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F1 ニュース

投稿日: 2021.09.09 06:50
更新日: 2021.09.09 15:32

【中野信治のF1分析/第13戦】薄遇されるボッタスの心の叫び。母国GPでプレッシャーが垣間見えたフェルスタッペンのシフトミス

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F1 | 【中野信治のF1分析/第13戦】薄遇されるボッタスの心の叫び。母国GPでプレッシャーが垣間見えたフェルスタッペンのシフトミス

 フェルスタッペンとハミルトンの息詰まるチャンピオン争いに、期待の角田裕毅のF1デビューシーズンと話題の多い今シーズンのF1、元F1ドライバーでホンダの若手ドライバー育成を担当する中野信治氏が独自の視点で解説します。今回の第13戦は36年ぶりの開催となるオランダGP。ザントフォールトのユニークなコースでは予選でさまざまなアクシデントが起き、決勝ではメルセデスの非情すぎる戦略が話題となりました。

  ☆   ☆   ☆   ☆   ☆

 36年ぶりに開催された2021年F1第13戦オランダGPですが、舞台のザントフォールト・サーキットは本当に昔ながらの名残が残っている、数少ないサーキットです。最近はキレイすぎるサーキットが多いなか、路面もアンジュレーション(起伏)が多くてランオフエリアも少なく、コーナーにはバンク角がついていて、昔ながらのラフさも残っているイメージもあります。新しく走るサーキットはドライバーのイマジネーション(想像力)を掻き立てて感性を呼び覚ましてくれるので、ドライバーにとっては乗っていて楽しいサーキットなんじゃないかなと見ていて思いました。

 全長が短くてコース幅も狭くてオーバーテイクが難しいので、今回は予選のポジションが重要になります。その予選ではQ1の最後でトラフィックという問題も起きてしまいましたが、これは起こるべくして起きたことだと思います。

 何人かのドライバーがトラフィックに引っかかったり、アタックに間に合わなかったですが、16番手に終わったセルジオ・ペレス(レッドブル・ホンダ)に関しては、少しアウトラップをゆっくり行き過ぎたんじゃないかなと思います。たしかにピットレーンでは後ろで待たされているタイミングもありましたが、その後に前車との間隔を開けすぎてしまったのかなとも思いました。チームとのコミュニケーションもあるかと思いますが、渋滞することは分かっているのでちょっと可哀想でしたね。

 セバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)もアタック中にハースの2台に追突しそうになったりしていて、本当に間一髪でした。アタックしているベッテルとしては行かざるを得ない状況で、ハース勢はこれからというタイミングでした。最終的にぶつかりそうになったニキータ・マゼピンには結局ペナルティは出ませんでしたが、これはマゼピンが1台で進路を塞いだわけではなく、ほかに何台もあの場所にいる状況だったので酌量の余地があると判断されたのでしょう。

【動画】オランダGP予選Q1の混乱、ベッテル、マゼピンのオンボード映像

 そしてQ2ではジョージ・ラッセルとニコラス・ラティフィというウイリアムズ2台がクラッシュしてしまいました。2台ともに速さを見せていただけに、ちょっともったいなかったですね。ですがギリギリまで攻めた結果だと思いますし、ラッセルに関しては、あのままアタックできていればQ3に進出した可能性もありました。

 今回の予選ではQ1~Q3にかけてタイムの上がり幅が非常に大きかったのも特徴的でした。これは『トラックエボルーション』と呼ばれる路面のグリップが良くなるスピードが早かったことが要因になります。ザントフォールトをF1マシンが走るのは久々ですし、F1マシンは他のカテゴリーと比べても走行ラインが独特です。路面にタイヤのラバーグリップが乗っていく速度が早くて、路面のグリップ力が上がることは大いにあり得ることです。それが今回は、セッション中にも路面状況が変化するくらい早かったのだと思います。

 そんなこともあり、ドライバーは各セッションで最後のギリギリのタイミングでアタックをしたいので、それがトラフィックにも繋がってしまいました。当然セッション後半になると赤旗のリスクもあるので結果論でしかないですが、ドライバーとしては路面が一番おいしい状況である一番最後にアタックしたいというのが本音だと思います。それくらい今回の路面は周回ごとに変化してしまうくらいの状況でした。

 最後のQ3では、そこまでの流れを見ているとマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)がポールポジション獲得濃厚かと思いましたが、最終アタックではルイス・ハミルトン(メルセデス)がギリギリ(0.038秒差)まで迫ってきました。本当にハミルトンがタイムをひねり出してきた感じで、メルセデスもフルパワーを出したんだと思います。

 やはりハミルトンの集中力は凄いなと思いましたし、フェルスタッペンにはなんだかんだで母国グランプリというプレッシャーが掛かっていたと思います。フェルスタッペンの予選アタックを改めて見たのですが、最後のアタックでは実はシフトミスをしていて、ターン3を抜けた後にギヤを連続で上げてしまっていました(ダブルシフト)。それでコンマ1~1.5秒くらいロスをしているはずです。

 その後もターン13~14を抜けて、本当はメインストレートでDRSを開くはずだったのですが、開いていませんでした。DRSが開いていないので当然ストレートスピードは伸びていないので、そこでもコンマ2~2.5秒くらいロスをしています。そう考えると、最終アタックでのフェルスタッペンとハミルトンの差はコンマ3秒くらいあったのかなと思います。

【動画】オランダGP予選ポールポジションを獲得したフェルスタッペンのオンボード映像

 DAZNの中継で僕はポールポジションタイムを1分08秒6と予想したのですが、完璧なアタックならそのタイムまで行っていたはずです(フェルスタッペンの最終アタックタイムは1分08秒885)。映像ではフェルスタッペンはいつも通りの素振りをしていましたが、実はかなりのプレッシャーを感じていたのでしょう。ドライバーが2回連続でシフトを上げてしまうのは緊張状態のときにやってしまうことです。おそらくは軽く指が触れてしまっただけだと思いますけどね。

