた痕をイメージしたグラフィックで、リヤランプにもその3本線を反復する凝りようだ。

 9X8の最大の特徴はなんといっても、“リヤウイングレス”なことだろう。

 前述したように、ハイパーカーは空力性能に厳しい制約が課されている。リヤウイングがなくても、フロア側で規定上限いっぱいのダウンフォースを発生させることは可能だとプジョーは判断した。「調整可能な空力デバイスは1つ」とする規定も、リヤウイングレスとする決断を後押ししたよう。フロントの空力デバイス(スプリッター)に調整機構を設けた場合、リヤウイングは固定で使わなければならない。リヤウイングレスとしたのは一見ハンディになりそうだが、調整機能が使えないのなら、なくても困ることはないと判断したわけだ。

2022年WEC第4戦モンツァでデビューを飾ったプジョー9X8の特徴的なリヤエンド
2022年WEC第4戦モンツァでデビューを飾ったプジョー9X8の特徴的なリヤエンド

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