いよいよ11月14日〜16日に、ツインリンクもてぎで2014年のスーパーGT最終戦となる第8戦が開催される。注目のチャンピオン争いはどうなるだろうか? オートスポーツweb的プレビューをお届けしよう。
●注目のGT500チャンピオン争い。取りこぼしはNG
DTMドイツツーリングカー選手権と車両規定を統一化し、大いに変化を遂げた2014年のスーパーGT500クラス。当初心配されたマシントラブルはホンダNSXコンセプト-GTをのぞけばそこまで多発することはなく、NSXコンセプト-GTも第4戦SUGO以降は劇的にポテンシャルを上げ、スーパーGTならではと言えるドッグファイトが毎戦展開されてきた。
今シーズン顕著となったのは、マシンが変わってもスーパーGTの“本質”はまったく変わらなかったことだろう。最大の特徴であるマルチメイクのタイヤの性能をいかに活かしきるか、そしてGT300との混走となるレースでいかにドライバーとチームがエラーを減らすか、ウエイトハンデとうまく付き合うか。シリーズではなるべく多くのポイントを毎戦稼ぎ、取りこぼしを減らすか。こうした積み重ねこそが、シリーズチャンピオンへ近づく大きな一歩となる。
迎える第8戦ツインリンクもてぎは、そんなシリーズの集大成だけに、取りこぼしは絶対に許されない。加えて今季のGT500クラスのシリーズポイントランキング上位は大接戦だ。タイトルの可能性があるどのチームも上位フィニッシュは必須。予選から見どころ満載なのは間違いない。
●有利なのはトムスの2台。ライバルたちは上位入賞が必須
最終戦もてぎを前に、第7戦タイを終えた時点のシリーズランキングを整理しておこう。GT500クラスでは、第6戦鈴鹿、第7戦タイとPETRONAS TOM'S RC Fが連勝を飾り、ジェームス・ロシターが選手権を一歩リードしている状況。チャンピオンの可能性を残すのはKeePer TOM'S RC Fの伊藤大輔/アンドレア・カルダレッリ組(64点)、MOTUL AUTECH GT-Rの松田次生/ロニー・クインタレッリ組(61点)、カルソニックIMPUL GT-Rの安田裕信/ジョアオ-パオロ・デ・オリベイラ組(60点)、PETRONAS TOM'S RC Fの中嶋一貴(59点)、ウイダー モデューロ NSX CONCEPT-GTの山本尚貴(53点)となっている。
この中で、中嶋一貴はロシターと最終戦で組んで出走するため、この時点でチャンピオンの可能性はなし。“自力チャンピオン”の可能性をもつのはトムスの2台(36号車はロシター)となっている。一方、ランキング3位のMOTUL AUTECH GT-Rのふたり、4位のカルソニックIMPUL GT-Rのふたりにとっては、4位以上が必須。その上でトムス勢の順位を見なければならない。ランキング5位の山本は、2位以上が絶対条件だが、優勝してもロシターが4位に入ったり他陣営が上位に食い込めばタイトルはない。
●最終戦をうらなう上で必要な3車の戦力図
このタイトル争いの条件を踏まえた上で、今季ここまでのGT500クラス3車の戦力図をざっと解説しておこう。まず前提として復習しておきたいのが、2014年からGT500クラスに導入された新規定車両はふたつのエアロを持っていたこと。通常コース用のハイダウンフォース仕様と、富士スピードウェイ用のロードラッグ仕様のふたつだ。また、ウエイトハンデは昨年まで同様50kgまでは重りとして積まれるが、50kg以上は2014年からの新エンジンにおける機構『燃料流量リストリクター』を使って、パワーを絞られる調整が行われたことだ。
その上で見えてきた戦力図としては、ニッサンGT-RニスモGT500はハイ、ローどちらのエアロもバランスが取れており、両コースでバランスされた速さをもっていたこと。また、レクサスRC Fはハイ、ローどちらもダウンフォース量が多く、当初予定と異なりロードラッグ仕様が使われたSUGO等では速さを発揮したものの、全体的にドラッグが大きいのか直線スピードで苦戦。また、燃料流量リストリクターダウンの影響がいちばん多く感じられたのがレクサスで、一発の速さでは苦しむシーンが多かった。
また、NSXコンセプト-GTは、第4戦の改良以降速さを増したが、まだセットアップが3戦分時間が足りないのか、速いマシンは速いのだが、苦労しているマシンもいる。ラウンドによっても少々バラつきがあるのが特徴的だ。このあたりの3車の戦力図については、現在発売中のオートスポーツNo.1393号に詳しいので、ぜひチェックして欲しい。
●GT-R勢は予選先行が必要? “伏兵”たちがドラマを呼ぶ?
