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スーパーGT ニュース

投稿日: 2021.11.02 19:41

HOPPY team TSUCHIYA 2021スーパーGT第6戦オートポリス レースレポート

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スーパーGT | HOPPY team TSUCHIYA 2021スーパーGT第6戦オートポリス レースレポート

HOPPY team TSUCHIYA
レース結果報告書
2021 SUPER GT Rd.6
オートポリス

■日時 2021年10月23〜24日
■車両名 HOPPY Porsche
■場所 オートポリス
■ゼッケン 25
■監督 土屋武士
■ドライバー 松井孝允/佐藤公哉
■チーム HOPPY team TSUCHIYA
■リザルト 予選21位/決勝10位

3人が発見した迷路の脱出口

 予選21位、決勝10位。スーパーGTラウンド6オートポリスでは、非常に貴重なポイントを獲得することができました。シリーズランキングに対してポイントが貴重なのではありません。土屋武士監督が次のステップを目指すために取り組んでいることが、成果となって現れてポイント獲得できたから貴重なのです。

 HOPPY team TSUCHIYAのレースレポートを今回もボク、ホピ輔(本名HOPPY Porsche)がお送りします。武士監督が取り組んでいる「次のステップを目指すために取り組んでいること」とは、25号車(ボクのことです)を、若いメンバーに任せきるということです。

 つちやエンジニアリングとしては244号車のメンテナンスも担当していて、実質的に2台体制なので、武士監督が全体をみる立場にいるべきという考え方もそこにはあります。しかし、それだけじゃなく来季に向けて準備していることがあるので、それをより高いレベルで実行するためには、ドライバーの松井孝允くん、佐藤公哉くん、トラックエンジニアの木野竜之介さん、チーフメカニックの武藤良明さんをはじめとする若いメカニックのみんなに任せて、みんなで自ら考えて判断して前に進むことが重要と考えたのだと武士監督は言います。「来季に向けて準備していること」が何なのかはいいタイミングで武士監督が発表してくれることでしょう。ともあれ、そんなトライを始めたのは、実質今季4戦目であるラウンド3鈴鹿から。鈴鹿はボクが一番苦手なコースでもあるし、堅くアプローチしてもあまり大きな結果は期待できない。だったら、失敗を恐れずにみんなでベストと思われるセットアップや戦略を考えて、思い切りやってみてというのが武士さんからリクエスト。

 セットアップについては公式練習だけでなく、予選前、決勝前にも大きく変更したものの、その結果、得られた答えは「この方向じゃないな」ということ。正解に到達しなかったとはいえ、疑問を残して進むより、やってみて間違いとわかれば、それも進歩なんです。

 ラウンド5 SUGOでもセットアップに関してそのトライは継続しましたが、さらに悪いところばかりが目立つようになり、戻るところがわからない迷子状態になってしまいました。ドライバーの孝允くんも公哉くんも、どこをどうしたいのか整理がつかないし、エンジニアの木野さんが「1回クルマを全部バラして、組付け精度を見直してみたい」とポツリと言うと、チーフメカの武藤さんとしては「ちゃんとやっているんだけどな」と信頼されていないのかと少し落胆してしまいます。

 まずい。このままだとチームがバラバラになってしまう……。ボクとしては心配することしかできません。この状況を痛いほど理解して、一番つらい思いをしていたのは実は武士監督でした。価値観を共有する仲間が集まって、チームとして一体になって戦うことを何よりも大事にする武士監督だけに、チームスタッフのそれぞれの気持ちが離れて、すきま風が吹いてしまうことは耐えられないのです。

 武士監督が介入、アドバイスして方向性を整理したら答えにたどりつくのかもしれません。でもそれをやったら、せっかく任せたここまでの2戦がムダになってしまう。手を出したい気持ちを武士監督はぐっとこらえました。それをみて動いたのが孝允くんです。公哉くんが使っているシミュレーター施設へと木野さんも伴い3人で行って、まずダメだったSUGOのセットアップの再現から始めました。

2021スーパーGT第6戦オートポリス HOPPY Porsche(松井孝允/佐藤公哉)
2021スーパーGT第6戦オートポリス HOPPY Porsche(松井孝允/佐藤公哉)

 ダメなフィーリングがシミュレーション上で再現できれば、解決方法もそこからみえてくる可能性が高まります。しっかりダメなセットをシミュレーター上で再現できたので、解決方法を検討して、さらにオートポリスのセットアップを検討していきました。

