40℃の気温差に加え、一般の計測器では表示すら出ない1%以下の乾いた湿度。そして、650台に及ぶ参加車両の走行で変化する路面状況。帰国後の解析で判明したことだが、走行抵抗は想定してたワーストの数値を、6倍も越えるほど高かった。平坦なボンネビルの塩路の直線は、実際には圧雪路の坂道を走っているような路面状況だったのだ。

「現場で走らせて合わせるしかない、ということをボンネビルに行って実感しました。エンジンパワーのピークは高いですが、660ccですのでトルクが細くてパワーが路面の抵抗に勝てません。そこでアメリカの業者を探してダイナパック(エンジン出力計測器)を借りてピットの横に置き、スペアシャシーのエンジンを現場でベンチテスト用にして、レースカーの横でエンジンがずっと回している状態でした」

ダイナパック(右下)を現地のアメリカ企業に借りて現場に持ち込み、エンジンのマッピングを詰めた
ダイナパック(右下)を現地のアメリカ企業に借りて現場に持ち込み、エンジンのマッピングを詰めた

 本番では、そのスペアシャシーのエンジンで254馬力を出してセットアップを進めることができた。しかし、それでも385km/hしか速度は出せなかった。

「目標とした速度が出せなかったので、チームとしてもどんよりした空気でした。でも、最終日にレースの主催者が来て『来月もレースがあるから出ないか』と。実はその期間は日本の8月で夏休み期間でした。ですので、16人のスタッフは帰国後はきちんと夏休みを採らないといけない。1カ月後の出場は難しいと思ったのですが、その場にいたウチの役員も出ることを提案したんです」

 だが、蔦エンジニアをはじめ、その時点のチームスタッフは心身ともに疲労困憊の状態だった。

「実際には『もう休みたい』というのが本音でしたが、みんなに確認したら満場一致でやりたいと言うんです。僕はもう一度聞いたんです。『こんな厳しい環境のところでまたやるのか?』と。それでもみんな『やる』と。やっぱり、記録を出せなかったことが、みんな悔しかったんです」

「そこで一旦、スタッフは全員帰国して夏休みを採って、僕だけが夏休みをズラして、次の大会のエントリーや、2週間で新しいエンジンを作ることを研究所のエンジンスタッフの方にお願いするなどの作業に追われました」

 8月のイベントの方が開催規模は大きいが、9月のボンネビルのイベントはFIAの公認イベントで世界記録として残る。ただし、FIAのイベントのため、エントリーは招待制で、ホンダはチームとしてJAFの承認を受けなければならなかった。その承認を採るために蔦エンジニア、そしてモータースポーツ部の冨澤潤は東奔西走して社内の承認を採り、2週間でエントリーにこぎ着けた。

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伊達望だてのぞみ
2025年 / スーパー耐久
クイーンズエンジェルス
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