それを踏まえて、最終戦もてぎでのタイトルコンテンダーたちの戦いを占ってみたい。既報のとおり最終戦もてぎはウエイトハンデがゼロになり、全車が同じ条件で戦う。シーズン開幕戦と同じ状況だが、各チームのセットアップが進んでおり、開幕と同じ戦力図にはならないはずだ。特にGT-R勢やNSXコンセプト-GT勢はシーズン途中で投入した“ジョーカー”と呼ばれる空力パーツにより、スピードに磨きがかかっている。
逆転タイトルを狙うGT-R勢にとっては、まずは予選で前を奪うことが重要になる。これまで燃料流量リストリクターがダウンされ続けたMOTUL AUTECH GT-Rは、リストリクターが外れどんな速さを見せるのか楽しみなところ。カルソニックIMPUL GT-Rも予選、決勝を通じてスピードがあるのは間違いなく、第2戦の再現を狙ってくるのは間違いない。
一方のトムス勢のうち、PETRONAS TOM'S RC Fは中嶋一貴という“一発”もある。これまで予選でレクサス勢が苦しむ中、一貴は大逆転でポールポジションを獲得してきたことが今シーズン何度もあった。一貴自身はタイトルがかかっていないこともあり、余分なプレッシャーもないだろう。KeePer TOM'S RC Fも、燃料流量リストリクターダウンの影響を多く受けた1台だが、地力の速さ開幕時にみせたとおり間違いなくある。MOTUL同様、こちらも燃リスが外れた速さが気になる1台だ。
ウイダー モデューロ NSX CONCEPT-GTについてはフレデリック・マコウィッキに代わり伊沢拓也がひさびさにスーパーGTを戦うことになった。伊沢は今季スーパーGT初参戦だが、多くの経験を持っている上に、NSXコンセプト-GTは開発から携わった経験をもつ。最も頼りになる助っ人のひとりと言っていいだろう。
ただ、そんなタイトルコンテンダーたちだけでレースを争う訳ではない。タイトル争いからは外れたものの、来季に向けて1勝を挙げておきたいチーム、ドライバーが上位進出を目指してくるはずだ。もてぎを得意とするENEOS SUSTINA RC FやRAYBRIG NSX CONCEPT-GTなど、タイトル争いを“引っかき回す”チームの動向からも目を離すことができない。
●勝負のカギを握るのはやはりタイヤ? ピックアップも
そんなGT500クラスの勝負の鍵を握るのは、やはりタイヤだろう。今季ブリヂストンとミシュランの戦力差はかなり拮抗していると言っていい。夏場強いと言われるミシュランが、冷え込みが強くなるもてぎでどんなパフォーマンスをみせるか。
さらに、夏以降調子を上げてきたダンロップ装着のEpson NSX CONCEPT-GT、そしてタイで素晴らしい速さをみせたヨコハマ装着のD'station ADVAN GT-R、WedsSport ADVAN RC Fの2台も今回要注目と言える。2014年の集大成となるレースで、3台ともに上位に食い込む速さをみせてくるはずだ。また、ダンロップとヨコハマは直前に岡山でテストも行っている。
また、この季節のレースにつきものと言えるピックアップの問題も見逃せない。特に今季は昨年よりも開催時期が遅く、気温もその分下がる可能性もある。タイヤの表面にゴムが付着し剥がれないピックアップは、一度見舞われてしまうとガクンとペースが落ちてしまう。これはメーカー問わずの問題で、“剥がしやすい”走り方やセットアップも存在するというが、タイトルを争うチームにとっては戦々恐々だろう。
ちなみに、今回のスーパーGT第8戦もてぎは、金曜日に走行枠が設けられている。各チームここである程度セットアップやタイヤの絞り込みが進められるはずで、予選は想像以上の僅差になる可能性も。逆に、ここでトラブルや思わぬクラッシュに見舞われた場合、思わぬ遅れに繋がってしまう可能性もあるかもしれない。
とは言え、予選で多少遅れてしまったとしても、第7戦タイでレクサス勢がみせたように、決勝の戦略で一気に劣勢を挽回できる可能性もある。3日間を通じて、今回のスーパーGT第8戦は一瞬たりとも目を離すことができない戦いとなりそうだ。
●三つ巴のGT300チャンピオン争い。ミクZ4が絶対優位?
