係数が変わってウエイトハンデが半減するスーパーGT第7戦オートポリスは、チャンピオン争いのまさに天王山となる。昨年のオートポリス戦は第3戦として6月頭に決勝が行われたが、今年は残り2戦、そして11月1日が決勝レースとなり、一昨年までのスタイルに戻る形となった。

 2013年までは、このオートポリスで優勝、または表彰台を獲得したチームが、ウエイトハンデがなくなる最終戦のツインリンクもてぎ戦でも引き続き好結果を残してチャンピオンを決める形が定番となっていた。今シーズンのGT500クラスは、ランキング上位陣のポイント差がそれほど広がっていないため、今回のオートポリス戦も、一昨年までのようにチャンピオンへの分かれ目となる。

 今回の大本命は、ポイントリーダーでもあるカルソニック IMPUL GT-Rだ。ウエイトハンデは51kgと最大だが、50kg分は燃料流量リストリクターでの制限に変換されるため、実際の重りとしてはわずか1kg分となる。アップダウンが激しく、切り返すコーナーが多いオートポリスではウエイトが敏感にタイムに影響してしまうため、重りを多く積んだランキング上位陣に比べ、カルソニックは数字以上に厳しくはないと見られている。

 実際、カルソニックの島田次郎エンジニアも「事前テストは悪くなかったですし、燃料流量の分はラップタイムとしては楽になります」と、その有利な状況を認める。ただし、もちろん厳しい部分もある。

「とは言え、厳しい戦いになると思います。ストレートも1台だけ7〜8km/hは遅くなる」と島田エンジニア。さらに、今回のカルソニック陣営が懸念材料に挙げるのが安田裕信のペナルティだ。

 安田は、前回のSUGOでイエローフラッグを無視したとしてペナルティポイントが累積し、ドライビング・モラルハザード制度により今回は練習走行に参加不可となってしまった。今回、安田は練習走行を走れず、いきなり予選を迎えることになる(※サーキットサファリは走行可能)。ここ数戦、予選Q1のタイム差はかなりの僅差となっており、いくら安田と言えども、いきなりの予選アタック走行は大きなハンデとなる。ましてや、優勝を狙うカルソニックにとって、ジョアオ-パオロ・デ・オリベイラと安田のどちらをQ1/Q2の担当にするのかは難しい問題。あくまでポールポジションを狙いにいくのか、それとも、確実にQ2に進出する戦略を採るのか、島田エンジニアも頭を悩ませる。

「それは朝の練習走行を見て、他車との関係を見て決めますが……そんなに(周りに)言われるほど、有利ではないです。まずは明日が勝負です」

 カルソニックだけでなく、今回のオートポリス戦は不安要素だらけだ。昨年は6月の開催だったため、現行車両が10月のこの時期にオートポリスを走行するのは始めて。さらに、10月上旬に行われたタイヤメーカーテストでも気温が30度近くになり、今回とは15度以上路面温度が異なる。そのため、テストで試したタイヤは使用できず、テストデータは参考にしかならない。実質、どのチームも初走行に近い状態で今回のオートポリスを戦うことになるのだ。

「明日の朝(練習走行)、走ってみないと何もわからない」と複数のエンジニアが話すように、各チーム、持ち込みのセットアップとタイヤ選択がライバル陣営と比較してどのような関係にあるのか、走り出してみないとまったく分からない状況だ。言い換えれば、細かなセットアップを詰める以前の戦いになることが予想され、その状況ではウエイトハンデの多少の差は、今までのレースほど影響は大きくない。

 また、今週末のレースを占う上で外せないのが、タイヤのピックアップの問題だ。通常、タイヤの表面で摩耗したゴムは自然と飛ばされていくが、低い路面温度でのロングランの際にゴムが飛んで行かず、表面に張り付いたままになって振動やグリップダウンなどの悪影響を及ぼしてしまうことがある。この問題はクルマのセットアップや乗り方などさまざまな要因が絡んで起こるが、原因を特定するのが困難で、一度この症状が出てしまうと解決は難しい。どのタイヤメーカーでも起こる減少だが、特にブリヂストンユーザーの間からこうした声が多く上がっており、チームの懸念材料のひとつとなっている。

 さらにもうひとつ、今週末のレース展開をさらに不透明にさせる要素として、雨の可能性が挙げられる。九州地方を覆う低気圧の影響で雨の可能性があり、さらにこの低気温によって日曜の決勝朝はみぞれが落ちるとも伝えられている。夏の暑い時期ならともかく、この低い気温で冷たい雨の中でウエットタイヤを試しているタイヤメーカーはほぼ皆無で、そうなると勢力図はまったく見えなくなる。ウエイトハンデの重いチームにとっては雨になればそのハンデも少なくなって戦いやすくなるかと思ったが、ZENT CERUMO RC Fの村田卓児エンジニアが「この低い気温での雨よりも、ドライで走れた方がエンジニアとしてはいい」と話すように、やはり雨のレースは多くのチームが避けたいようだ。

 一方、GT300は今回、現在断トツでランキング首位のGAINER TANAX GT-Rのアンドレ・クートがドライバーズチャンピオンを決める可能性がある。そのクートは、74kgとウエイトハンデは厳しいが、それほど気にしていない様子だ。

「もちろん、どのレースも優勝を狙っている。ライバルが大勢いるから全レースで優勝することはできないけれど、考え方はいつも同じなんだ。もちろん、今回もそうだよ。BoP(バランス・オブ・パフォーマンス/性能調整)やハンデウエイトが厳しいけれど、ミスをしないことが重要になると思う。最適なセッテイングやタイヤを見つけることだけを考えて、決勝レースに向けていいマシンバランスを見つけたい。ここにはいい思い出(2012年にポールポジション獲得、決勝で3位表彰台)もあるから、それを再現できたらいいね」とクートは話す。

 このオートポリスは、コースレイアウトの特性上、コーナリング速度が高いJAF勢にアドバンテージがありそうだが、今年のGT-Rはどのサーキットでも安定して速く、クートが上位入賞を果たして一気にこのオートポリスでタイトルを決める可能性も高そうだ。

 GT300の優勝候補としてはSUGOで初優勝を果たしたVivaC 86 MC、ARTA CR-Z、シンティアム・アップル・ロータス、SUBARU BRZ R&D SPORTのJAF勢が挙げられる。ただし、レースでは直線速度に勝るGT3勢が強いため、JAF勢は予選でGT3勢より前のグリッドを奪うことが必須になる。GT300、そしてGT500ともに、今回はいつも以上に予選が重要な要素になってきそうだ。

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