イタリアGPのレース後、エンジニアとのミーティングを終えた可夢偉は、こう言ってエンジニアと別れた。

「いつか、またどこかで一緒に仕事することがあったらよろしく……と一応、言っておくよ」

 イタリアGP走行開始2日前の水曜日に急きょ出場を要請されたケータハムに対しての嫌みではない。いまケータハムが置かれている状況が、そうさせるのだ。日曜日のレース後、チームはリリースを通じて、突如7月から新しく代表になったばかりの元F1ドライバーのクリスチャン・アルバースの退任を発表した。予選後に話をしていたときには、まったくそんな素振りは見せていなかったにもかかわらずだ。アルバースは、前戦ベルギーGPの2日前にアンドレ・ロッテラーを起用することを可夢偉に伝えた人物である。そのチーム代表が、今度は自ら個人的な理由でチームを離れるという。それがケータハムの現状なのだ。

 レース後に、そのことを聞かされた可夢偉は「次、会うことがあったら、よろしくね」と言って別れた。これっきりになるかもしれないという緊張感が、アルバースだけでなく、エンジニアへ対しても可夢偉に「別れのあいさつ」をさせたのだ。

 そして、こう続けた。「いまは早く日本へ帰りたい。だって、チームの雰囲気が……。『(チーム代表が)もう辞める』っていうぐらいゴタゴタしているのが、チームにいてあからさまにわかるから。自分はここに何しに来たのか、これから、どうすればいいのか……」

 せっかく予選とレースでマルシャに勝ち、アップデートの成果が確認できたイタリアGPだったが、2週間後のシンガポールGPに向けて、可夢偉の心に高揚感はない。

「出ろって言われれば、出るだけです」

 2週間後、ケータハムはどのような判断を下すのか。また新しい代表が就任したばかりのチームで未来を読める人間は、いまはチーム内にもいない。

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