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F1 ニュース

投稿日: 2021.09.09 06:50
更新日: 2021.09.09 15:32

【中野信治のF1分析/第13戦】薄遇されるボッタスの心の叫び。母国GPでプレッシャーが垣間見えたフェルスタッペンのシフトミス

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F1 | 【中野信治のF1分析/第13戦】薄遇されるボッタスの心の叫び。母国GPでプレッシャーが垣間見えたフェルスタッペンのシフトミス

 今回のレースでは『いかにチームがドライバーをマネジメントするか』ということが見えましたが、そのなかでも強烈だったがメルセデスの“ボッタスの使い方”ですよね。

 決勝ではボッタスを1ストップ戦略でコース上にステイさせて、メルセデスがボッタス~フェルスタッペン~ハミルトンという完全な挟み撃ち作戦で挑みましたが、ボッタスはすぐにフェルスタッペンにオーバーテイクされてしまいました。多少はフェルスタッペンもロスをしているかと思いますし、前にいるという心理的な部分で役立ったとは思いますが、結果として大きな影響はなく、やはりタイヤの周回数の差が大きくてボッタスが抑え続けるのは難しかったですね。

 それにしても今回は『ボッタスをこういう使い方をするんだ…』と思いながら見ていました。今までも似たような場面はありましたが、ここまで露骨にはしていなかったと思います。

 最後のピットインでもチームは『タイヤにバイブレーションがあったから……』と苦しい言い訳で、エンジニアもそう言うのが辛かっただろうなと思いました(苦笑)。しかも、ソフトタイヤに交換したにも関わらずハミルトンがファステストをマークしていたことから、チームは無線で『ファステストラップは出すなよ』ということもボッタスは言われていました。でも、ボッタスはそこでセクター1、2で最速タイムを出しました。セクター3では最後にアクセスを抜いてペースを落としましたが、結果的にそれまでのリードでその時点のファステストラップを更新してしまいましたね。

 ですが、セクター3であれだけアクセルを抜けば、その後にアタックするハミルトンが普通にタイム更新できることが分かっています。ボッタスは任務を遂行したわけですが、それでもセクター1、2でのタイム更新にはドライバーとしての意地を感じましたよね。当然、ボッタスも『俺もレースしてるんだけど!』ということを思うかもしれませんが、チームとしての目的があるならば、ドライバーとエンジニアが阿吽の呼吸でそれを堪えるしかありません。ああいったことは今回だけではなかったので、まさにボッタスの心の叫びですよね。

 ただ、レースが終わってからのパルクフェルメでのボッタスの対応はすごく紳士的でした。インタビューも荒ぶることなく答えていたので、逆にカッコよかったですね。

 オランダGPではいろいろな人間模様が出ていましたが、これがF1の面白さでもあります。マシンとマシンが争っている面もありますが、結局はそれを操っている人間と人間が戦っていて、その裏側が透けて見えてくるのがモータースポーツの本当の面白さ、醍醐味だと見る側の僕は思います。シーズンがますます面白くなっています。

 そろそろ来シーズンの去就も発表されるかと思いますが、現時点でシートが決まっていないドライバーは、やはりモチベーションは下がってしまうと思います(この取材後にボッタスのアルファロメオ移籍、ラッセルのメルセデス移籍が発表)。それだけではなく周りの空気も変わってしまい、『なんとかしてやろう』と思っても、チームとしてはファーストドライバーが優先になってしまいます。なので、ドライバーとチームが一緒に戦っている感がなくなってしまい、ドライバーとしてはこれほど孤独を感じる瞬間はないと思います。ですが、どのドライバーにも良いときと悪いときがあり、そして世代交代をします。それは大なり小なり誰もが経験することです。

 モータースポーツはドライバーとチームの一体感があって初めて実力が発揮されるので、だからこそメンタルスポーツだと言われます。そのドライバーのメンタルの部分を司るのは、やはりチームと一体になることです。それが崩れ去った瞬間、いろいろなところから綻びが生まれ始め、結果にそれが現れてしまいます。ドライバーには無線があるとはいえ、ただでさえコース上でもひとりで走っています。その孤独感というのは推して知るべしですね。

 今回はマシントラブルでリタイアに終わってしまった角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)選手ですが、オランダでは本当に流れがなかった部分があり、クルマも曲がっていませんでした。タイヤが終わっていたことも影響しているかもしれませんが、決勝のオンボード映像で見えたラインのトレースの仕方を見ていても、曲がらないクルマを何とか曲げようという走らせ方をしていたので、角田選手のドライビングスタイルに合っていないサーキットだったのもしれないです。チームメイトのピエール・ガスリーが4位と良かっただけに、余計にその差が目立ってしまいました。

 ですが、次戦のイタリアGPのモンツァはFIA-F3で勝利している得意なサーキットだと思いますし、クルマという部分でも昨年はガスリーが勝っているサーキットなので、いいデータを持っていると思います。そういった意味でも、もう一度流れを引き寄せないといきません。来年に向けても、残りのシーズンでガスリーとの対決も非常に重要だと僕は思っているので、何とか一矢報いてほしいですね。角田選手は速さは持っているはずなので、自分のやるべきことをきちんとやっていれば絶対にチャンスがあると思うので、期待したいと思います。

2021年F1第13戦オランダGP決勝マックス・フェルスタッペン
38年ぶりに開催されたオランダGPで母国GP初優勝を飾ったフェルスタッペン

<<プロフィール>>
中野信治(なかの しんじ)

1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長として後進の育成に携わり、F1インターネット中継DAZNの解説を担当。
公式HP https://www.c-shinji.com/
SNS https://twitter.com/shinjinakano24


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