「あえて外側のだれもいないところを走りました」
今シーズン初完走を果たした小林可夢偉はそう言って、スタート時のポジション取りを説明した。
「だって、開幕戦があんな結果になったので、今度またぶつかったら何を言われるかわからないですからね」と言う可夢偉は、順位を上げることよりも、完走することを第一目標に1コーナーでの混乱を避け、あえて不利なアウト側を選択した。ところが、その可夢偉を追い出すような動きを見せたのが、ロータスのロマン・グロージャンだった。
「結構、スタートが良かったんですけど、グロージャンが外側に寄ってきて……。あれがなければ、もっと前に行けてた」という可夢偉は、レース中盤にグロージャンが背後に迫った時、ある仕返しをした。DRS(可変リヤウイング)ゾーンで、巧妙なトリックを仕掛けたのである。
セパンのDRSゾーンは2カ所が連続して存在している。1カ所目がバックストレートで、もうひとつがホームストレートだ。1カ所目のバックストレートでスリップストリームに入られた可夢偉は、2カ所目のDRSの検知地点でわざとインを空けてグロージャンを前に出して、2カ所目のDRSゾーンでは自分がDRSを可動させる権利を得て、抜き返したのである。
「スタート直後にやられたから、ちょっとイラっとしていて」
やられたら、やり返す――いかにも可夢偉らしい、レース道である。気温は約30℃、路面温度も50℃以上という過酷なコンディション。しかも、乗っているのはセッティングがほとんど決まっていないケータハムのマシン。完走するだけでも大変な中、可夢偉はしっかりと戦っていたのである。
「だって、去年は耐久レースを走っていましたから。F1はあっという間でしたよ。だいたい、こんな結果でホッとしている場合じゃない。まだまだやるべきことがたくさんある」
もちろん、それはチームに、初ポイントを持ち帰ることだ。
「今日、そのポテンシャルがあることを確認できた」
13位という結果以上に価値のある完走だった。