 シミュレーターでは、直接ドライビングをみることができますし、起きた挙動に対してドライバーがどう反応してどのようにコメントするのか、エンジニアの木野さんも挙動をみながら確認することができます。さらにはその状態で木野さんもシミュレーターでドライビングしてセットアップを確認しました。サーキットでのトラックエンジニアは、ロガーのデータとドライバーのコメントから挙動を想像することしかできませんが、シミュレーターならドライビングで実感することもできます。それにもしかしたら、技術的な面だけでなくどういう考え方をするのか、ドライバーとエンジニアの距離を縮める効果もあったのかもしれません。

「(鈴鹿とSUGOでは)ベースセッティングを崩してでもさらにパフォーマンスを獲りにいくことを狙ったのですが、なかなかうまくいくものがみつかりませんでした。限られた走行機会のなかで、それをみつけるのは難しいところもあるので、しっかりあたりをつけようとシミュレーターを活用しました。シミュレーターであればボクも乗ることができるので、ドライバーが表現している挙動は、この動きのことなんだとすごく理解が進んで、ドライバーとの共通言語がより正確になりました。動きを言葉でなく体感できれば、当然アイデアも浮かびます。あとは、この動きをこちらのドライバーは気にするけど、こちらのドライバーは気にしないんだとか、好みの差もわかって、どこに視点があるのか、この部分の理解も深まりました。非常に有意義でした」と木野さん。

 これは直接シミュレーターとは関係ないかもしれませんが、理解が深まった流れもあって、今回のレースでは孝允くんのドライビングのいい部分、公哉くんのドライビングのいい部分を戦略に活かすことにしたんです。孝允くんの武器は、タイヤ守るドライビングができること。ロングランでのタイヤの痛みは孝允くんの方が少ない。一方、公哉くんは、タイヤを早く作動させることが上手。スタートやアウトラップにこれは有利です。そこでドライバーとエンジニア3人で考えて、今回はいつもと乗る順番を変更しました。孝允くんがスタートをやって、後半を公哉くんが担当します。

 高地にあるオートポリスは、補正があるといっても空気密度の点で圧倒的ターボ車が有利。予選が厳しいことを織り込んで、孝允くんがスタートを担当して、できるだけタイヤを温存しつつコンスタントラップを刻む。タイヤに厳しいコースだから早めにピットインするクルマが多いはずで、その空いたスペースで飛ばして、できるだけピットインを引き伸ばす。そして後半は、早めのピットでタイヤがタレタレになっている上位車両を公哉くんが食って(抜いて)ジャンプアップ。こういう作戦でした。もちろんこれは、それが実行できるだけのタイヤを守るセットアップがあっての話です。

2021スーパーGT第6戦オートポリス HOPPY Porsche(松井孝允/佐藤公哉)
2021スーパーGT第6戦オートポリス HOPPY Porsche(松井孝允/佐藤公哉)

 予選はA組11番手で21番グリッド。でも今回のレースは絶対に上がっていける。武士監督はレース前から確信していました。

 孝允くんがスタートドライバーを務める決勝はスタート直後に抜かれて22番手、さらに7周目には23番手に落ちたものの、アクシデントにより導入されたセーフティカーランが解除されると、規定周回数をクリアしていたこともあり、前走車は次々とピットインして25周目には11番手に浮上していました。なおもステイアウトしてレースの折返しを過ぎた31周目には3番手に浮上。32周目にピットインして、リヤ2輪を交換、孝允くんから公哉くんに交代します。

 リヤ2輪交換によってピット時間を短縮したこともあり、33周目は16番手。34周目にリタイア車両があって15番手、その後35周目に5号車抜き14番手、39周目に60号車を抜き12番手、42周目に18号車を抜いて11番手、48周目に21号車を抜いて10番手に浮上。いつもストレートが遅い遅いと公哉くんに愚痴られているボクだけど、オーバーテイクはすべて1コーナー。作戦とセットアップのおかげとは言え、レース終盤を力強く戦うことができました。こんなにコース上でオーバーテイクしたのも初めてじゃないかな。

