PETRONAS TEAM TOM’Sの中嶋一貴、アンドレ・ロッテラーという強力なライバルを打ち破り、P.MU/CERUMO・INGINGの石浦宏明が見事、スーパーフォーミュラで初のチャンピオンを獲得した。石浦は今季第2戦の岡山で初優勝を飾ってランキングトップに立った後、一度もその座を譲ることなく栄冠を手にした。30年以上の歴史をもつセルモだが、国内フォーミュラのタイトル獲得は初。石浦とセルモが今年、ここまでの強さを見せた理由はどこにあったのか。
「強いて一点挙げるなら、第2戦岡山の優勝が大きかった」と振り返るのは、スーパーGTでは石浦のチームメイトであり、SFではチーム監督を務める立川祐路。
「あの優勝でチームとしても勢いに乗れたし、石浦も初優勝で自信がついた。それまでも周囲の関係者は石浦の実力を認めていたけど、トップフォーミュラで優勝したという目に見える結果を得たことで石浦も自信がついて、それまでは『勝ちたいな』だったのが、『勝たなくちゃいけない』、『負けるわけにはいかない』というプライドが出てきた」
立川監督の目には、プライドの芽生えた石浦が「ドライバーとしてのレベルが上がった」と映った。そして、実績だけでなくドライバーとしてひと皮向けた石浦とともに、チーム・セルモのステップアップが同調した
「タイトルを獲れた要因はいろいろとあって、ここ数年は毎年成績も良くなってきて、チーム力が上がった」と立川監督が話せば、石浦担当の村田卓児エンジニアもセルモのチーム力向上を認める。
「2012年からトップフォーミュラで2台体制にして、序々に2台での機能がきちんと回り始めた。2台での参戦のメリットは走行データが取りやすくなるという面がありますが、それ以前に2台体制はチーム側としての運営が大変でバタバタしやすいというデメリットがある。そこのチームとしての機能が今年、うまく噛み合うようになってきて、シーズン中のミスもほとんどなくなった」
SFだけでなく、スーパーGTと合わせた今年のセルモの好調ぶりをみると、村田エンジニアの言葉には説得力がある。
その一方、石浦&セルモのシーズンを通しての安定した好調ぶりと異なったのが、最大のライバルでもあるトムスの2台だ。開幕戦を制したアンドレ・ロッテラーは「シーズン中盤は予選が良くなかったし、ジャンプスタートをして自分自身もミスをしたり、とにかくいろいろ問題があった」と振り返るように、夏場に低迷。最後の2戦で復調して連勝を飾り、3連勝も目前だったがトラブルもあり、タイトルには届かなかった。
石浦の直接のライバルとなった中嶋一貴も、第2戦岡山を欠場したことを考慮すればチャンピオンに匹敵するパフォーマンスを見せていたと言えるが、一貴担当の小枝正樹エンジニアの見方は異なる。
「たしかにレースでの成績は良かったですが、それぞれの内容は良くない。予選でポールを獲れたわけでもなく、上位3台にもほとんど入れなかった。スタートで一貴が頑張ってくれたおかげで成績はよかったのですが、クルマとしてはいい出来だったとは言えません。結局、決勝で(首位に)付いて行けないという展開が多かった。いろいろセットアップを変えた中で、オートポリスではいい方向に行ったのですが、そこからはやることなすことうまく流れていかなくなってしまった」
小枝エンジニアの言葉の通り、一貴はシーズン終盤に調子を上げてきたロッテラーに反するように最後の2大会で低迷。特に最終戦の鈴鹿では「何をやってもダメ。迷宮入りしてしまった」(一貴)と、勝負どころで力を発揮できなかった。トムスとしては上位で常に戦えていたものの、石浦&セルモという基準で見るとパフォーマンスの安定感を欠いたのが、ドライバーズタイトルを逃した一番の要因になってしまった。
最後に、セルモの村田エンジニアに石浦と過去のチャンピオンの比較を聞いた。村田エンジニアはこれまで本山哲、松田次生の担当エンジニアを務めてタイトルを獲り、今年の石浦で3人目、3度目の“チャンピオンエンジニア”となった。「3人とも、それぞれ得意不得意が違う。その中でも石浦はとにかく、どんな状況でも落ち着いて冷静でいられるのが強み」と石浦を評す村田エンジニア。
さらに意地悪な質問として、あえて石浦への今後の課題を挙げてもらった。
「チャンピオンを獲って、今度は来年、追われる立場になる。そうするとまた違ったプレッシャーがかかってくる。そのプレッシャーの中で、どう戦えるか」。村田エンジニアにとっては、そこがドライバーとしてさらに一段、高みに行けるかどうかのバロメーターになるのだという。
来季はブリヂストンからヨコハマへとタイヤが替わる。チーム、ドライバーとしてはまた一度、勢力図がリセットされる可能性がある。その中で石浦&セルモがどう戦うか。そしてトムスを始め、ライバル陣営がどう巻き返すか。スーパーフォーミュラの楽しみはまだまだ尽きない。