上述の通り、セットアップの変更は失敗に終わり、ケビンがレース中に不満を漏らすようになりました。それを聞いたギュンター(シュタイナー/チーム代表)からは、第5戦スペインGPでケビンとロマンが同士討ちをした時と同じように、ドライバーに注意をするべきかと僕に相談がありました。
スペインGPの時は「チームメイト同士で2回もぶつかることはないと思うから、ドライバーを信頼して任せよう」と僕は言いましたが、結局彼らは2回もぶつかりましたし、先に注意するべきでした。だけどできれば公の場で注意をしないほうがいいと思い、今回もギュンターには「ケビンがもう1回不満を言うまでは待ってほしい」と提案しました。
彼もそれをわかってくれて、一旦は落ち着きました。しかしそれでもケビンが「このクルマはキャリアのなかでも最悪のクルマだ」と不満を口にしたので、ギュンターからの注意がありました。
ケビンのレースパフォーマンスは、やっている僕たちチーム全員にとってもまったく満足できるものではありません。どうしてこのような状況になったのかと考えれば、それはもちろんケビンが予選でクラッシュをしたからですが、プッシュしていればクラッシュすることもありますし、そのミスに対しては僕もギュンターも怒っていません。それなのに、レース中にあのようなことは言うのは無責任です。
実は以前にも似たようなことがあって、レースの週末が終わってからケビンと話をしました。そこで彼は、「ひとりで運転しているときは誰かに自分の考えを伝えることができないので、どこかのタイミングで、自分のなかで溜まってたものを吐き出さないといけなくなる。でもそれを言ったとしても、言葉通りの意味があるわけではない」と打ち明けてくれたんです。
ケビンの言っていることは本当だと思います。ただ、無線を聞いているのは状況を理解している人間だけではないですし、細かい事情を知らないメカニックや、さらにはスポンサーなど世界中の人々がそれを耳にします。だからそういうことは言うべきではないと、彼には再度レース後に伝えました。
もちろん今回も、ケビンに悪意があったわけではありません。当然僕もギュンターも、ケビンの担当エンジニアもそれを理解していますし、だからこそギュンターには注意するのを待ってほしいと言ったんです。
レース後のデブリーフィングでは、ケビンは一番最初に謝ってくれました。話し合いが終わった後には僕のところへ来て「きちんと謝りたい」と言ってくれましたが、僕は「クルマを直してくれたメカニックのところへ謝りに行ってくれ」と伝えました。もちろん彼はきちんとメカニックに謝りましたし、とても反省して落ち込んでいました。今後、同じことが起こらないことを願います。
今回のレースのことはともあれ、今のケビンは精神的に良い状態にあります。彼はこれまで、考えなくてもいいようなことまで考えてしまうことがありました。ケビン自身は、そういう考えがパフォーマンスに影響することはないと言っていましたが、僕は必ずしも同意見ではありませんでした。
それが3シーズン目を迎えた今年は、まったくそのようなことがありません。ケビンは、余計なことを考えないで済むような環境を整えてあげれば、集中してパフォーマンスを発揮できるタイプです。結果にはつながりませんでしたが、カナダGPとモナコGPではそれができていたので、きちんと成長していると思います。