 なので、最終的にフェルスタッペンとハミルトンは0.038秒差でしたが、実際にはコンマ3秒くらいの差があったのではないかと思います。走行映像を見てもフェルスタッペンのクルマのほうが明らかにクルマがよく曲がっていて、特に分かりやすいのがターン2~3のあたりです。曲げていかないといけないコーナーで、少しハミルトンのほうがクルマを止めないといけないのでブレーキの踏力が強くて、クルマを曲げるためにブレーキの時間も長く、抜くタイミングも少し遅い。

 対してフェルスタッペンのクルマのほうがブレーキだけでなくロールインでもクルマを曲げられています。結構オーバーステア気味に近いところでフェルスタッペンは走っていると思いますが、そこはフェルスタッペンのブレーキを抜くタイミングのうまさ、走り方でオーバーステアをコントロールしているのかなと思いました。チームメイトのペレスはまだそれができていません。

【動画】フェルスタッペンとハミルトンの予選アタックオンボード映像比較

 そして決勝ではペレスが後方ということもあり、フェルスタッペン対メルセデス2台の1対2の争いが白熱しました。そこではちょっとバルテリ・ボッタス(メルセデス)が駒のように扱われていて可哀想でしたね。正直、ハミルトンがチャンピオンを争っているのでしょうがないのですが、ドライバー個人の心情としては相当辛かっただろうなと思います。いたたまれなかったですね……。

 その反面、改めてメルセデスのしたたかさ、勝利に対する執念というのを見せつけられました。毎周のように予選アタックのような走りで、かつミスなくマシンを走らせていたハミルトンの凄さ、しつこさ、経験に裏打ちされたドライビングというのも本当に素晴らしかったです。ですが、メルセデスはハミルトンのピットストップが若干遅れたり、コースに戻った後の大事なタイミングで周回遅れに引っかかったり、ちょっと流れがなかったですね。

 あとはフェルスタッペンが最後のスティントでハードタイヤ、ハミルトンがミディアムタイヤと選択が分かれるなど、ふたりの争いを細かく見ていくと本当にいろいろ面白い部分がありました。

 ハミルトンはピットインするタイミングもフェルスタッペンより少し早かったので、ハミルトン自身も「なぜ?」と、そのことを無線で言っていました。ただ、その前にレッドブル側がフェルスタッペンに『あと4~5周は猛プッシュして』ということを無線で言っていました。その無線をメルセデスも聞いているでしょうし、先にフェルスタッペンにピットに入られるとアンダーカットができなくなる。『勝つのは厳しくなる』というプレッシャーでハミルトンを早いタイミングでピットに入れてしまい、さらにそこでミディアムを選んでしまったことが勝負の分かれ目となりました。

 メルセデスは『2ストップになる可能性が高い』と読みつつも、『ハミルトンがなんとか最後までタイヤを保たせてくれるかも』という両方を考えていたはずです。ただ、勝つためにはあの早めのピットタイミングで追い抜くしかなかったので、ミディアムしか選択肢がありませんでしたし、いろいろと総合的なことを考えるとチームとしてはああするしかない状況でした。

 レース中にはエンジニアたちもいろいろな計算をしていて、後になると『なんで?』という考え方もできますが、ライバルも臨機応変に動いてきますし、あの状況では他の作戦は採れなかったのでしょう。対してフェルスタッペンはメルセデスに合わせればいいだけなので、その結果としてハードを選択したことは良かったのかなと思います。

 フェルスタッペンはハードタイヤを選んだことで最後までペースを落とさずに走り切れました。今回はハードとミディアムのタイム差もそれほどなかったですし、デグラデーション(性能劣化)もほとんどありませんでした。ただ、あれだけのペースで走行していると、最終的にタイヤによって差ができる部分が少し出ていました。

 あとはクルマのセットアップ面で、メルセデスは若干ローダウンフォース仕様で来ていたので、ダウンフォース量が多いレッドブル・ホンダのマシンのセットアップのほうがタイヤに対して優しいというのも、ひとつの要因でした。本当に細かく見ていくといろいろなことがすごく緻密に計算されているのがわかります。ただ映像だけを見ていると『なんでそのタイミング!?』ということを思ってしまいますし、ドライバーもそういった無線を必ず入れています。フェルスタッペンも『このハードタイヤはどうなの?』という無線をすぐにしていましたけど、結果としてはレッドブルが合っていたということになります。

 今回の無線を聞いていると、事前にチームとドライバーで話し合っていた戦略とは違う作戦を採った可能性もあります。どのチームもザントフォールトのデグラデーションに関するデータが少ないので、タイヤがどう保つのか、1ストップで行くのか2ストップで行くのか正直読めなかったと思います。そんな出たとこ勝負的なところもあったので、他チームの状況を無線で聞きながら対応し『先にタイヤを替えたクルマはどうなの?』ということをフェルスタッペンも聞いていました。

 そしてレッドブルはフェルスタッペンに『フェラーリがハードタイヤを履いていてペースは悪くないよ』ということを伝えていて、それを言われるとドライバーも安心します。そういった部分でチームとドライバーが一丸となって情報を共有し、ドライバーのモチベーションを下げないようにする総力戦が繰り広げられました。

2021年F1第13戦オランダGP決勝マックス・フェルスタッペン
熱狂的な応援で知られるオランダのF1ファン。サーキットはオランダのオレンジ一色に包まれた

●勝利への駒として使われながらも魅せたボッタスの矜持。F1がメンタルスポーツであるゆえん


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