F1をはじめ、いくつかのカテゴリーの主役はV10エンジンだった。低めの回転ではバラバラするが、回転を高めるとともに混ざり合っていくあのサウンドは、澄んだ音のV12や太い音のV8とも違う、V10の個性だった。
それをRS3の直列5気筒は再現してくれる。もちろんターボ付きだし、レーシングV10のように超高回転まで回るわけでもない。しかし、巧みに制御された今日の4気筒ターボとはまったくの別世界だ。
遠慮なくスパッとスロットルペダルを踏み込むと、ビート感のあるエンジン音は回転上昇とともに高まり、マルチシリンダーらしい高音となる。
この種のハイパワーモデルで常識となったトルクリミッターの影響もあって、踏み込んだ瞬間のガツンという加速感はないのだが、それが余計に高回転での伸びを感じさせる。4気筒エンジンとの設計やパーツの共用化などによってコストダウンが図られているのは間違いないが、それでも特別に5気筒をラインアップしているという点が、アウディのメカニズムに対するこだわりであり、プレミアムブランドたる所以だろう。
なお、磁性体を含んだオイルによって瞬時に連続可変するマグネライド・ダンパー=アウディ・マグネティックライドがオプション装備として設定されている。現代のスーパーカーでは常識的になっているこのサスペンションだが、乗り心地と操縦安定性を高いレベルで両立させている。
環境性能においてさまざまな要求が高まり、現代のクルマは活力を失い続けている。もっとも顕著なのはエンジンだ。“カタログ燃費至上主義”の日本メーカーが作るものは論外としても、ヨーロッパの高性能エンジンでさえも無味無臭に近づいているように思える。
そんな現代で、アウディがエンジンの魅力をアピールする特別な5気筒を作り続けていることに、大きな価値を感じる。それだけに、その音をレースで聞くことができないのが、とても残念ではあるのだが。
■アウディRS 3 スポーツバック 主要諸元
| 車体 | |
|---|---|
| 車名型式 | ABA-8VDAZF |
| 全長×全幅×全高 | 4335mm×1800mm×1440mm |
| ホイールベース | 2630mm |
| トレッド 前/後 | 1560mm/1515mm |
| 最低地上高 | 120mm |
| 車両重量 | 1590kg |
| 乗車定員 | 5名 |
| 駆動方式 | 4WD |
| トランスミッション | 7速 Sトロニック |
| ステアリングギヤ形式 | ラック&ピニオン式(サーボトロニック) |
| サスペンション前/後 | マクファーソンストラット/4リンク |
| ブレーキ 前/後 | ベンチレーテッドディスク/ベンチレーテッドディスク |
| タイヤサイズ | 235/35R19 |
| エンジン | |
| 型式 | DAZ |
| 形式 | 直列5気筒DOHCインタークーラー付きターボ |
| 排気量 | 2480cc |
| 内径×行程 | 82.5mm×92.8mm |
| 圧縮比 | 10.0 |
| 最高出力 | 294kW(400ps)/5850-7000rpm |
| 最大トルク | 480Nm(48.9kgm)/1700-5850rpm |
| 使用燃料 | 無鉛プレミアムガソリン |
| タンク容量 | 55L |
auto sport 2019年4月26日号 No.1504より転載
