モータースポーツ専門誌のauto sport本誌では現在、スポーツカーをはじめ、ホットハッチ、セダン、スポーツクーペなどあらゆる市販ロードカーを“ぶった切る”ピリ辛・市販車インプレッションを不定期連載している。同企画に登場するのは、モータースポーツの中でも、いわゆる“箱車レース”と呼ばれるカテゴリーにおいて、レーシングマシンのベースとなるロードカーたちだ。
今回はそんな『ベースマシン一刀両断!!』シリーズの第6回目、アウディRS3編をお届けする。
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世の中が不条理なのは常識だが、ベース車両とレースカーの力関係が逆転するケースがある。アウディRS 3はそのひとつだ。
アウディA3シリーズは、乱暴に言えば同じグループに属するフォルクスワーゲン・ゴルフの兄弟車で、メカニズムも共通性が高い。スクエアなデザインでスペースを追求したゴルフに対して、A3シリーズはエレガントなボディラインとラグジュアリーな内装で仕立てられている。
その分、車内スペースは犠牲になっているが、あくまで広大なゴルフに比べれば、である。
A3シリーズの頂点に位置するのが“S3”。290psの2リッターターボ+7速DCT+クワトロシステムというフルスペックだ。ゴルフでいえば、ゴルフRに相当するもので、速くて乗り心地も良く、快適なスポーツモデルである。エンブレムの他にミラーがアルミニウム素地の鈍いシルバーに光るのが、通常のA3との差別点になる。
しかし、その頂点のさらに上に、特別なモデルが用意されている。それが“RS3”だ。補強されたボディはワイドフェンダーが与えられ、その迫力に合わせてエンジンは2.5リッター直列5気筒ターボを採用。最高出力は400psとなり、最高速度はスピードリミッターで280km/hに抑えられる。
■かつての主役V10のサウンドを現代に繋げる5気筒エンジン
あらゆる場面で優等生的なS3に対し、RS3はまったく別のメーカーが仕立てたかのように、感情的で刺激的だ。ステアリングの重さも違えば、サスペンションもシステムは同じながらもセッティングの方向性がまったく異なるなど、そのギャップは大きい。
その最たるものはエンジンだ。アウディにとって直列5気筒は伝統のひとつだが、現在は縦置きエンジンのモデルには使われていない。横置きエンジンのRSモデルにだけ与えられる特別な少量生産エンジンなのだ。