 オートポリスで事前にあったタイヤメーカーテストは雨が続きドライでテストできなかったこともあり、路面とタイヤのマッチングの点でライバルに少し差をつけられていたことや、高地でターボ車が有利な上に、ポルシェが苦手な切り返しのコーナーが多く不得意な部類にオートポリスが入ることを考えると10位の1点はすごく価値のあるものです。そして何よりドライバー、エンジニア、メカニックが自分たちで方向性を定めて実行して結果を得たことが収穫だったと武士監督は言います。

「任せると決めて臨んだ中盤の3戦、すごく苦しかったけども、最後に思ったとおりのレースになってボクのなかですごい達成感があるし大きな意味がある。鈴鹿では、ボクだったらやらないなというトライをして結果は出なかったけど、狙いが明確にあったから、それはそれでよかった。次のSUGOに向けては、レースウイークに入ったところで『応援してくれる人がいるから、しっかりリザルトを残そうね』と伝えたんだけど、結果的にはさらに迷走してしまった。どうしたらいいのか、ボク自身本当に悩んだし、苦しかったけど、みんなを信頼して、とにかく真意を伝えようとそれだけに努めた。孝允には『オマエがリーダーとしてなんとかしろ』と発破をかけたりね」

 それは常に最前線で引っ張る先代の土屋春雄さんとは違うスタイルだよね。

「そう、オヤジにはできないこと(笑)。逆にああいう才能はボクにはないし、そうした才能を木野くんは持っていると思う。その才能を伸ばせるのであれば本望。今回、公式練習、予選、決勝といっしょにサインガードにいて違和感がなかった」

 違和感がないとはどういうこと?

「何にも心配なことがなかった。信頼関係が高まったということかな。ひとりでレースしているのではなくて、みんながいてはじめて機能するのがチームであるということを共有できた。ボクが口出しも手出しもせずに、みんなで結果に結びつけてくれた。ここで吸収できたことは大きい。一気に成長できたと思うよ。そして次のレースは一番ホピ輔が得意なもてぎ。応援してくれているみんなにリザルトで恩返しができると思うし、ホピ輔もがんばってね」

 ちょっと緊張してきました……。引き続き応援よろしくおねがいします。

■松井孝允のコメント

「昨日の公式練習の段階で、ロングランがいい状態あることはわかっていたので、決勝に向けて自信はありましたが、まさかここまでいいとは思っていなかったです。今回、ボクがスタートを担当して、公哉選手が後半担当という作戦をエンジニアの木野さんが考えてくれて、これが本当にベストな戦略だったと思いますし、タイヤもいい状態が長く続いたので今回の結果につながったと思っています」

「レース序盤、周りをみていないドライバーに当てられて、感情的になりそうな場面もありましたが、落ち着いて自分をコントロールできて目の前で起きたクラッシュも回避することができました。荒れたレースのなか自分だけでなくチームも公哉選手もミスがなかったというのも大きいレースでした」

「今回、シミュレーターで試したセットアップを入れて、それがうまくはまりました。乗っていない時間を活かした努力が報われたのはすごくうれしいです」

■佐藤公哉のコメント

「とりあえず前に現れたクルマは全部抜きました(笑)。クルマはロングランで調子がよかったですし、タイヤもうまく最後までもってくれたので、力強く戦うことができました。このタイヤを用意してくれたヨコハマさん、セットアップを実現してくれたチームの皆さんに感謝したいです」

「しかしながら、上位を狙うためにはまだまだ課題は残っているので、みんなで力をあわせてやっていきたいと思います。次は一番狙っているもてぎです。表彰台を目指して、このまま上り調子を維持できるよう、しっかり準備していきます」

■土屋武士監督のコメント

「中盤戦は本当に苦しいレースが続きましたが、このオートポリスは10位ですが、現在のBOPと今回のパッケージでは素晴らしいレースができたと感じています。意味のある10位です。チームとしての活動テーマの一つは、若い人が成長する環境を提供すること。今回、このステージで理想的な成長をみんなが見せてくれたことが本当に嬉しいことでした」

「ただこの順位では応援して頂いている皆さんには納得してもらえないことは承知していますので、次戦の茂木は表彰台を目指してしっかりと戦っていきたいと思います。次戦も応援よろしくお願い致します!」

2021スーパーGT第6戦オートポリス HOPPY Porsche(松井孝允/佐藤公哉)
2021スーパーGT第6戦オートポリス HOPPY Porsche(松井孝允/佐藤公哉)


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