スーパーフォーミュラをテーマに、シリーズ参戦ドライバーひとりひとりにスポットを当てて紹介していくオートスポーツwebのオリジナルインタビュー企画『ソコが聞きたい!』。第4回目はTEAM無限の山本尚貴にフォーカス。
2013年シーズンのスーパーフォーミュラで、“奇跡”とも言われた逆転劇でチャンピオンを獲得し、一躍ホンダのエースへと上り詰めた山本。しかし、新規定のもとで迎えた14年は、前半戦ではトヨタエンジン勢を前に苦戦。後半戦では2度のポールポジションを獲得するもスタートで順位を落とすなど、表彰台に上ることはできなかった。また今シーズンは、開幕前のテストから上位に名を連ね、開幕戦では幸先良くポールポジションを獲得。ただ、決勝では3位走行中の最終周にトラブルでリタイアを喫すると、その後も何か噛み合わないようなレースが続くことに。サーキットで話を聞いていても悩める様子が伝わってくるなど、“どん底”とも言える状況に見えた。
一体、今季の山本に何が起きていたのか。復活を印象付ける2位表彰台を獲得したSUGO戦の、走行前となる搬入日に話を聞くと、その不調の要因だけでなく、13年に王座を獲ったことの影響や、心中に秘めた信念、そして意外な一面までもが浮かび上がってきた。
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Q:今季の開幕から5戦を振り返って、山本選手としてはどのように感じていますか?(※このインタビューは第6戦SUGOの搬入日に収録しました)
山本:正直、開幕戦の段階ではこうなることは予想していなかったですね。ここまで上位で戦えないレースが続いたり、苦戦をするとは思わなかったですが、今にして思えば、自然な結果なのかもしれません。
Q:それはつまり、予兆のようなものがあったということですか?
山本:去年と同じアプローチをしているのに、同じように走ることができなかったんです。でも、そのことに開幕戦の鈴鹿や岡山で気付くことができたかというと、できませんでした。鈴鹿ではポールポジションを獲得していますし、それによって余計に迷いも生じていましたね。富士やもてぎでは、こんなはずはないと思っていましたが、オートポリスでようやく、去年のままでは走らない、通用しないということに気付くことができました。
Q:オートポリス戦までの山本選手は、サーキットでもかなり悩まれているような印象がありました。
山本:そんなに暗い顔をしていましたか(苦笑)? でも開幕戦では、PPを獲ったもののスタートを決めることができなかったり、最終周でエンジンにトラブルが出てしまい結果が残せなかった部分はありましたが、そこまで落ち込んではいなかったんです。このクルマさえあれば、今年は戦えるなという自信もありました。ただ、岡山くらいからちょっとしんどいなと感じ始めて……富士は予選最後尾でしたし、何かリズムが良くなかったですね。絶対的なポテンシャルをもち合わせていないと感じ始めてからは、正直悩んでいました。
●「オフがあるからこそ、レースに戻りたくなる」
Q:悩んでいる時に、山本選手はレースを離れたところではどのように気分転換しているんですか?
山本:最近は、まったくレースに関係ないことをするようになりました。2013年より前は、レースで勝てない時期がすごく続いていたので、勝ちたいという思いばかりで、常にレースのことばかり考えていましたね。ただ、いい意味でオンとオフの切り替えがプロとして必要だと感じたんです。休みと決めた日には、レースと関係のない時間を作ることも大切なのかなと。それに、オフがあるからこそ、僕はやっぱりレースが好きなので、クルマに戻りたい、レースのことを考えたいという思いにもなりますしね。
Q:山本選手のオフが全然想像できないのですが……何か、趣味などはあるのでしょうか?
山本:僕、昔から料理を作るのが好きなんですよね。料理をして食べたりだとか、あとはちょっとドライブをしたりだとか、遠出したり……とかですかね。
Q:料理好きとは、意外な一面でした。ちなみに、得意料理は?
山本:自分からも発信はしていないですからね(笑)。結構なんでも作れますが、(得意料理は)和食かイタリアンです。
Q:少し話題がそれましたが、そうして気分転換をして、またレースに臨むわけですね。
山本:少し前までは、結果を残せていないのにそういうことをする自分が許せないし、許してはいけないと思っていたんです。ただ、2013年にスーパーフォーミュラでチャンピオンを獲り、スーパーGTでも初優勝したことで、オンとオフのメリハリを作れるようになった部分はあると思います。
Q:そういう意味では、やはりチャンピオンを獲るというのは大きいということですね。でも逆に、タイトルを獲ったことがプレッシャーになっているような部分はないのでしょうか?
山本:タイトル獲得は大きかったと思います。プレッシャーだとは捉えていなかったのですが、自分の中で変なプライドが生まれてしまった部分はあったかもしれません。獲ったことで自信もつき、獲ったからこそとらなくてはならない行動だったりとか、残さないといけない結果だったりという思いが自分の中で芽生えました。ただ、それが変に使命感であったり、プライドとなったりしてしまい、結果的にはプレッシャーにつながってしまっていた部分はあるかもしれない。自分としてそうしようとしていたわけではないのですが、よくも悪くもタイトルを獲ったことが影響した部分は、14年、15年シーズンはあるのかなと思っています。
Q:とは言え、そうして自己分析できるということは、今はそういったものはあまり感じなくなったということなのですか?
