14車種29チームが熾烈なバトルを繰り広げている今シーズンのスーパーGT300クラス。シーズン後半戦に向けて、活躍が期待されるマシンを1台ピックアップし、ドライバーにマシンの魅力を聞いていく。
今回は井口卓人と山内英輝の若手ドライバーがコンビを組むSUBARU BRZ R&D SPORTにフォーカスする。(本取材はスーパーGT第6戦SUGOにて実施。)
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2012年よりスーパーGT300クラスへ参戦しているBRZ。参戦開始直後からシーズン中に改良を施せるJAF-GT規定を利用し、ほぼ毎戦アップデートを施してきている。参戦3シーズン目の2015年はタイヤメーカーをダンロップに変更し、ドライバーも新たに山内を迎えるなどチーム体制にも大きな変更が行われている。
BRZの武器となっているのは市販車でも搭載されている低重心の水平対向エンジンと1150kgとマザーシャシー勢に次いで軽い車重。このふたつを活かすことで高いコーナリング性能を発揮している。しかし、武器のひとつであるエンジンはマシンのネックにもなっている。
搭載されている水平対向エンジンはターボが装着されてるが、排気量は2リッターと最も小さいため、ストレートの加速で苦戦を強いられる場面も多い。今年はドラッグ低減を目的に、フロントタイヤのサイズを小さくし、ボディ形状を変更して挑んでいる。
そんなBRZの今季最も大きな変更点は剛性アップを目的としたフレームの刷新だ。フレームを変更した理由についてドライバーの井口卓人は剛性強化が目的であると語る。
「色々な所に補強パーツが入っていたり、もっと“しっかり感”を上げて来たのが、主に大きく変わった点です。また、去年からの延長でエアロにも引き続き手を加えていますよ」
「外見からは分からないかもしれませんが、中身は補強パーツやSTIさんのパーツが装着されたりしていて、確実に進化してきています。ただ、基本的には剛性強化がメインですね。エンジンなどよりも、ボディをしっかりさせて、いかにタイヤの力を100%使い切るか、というところがチームが常に考えていることだと思います」
ボディの剛性が上がることでサスペンションがより機能し、グリップレベルが向上する。これにより、更に高いレベルのコーナリングが可能となるのだ。ただ、剛性強化のために補強パーツを投入しすぎると、長所のひとつである車重が増加してしまう可能性もある。
しかし、多少の重量増がマシンの戦闘力向上に繋がっている可能性がある。「FIA-GT3マシンより300kgくらい軽いので最初は苦労した」(井口)というダンロップタイヤとのマッチングが進んでいるからだ。
「毎戦追うごとに、タイヤはBRZよりの仕様になってきましたし、チームもタイヤに合うセッティングを探してきています。それがようやく機能してきて、(第5戦)鈴鹿くらいから上位で戦えるようになりました」
井口の語る通り、タイヤメーカーの開発が進み、チーム側もタイヤに合わせたセッティングを行っていることが、タイヤ性能を引き出せている最大の要因であることは間違いない。ただ、そこにマシンのわずかな重量増加も貢献している可能性は低くなさそうだ。
また、今年のBRZに関する話題のなかで、もっとも大きなものと言えるのが、7月末の公式合同テストでマシンがほぼ全焼するクラッシュがあったことだろう。
クラッシュのダメージはマシン全域に及んでおり、10日後に迫っていた第4戦富士への出場は絶望的と思われたが、チームはパーツをかき集めマシンをほぼゼロの状態から修復。新車同然で挑んだ第4戦富士で8位入賞を達成している。
ここで気になるのが、修復のタイミングに合わせたアップデートは投入されなかったのかということ。これについて井口は「実は、やっています。あまり詳しくは言えませんけどね」と明かした。
「それも補強パーツなんですが、一度マシンをバラバラにしたので、その時にしっかりと作りこんで、それを付けたという感じですね」
「(第4戦)富士のレースでは、全部修復することに加えて、しっかりアップデートも行い、その状態でバランスを観ることができました。これが(3位表彰台を獲得した)鈴鹿に繋がりましたね」
もうひとつ気になる部分、市販車では兄弟関係にあるマザーシャシーの86に関する感想を聞いた。
「コーナーリングに関しては、どちらも素性が良くコーナーの速いクルマだと思います。すごく似ているなと後ろから見ていても思いますね」
「ただ、エンジンに関しては向こうが大きいエンジンを積んでいますよね。もちろん、リストリクターなどで制限はされていますが、若干その部分で、コーナーからの加速などでは、うちの2リッターの小さいエンジンでは苦しいのかなという部分もあります」
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より速いスピードへ対応するべくフレームを一新してきたBRZ。シリーズ序盤はタイヤとのマッチングに苦しみ、第3戦タイの予選では井口がアタック中にスピンしてしまう珍しい場面もあった。しかし、シリーズ後半にかけては荒れた展開の第5戦鈴鹿で3位表彰台を獲得するなど速さを取り戻しつつある。エンジン排気量が小さくストレートで苦戦する場面が多いものの、コーナリングスピードの速さは最大の武器だ。特に第7戦の舞台であるオートポリスは相性の良いテクニカルサーキット。観戦エリアとコースが近いため、最終セクターでは圧巻の走りを見ることができるだろう。
