ホンダが2015年からF1への復帰を発表したのは、昨年の5月16日。早いものであれから1年が経った。発表当時は、まだ2年も先のことと感じていたが、その時間はもう1年を切った。今、ホンダのF1プロジェクトはどんな状況にあるのか? 成功を収めるために重要なことは何なのか? これまでの3度のF1参戦と今度の参戦の違うところはどこなのか? F1の総責任者である新井康久(本田技術研究所取締役専務執行役員四輪レース担当)に訊いた。
新パワーユニット開発の難しさ
――現在、開発していて、一番難しいのは何ですか?
「新しいパワーユニットはエンジン本体以外にもさまざまな要素が組み合わされているので、それぞれの進捗状況がバラバラなんです。その中で一番手こずっているのは、電気系とモーター系。これらは今までのパワートレインにはなかった新しい技術として加わったものです。それはハードとしてもそうですし、今後はそれをF1用のパッケージとしてまとめていく技術も新たな挑戦になります。というのも、回生エネルギーシステム自体のノウハウはホンダも市販のハイブリッド車を生産しているので、基本的な部分は理解しているつもりです。しかし、F1で使用するレベルは時間にしても出力にしてもかなり違うので、チャレンジングにしないと戦えないのかなって思っています。でも、どのくらいチャレンジングにしていいのかというのは、まだ手探り状態ですね」
――今年、シーズン前に各チームが苦しんだのも、車体に組んでみたら、電磁波など思わぬ問題が発生したために起きたようですね?
「外から想像するに、恐らく熱と電気系、特にノイズの問題じゃないですか。というのも、モーター自体はノイズを出さないんですが、回生する時には、高圧電流をスイッチしてモーターを回したり、発電するわけです。それってノイズのかたまりですよね。その一番悪さしそうなものをあの狭い場所に積む。しかも、明らかに普通のエンジンだけで使ってるレベルよりもかなり高い電圧です。それを高周波で直流をスイッチングするんですから、ハイブリッドの経験がある人なら、だいたい想像はつきます。しかもF1は回転数も出力も全然違うわけですから」
信頼性の問題で足を引っ張りたくない
――現在、参戦しているエンジンメーカーの中には、フェラーリのように、パワーユニットの最低重量に収めきれないままシーズンをスタートさせたところもあります。新しいパワーユニットを軽量化する上で、難しい点はどのあたりなのでしょうか?
「昨年まで年間(のエンジン使用制限が)8基だったのが、今年から5基になったことが大きいと思います。軽く作ること自体はそんなに大変ではないですが、それで去年よりも一気に3基も少ないパワーユニットで1年間まかなうというのは、技術者としてはかなりチャレンジングです。しかも、来年は4基になる。そうなると、動くものはやっぱりちゃんと作っておかないといけない。その部分が一番重いわけですから、なかなか軽量化することができないわけです。やっぱりパワーユニットを供給する者としては、信頼性の問題でチームの足を引っ張りたくはない」
――今までのエンジンの回転数は1万8000回転で、新しいパワーユニットになってからは上限が1万5000回転に下げられ、実際には1万2000回転あたりまでしか使っていません。そうすると単純にブロックを6000回転分、軽くしたりはできないんですか?
「できないですね。なぜなら、1気筒あたりの出力が変わらないからです。昨年までは2.4リッターV8自然吸気だったのが、今は1.6リッターV6にダウンサイジングされました、でも、ターボで空気を押し込んでパワーを出しているので、1気筒あたりにかかる燃焼圧は逆に高くなっています。だから、むやみにブロックを薄くすることはできません」
次回に続く