2021年F1第11戦ハンガリーGPで各チームが走らせたマシンを、F1i.comの技術分野を担当するニコラス・カルペンティエルが観察、印象に残った点について解説する。今回は、波乱のレースでF1初優勝を挙げたエステバン・オコンが乗るアルピーヌA521のアップデートを取り上げる。
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劇的な展開の末にエステバン・オコンが初優勝を遂げた。しかしアルピーヌはA521に大きなアップデートを施してはいなかった。わずかに目についたのは、リヤウイング翼端板に加えられた変化だった。
2枚の比較写真で明らかなように、翼端板上部から伸びている4枚のすだれ状スリットが2本のスポークで翼端板下部に固定された(黄色矢印参照)。これらのスリットは、後輪ブレーキダクトのウイングレットやディフューザーと密接に連携している。
ブレーキダクトのウイングレットがまず、車体下部に入り込もうとする乱流を車体からできるだけ剥離させることなく、きれいに上方に流す。そこにディフューザーが跳ね上げた気流が合流し、翼端板のスリットで整えられてリヤウイングに到達する。
スリットの整流効果は大きく、それだけに各チームの空力エンジニアの腕の見せ所でもある。2019年にはハースがユニークな形状のスリットを投入し、去年のレッドブル、今季のマクラーレンがそれを踏襲した。
今回のアルピーヌのアップデートはあくまでマイナーなもので、これでA521の空力効率が飛躍的に上がったわけではない。むしろアルピーヌマシンパッケージの長所である優れたトラクション性能、低速コーナーでのキビキビした挙動が、ハンガロリングのコース特性にマッチした点が大きかったというべきだろう。
すでに予選からオコン8番手、フェルナンド・アロンソ9番手と速さを発揮していたものの、その位置からの優勝は普通ならあり得ない。オコンのミスのない走りとアロンソの素晴らしい援護射撃は言うまでもなく、滅多に訪れない幸運に恵まれたことも間違いない。そうして、かつてアロンソが初優勝を遂げたハンガリーGPで、オコンもF1初優勝を果たしたのだった。