参加メディアからの質問へと移ると、ひとつひとつに真摯に答え、アツい思いを1時間近く語った。
昨年のインディ500ウイナーを使ってPRを行うのが伝統のインディ500。今年も琢磨がチケットやインディアナポリス・モータースピードウェイのゲートバナーに登場するなどインディアナポリスは琢磨一色となっており、そのことに質問が及ぶと昨年の経験を振り返る。
「2017年に勝って2018年にインディアナポリスに戻ってきた時も、恥ずかしくなるくらい街中が自分の顔でいっぱいでした。今回も街はバナーがいっぱいあり、実際のチケットを見れていないのですが、チケットの大きいボードを頂いたんです。これもすごく嬉しいですね」
「毎年、インディアナポリスの街をパレードするのですが、コロナのパンデミックで中止になってしまい、昨年は何十年もシーズンシートを買っているロイヤルファンにサプライズプレゼントを届けるイベントがありました」
「60年近くインディアナポリスに通っているおじいさんの家に行きました。連続でインディ500を観戦しているけど2020年は初めて行くことができない。なので、庭でエンジン音を聞きながら応援すると言ってくれました。歴代ウイナーののサインが書いてあるチェッカーフラッグを持っていて、自分もサインをさせていただきました」
「インディ500が人生の一部になっているようなファンの方が、ここを支えてくれているんだと胸が熱くなりました。レース期間中は全ドライバーの名前がストリートの名前になります。街全体が出場する33人のドライバーを称えてくれていると感じながら走ることができ、すごいイベントだと改めて毎年思いますね」とコメント。
観客が返ってくるのは大きなモチベーションになっていると語る。
「生で観戦することがベストですよね。スポーツだけでなく、音楽や芸術のイベントもそうですが、五感で感じることで熱狂することができると思います。ロードコースのインディGPでも観客が入り、2019年の最終戦以来にドライバーズパレードを行いました」
「F1に上がって、2002年のメルボルンのドライバーズパレードで、外人の観客の中に混ざって、たくさん日の丸や“琢磨頑張れ”と声援が聞こえた時に涙が出るくらい嬉しかった。ドライバーズパレードがめちゃめちゃ楽しくて嬉しかった。それをインディGPで思い出しました」
「コースと観客が離れてはいるんですが、よく見えるんです。手を振ると半分くらいのお客さんがスタンディングオベーションで迎えてくれる。うれしかったですね。インディに来てくれるファンはずっと自分の歴史を見てくれているんだなと……。その景色を見た時に、やっぱりスポーツだと感じましたね」と琢磨。
またエアロパッケージ変更による燃費について聞かれた琢磨は、「タービュランスの中で強いクルマになりましたが、ダウンフォースが上がりドラッグも上がりました。なので燃費は悪いです」
「難しい問題です。バージボードもディフューザーも自由で、単独で昨年までの燃費にすることはできます。それでは勝てないので、21年のはハイダウンフォース仕様に合わせこむしかない。ダウンフォースの効率を上げつつ、ドラッグを極限まで下げる方向にシフトすると思いますね」
「昨年まで32~33周まで引っ張れて走れたのが、1周少なくなる。全開で28周くらいのドラッグレベルになると思います。その状況だと一列の列車のような状況になってしまう。その中で勝つためにどうするかをこれからやらなければならいけない」
「先頭を走りながら、なるべく抜かれないくらいまでドラッグを削る。それだと2番手、3番手に落ち時に上がってこれず、10番手まで下がってしまったら絶対に上がってこれない。なので走っているトラックポジションと予選が大事になります」
「昨年の勝因は、コンシスタンシー。タイヤを持たせられる安定したクルマづくりでした。予選をそれで戦うと、トップチームに対してスピードが平均時速1マイルほど足りなかった。フロントロウに行けたのは平均値を上げたからです。最高速は1.5~2マイルくらい負けていますが、そこから平均値で勝った」
「レースでも同じですね。スタート直後はあっさり抜かれて3番手に落ちて、フレッシュタイヤの時は速く走りたくても走れない状況でした。ほかのクルマはタイヤが落ちていきますが、僕はほぼ落ちない状況に持っていき、抜かれても抜き返す。最後のディクソンの戦いでも、イエローの前の3周は引き離すかたちだった。タイヤをうまく使える状況になっていたからです」
「今年もラスト50周の2スティントでクルマを変えないで、最後の30周を全力で走ることができるマシンづくりを今年も考えています。ですが、今年はタイヤとタイムの落ち込みが昨年よりもずっと少なくなるはずなので、自分の強みであるタイヤが厳しくなった時にペースを維持できる戦略のアドバンテージが今年はないに等しい」
「なので、絶対的な速度を上げるべく、今年は予選からアプローチを変えるようプログラムを立てています。予選ではフロントロウを狙いますが、平均値を上げるだけでなく、絶対速度をトップチームと同じくらいにしたいですね」と今年のセッティングの難しさを語る。
インディ500での今年のライバルを最後に聞かれた琢磨は、「(スコット)ディクソンが強いと思います。昨年途中で落ちてしまった(アレクサンダー)ロッシも強力なライバルになると思います。若手ドライバーもくると思いますね」とコメントし、レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングの3台目のドライバーとしてスポット参戦するサンティーノ・フェルッチについても言及する。
「同じ環境、同じ道具を使うので、自分のチームメイトもライバルですね。サンティーノ(フェルッチ)は、昨年4位、ルーキーイヤーが9位だったと思うんですが、けっこう暴れん坊なイメージだったけど、昨年は最後コントールして4位に持ち上げており、彼もすごいと思います」
「昨年の決勝ではうまくいかなかったけど、アレックス・パロウもディクソンと同じものを手にしていると思うと強いと思うし、かなり乗ってきているパト(オワード)もそうですよね。言い出すとキリがないですね……でも、やっぱりディクソンがいちばんかな」と語った。
インディ500は18日からプラクティス走行がスタートし、22、23日に出場33グリッドを決める予選が行われ、28日に最後のプラクティス走行であるカーブデイ。そして30日に決勝レースが行われる予定だ。
ディフェンディングチャンピオンとして3度目のインディ500制覇を狙う佐藤琢磨。今年はどんな活躍をみせてくれるだろうか。