GT300クラスは、今季ここまでの戦いでチャンピオンの権利を残すのは3台に絞られた。今季開幕2連勝を挙げ第5戦以降も上位フィニッシュを繰り返し、ポイントを稼いできたグッドスマイル 初音ミク Z4の谷口信輝/片岡龍也組が9ポイントをつけ選手権をリード。GAINER DIXCEL SLSの平中克幸/ビヨン・ビルドハイム組、Studie BMW Z4の荒聖治/ヨルグ・ミューラー組が58ポイントで並んでいる。
グッドスマイル 初音ミク Z4のふたりにとっては、3位以上を獲得すれば勝利数でチャンピオンが決定する。逆に他の2台にとっては、3位以上の入賞が絶対条件。状況としてはGSRのふたりがかなり有利な状況下にある。
とは言え、ドライバーのふたりは「有利だけど全然安心していない」と口を揃える。と言うのも、最終戦の舞台はツインリンクもてぎ。ブレーキが重要なコースであり、ブレーキングに最も優れていると言われるのが、メルセデスベンツSLS AMG GT3だからだ。実際、GAINER DIXCEL SLSは昨年のもてぎでも優勝している。
一方で、グッドスマイル 初音ミク Z4、Studie BMW Z4が使うBMW Z4 GT3は今季決勝レース中のペースが非常に良い。タイトル争いには絡んでいないがTWS LM corsa BMW Z4も同様で、14年型Z4 GT3は「距離が長ければ長いほど有利」なクルマだという。ドライバーラインナップの良さもあるが、タイトル争いで有利にいるのは、こういった理由もあるだろう。逆に「距離が長ければ長いほど有利」であるということは、250kmで争われるこのもてぎは若干不利とも言える。
GT300クラスも当然ほぼ全車がノーウエイトとなり、まさに“ガチンコ勝負”と言えるが、ウエイトがほぼなかった開幕2戦で連勝を飾ったのはグッドスマイル 初音ミク Z4だった。いったい誰が最後に笑うのか、こちらも見逃せない週末だ。
●来季に繋げたいチーム&ドライバー。光る走りをみせるのは
GT500クラスも同様だが、GT300クラスでも来たる2015年シーズンに向けて、しっかりと自らの存在をアピールし、来季のシート獲得を目指すシーンが数多く見られるのも最終戦の特色。多くのマシン、ドライバーが参加するスーパーGTでは、シーズンで一度でも表彰台に乗っていると評価はかなり上がると言っていい。
当然、それは予選一発の速さはもちろん決勝でのオーバーテイクやペースといったところに現れるが、多くのドライバーが来季に繋がる光る走りをみせようとしてくるはず。近年スーパーGTはストーブリーグも少しずつ早まっているため、各ドライバーにとっても重要なレースとなるだろう。
ちなみに言えば、今シーズンはJAF Grand Prix FUJI SPRINT CUPがないため、2014年シーズンのドライバーラインナップ、マシンはイベント等をのぞけば“見納め”となる。ファンの皆さんはぜひともレース後のシーズンフィナーレ等で、ドライバーの勇姿をしっかりと目撃しておいてほしいところだ。