山本:少しずつ自分を客観的に見ることができて、そういう自分がいたなと最近になって分かるようにもなりました。ただ、やっぱり結果を残す、優勝をしないとこのもやもやした感じはとれないし、すっきりはしないんですけどね。
●「負けた時にいかに腐らずにいられるか」
Q:その“結果”という点では、スーパーGTに話は飛んでしまいますが、9月のSUGO戦で優勝した影響は、やはり大きかったですか?
山本:大きかったですね。スーパーGTは、伊沢(拓也)選手とチーム国光で勝てたということも大きかったです。あの環境の中で、自分が勝てない要素になってしまっているのではないかと思う部分もあったので、やっとあの体制で結果を残すことができて、よかったなという思いが強かったですね。
Q:今年の山本選手の流れとしては、SF開幕戦でPPを獲れたところをピークに、歯車のかみ合わせが悪くなってしまっていたものの、GTのSUGOでの優勝でまた良くなってきたようなイメージなのでしょうか。
山本:そうですね。スーパーGTでも、開幕戦でトップ争いの末に2位になって、今年はいけるのではないかと思ったのですが、そこからは本当にトラブル続きとなるなど、悪い時期がどちらのカテゴリーにも連鎖してしまっていました。ただその時に、腐らないでいることができました。ダメだった時に、今回は運がなかったねと投げ出してしまっていたら、絶対に勝てなかったと思います。
レースをやっている以上、いい時もあれば悪い時もあります。僕は、負けた時にどれだけ腐らずにいられるかということを、自分の中で崩してはいけない部分だと思ってずっとやってきているんです。その中で、ちょうど今はいい時期になりかけているので、頑張りたいなと思います。
Q:ホンダ陣営では、野尻智紀選手も速さを見せていて、昨年のSUGOで優勝しているほか、今季も上位争いを展開していますが、そのことに関して焦りだとかそういったものはあるのですか?
山本:焦りがないといえば嘘になります。ですが、焦りよりもやっぱり悔しいという思いの方が大きいですね。同じメーカーのエンジンを積んだドライバーが先に勝ったり、表彰台に上っている姿を見て悔しくないはずがないし、絶対に次は自分がやってやると思います。もちろん、他のライバルとも順位を争っているので、そうした選手にも負けたくはないです。
●「生半可な気持ちでは戦いたくない」
Q:今年からF1にホンダが復活して、そこを目指す道筋も見えるかと思うのですが、山本選手がレーシングドライバーとして将来プランを考える上で、F1を目指したいという気持ちはあるのでしょうか。
山本:F1には乗りたいです。乗りたいですが、現実的な話をすれば、難しいとも思っています。自分の理想と現実はしっかりと見ないといけない年齢になっているし、10代で走っているF1ドライバーもいる中で、仮に来年乗ることができたとしても僕は28歳になっている。それではちょっと遅いとも思っていますし、語学にしろ速さにしろ、28歳でも乗れるような準備ができたかというと、正直できていないという思いもあります。メーカーに対しても、期待をしてくれているファンに対しても、言ってはいけないことかもしれないですし、申し訳ない気持ちもあるのですが、それが現実だと思っています。
僕は国内レースのレベルはすごく高いと思っています。そして僕としては、与えられている環境でベストを尽くす、チャンピオンを獲ることが一番の目標であり、やらなくてはいけないことでもある。正直、海外を目指すことは、2013年にタイトルを獲って14年に向けて活動した中でチャンスを掴み取れなかったので、僕の中では一旦リセットされているかなという気持ちですね。
将来の話をすれば、国内のレースだけでなく海外のレースについても、自分として何かチャンスを掴むことができれば、その時は挑戦したいなと思います。でもいずれにせよ、生半可な気持ちでその時のカテゴリーであったり選手権に出ることは、したくないと思っているんです。
Q:最後に、ドライバーとしてのご自身の一番の強みは何だと思いますか?
山本:強みですか……難しいのですが、100%応援してくれる人たちが周りについてくれていることが僕の武器、強みだと思っています。ひとりではできないスポーツですし、応援したいと思われることがレーシングドライバーとしては必要な要素だと思っています。
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現在だけでなく、過去、そして未来へのビジョンも含め、その時々の状況をないがしろにせず、ありのままを受け止めて、その上で最善を尽くし切る。インタビューを通じて、そんな山本の姿勢が窺えた。またSUGO戦を終えて、結果として山本は2位表彰台を獲得。山本がスーパーフォーミュラで表彰台を獲得するのは、チャンピオンに輝いた2013年の最終戦以来のこととなる。レース後にそのことについて尋ねてみると、返ってきたのはこんな言葉だった。
「(チームの)みんなも辛かったでしょうし、せっかくいいクルマがあるのになぜ結果が出ないのだろうと思っていた部分もあるはずで、フラストレーションも溜まっていたと思います。でも、それを最後に形にするのはドライバーの仕事。そういう意味で、今回みんなの期待に少しは応えられたかなと思うと、本当にホッとしたというか、よかったなと思えました」
周囲からの協力を常に意識し、感謝の言葉を惜しまず、それに最大限報いるように努力する。全力で戦うがあまり、悔しいときには涙も流せば、グローブを壁に叩きつけることもある。それでも周囲の人たち、そして多くのファンが山本に惹きつけられるのには、そこに単なる身勝手さではないものを見出すからではないだろうか。ホンダ陣営のエースとして、周囲からの大きな期待を背負いつつ、今回またひとつ山を乗り越えた感もある山本。今後どんな活躍を見せ、どんな功績を残していくことになるのだろうか。
