さて今回は、エンジニア(ENG)とドライバー(Dr)の、コミュニケーションのとり方について、考えてみたいと思います。
走行中、情報のやり取りはラジオで行うわけですが、なるべく話しかけて欲しくないDrがいれば、いつでもどこでも構わず情報が欲しいDrもいます。燃費やコース状況等、決まりごとの他、どのような情報が欲しいのか事前に共有しています。
ほめて伸びるDrも確かにいて、<速い>とか<カッコいい>とか、そういうフレーズは悪くないです。また、接触やコースアウトがあった時の第一報は、必ず過小評価なので注意が必要です。
車両開発やタイヤテストをする上で最も重要なことは、速いラップタイムと状況の把握です。
車に起きている事象を最初を知るのはDrで、コンディション変化やアドバンテージの有無などの判断はENGの仕事です。周囲のあらゆる状況をふまえたうえで、ドライビング中に起こったこと感じたことを聞き出し、がらがらポンとかみ砕いて次のアクションへ移るのです。
ただし、レースの直後は注意が必要です。互いに戦闘モードが抜けきれず、正確性に欠けるからです。少し時間をおいて、冷静になってからの方が良いです。
セッション中にはスタッフへの伝達も多くあります。それ故、ラジオのヘッドセットには、Drと話すスイッチの他に、Drには聞こえない秘密のスイッチがあって、大人は上手に使い分けることができます。
レース中の交信は、聞き取れたらラッキー程度に考えておいた方が安全です。意図をとり違えてしまうことが致命傷になりかねません。必要最小限に抑えるのが賢明です。
タイヤテストや開発テストでは走行時間が長く、時にセッションは8時間以上にも及びます。各種ミーティングもあり、ENGは一日中喋り倒します。冷えたビールだけではなく、喉スプレーや飴ちゃんは必需品ですね。
Drには感じたことを、そのまま簡潔に伝えて欲しいです。同じ事象を感じていても、Drによって表現は異なります。複数のドライバーがいても、それぞれの感覚や表現をENGは一つにまとめる能力が必要です。双方が正確にリンクするのには、最低でも1年程はかかるのかもしれません。
そういう意図もあって、普段から距離を縮めることは大切だと思います。関谷(正徳)さんは、15歳先輩です。御殿場在住ということもあり、現役のころは毎日昼食にお誘いいただきました。セットアップやタイヤのこと、時には私事情についてもよく話したものです。携帯電話を初めて購入したのはその頃で、通話の9割が関谷さんだったように思います。
(土屋)武士や(脇阪)寿一は10歳ほど下に離れていましたが、友人とか同僚のような距離感。年齢ではさらに下のアンドレ(・ロッテラー)や(中嶋)一貴も、年の離れた弟みたいな感覚です。
現在、主力のドライバーは、雄飛や亮を筆頭に若い人達へ。ENGも然り、自分の子どもよりも年下の世代に移っています。LINEを多用して時間を気にせず連絡を取り合えるようになりました。直接会わずともコミュニケーションは密になっているのかもしれません。
昨日の友は明日の敵、移籍が頻繁なこの業界には機密事項が多く、皆が本音で話すということでもありません。それでも、いち早く良い成績を残すには、DrとENGの間に隠しごとはない方が良いと思っています。