「ルイス、ボッタスは5秒前だ。君はラップあたり1.5秒速いから、“イージーキャッチ"(簡単に捕まえられる)だ」
レース終盤、スーパーソフトタイヤを履いたルイス・ハミルトンは猛烈な勢いで2位バルテリ・ボッタスを追走していた。残り周回数は10ラップ。計算上はかなり余裕があったことも事実だが、レースエンジニアのピーター・ボニントンは攻めすぎてタイヤをダメにすることも懸念していた。
ジェンソン・バトンとの接触でフロントウイング左側にダメージを負ったハミルトンは、左フロントタイヤのグレイニングと摩耗の度合いが大きくなり、3ストップに切り替えることを余儀なくされた。しかし、だからこそアグレッシブにプッシュしてタイヤを使い切るハミルトンらしいドライビングが見られたことも確かだ。
ハミルトンがピットストップを行なったのと同じ頃、ボッタス陣営は2ストップ作戦で27周の最終スティントを走り切るためにソフトタイヤをいたわりながら走っていた。
「バルテリ、君の側からタイヤのフィードバックをしてくれ」
「厳しすぎて、プッシュすることはできないし最後まで保たせるのは厳しいよ」
レースエンジニアのジョナサン・エドルスからの問い掛けに対して、ボッタスはかなり慎重だった。
「OK、最後まで走るためにペースをマネージメントし続けてくれ」
ボッタス陣営はタイヤ交換から10周目を過ぎたところですでにそんな状態だった。秒単位でギャップを詰めてくるハミルトンを見て、エドルスは一旦は勝負を諦めていた。無理をしてタイヤを壊すよりも、ハミルトンを先行させて無難に3位表彰台を確保した方が賢明だと考えた。
「ハミルトンと激しく争わないようにしよう。最後まで走り切ろう」
しかし、低ドラッグのウイリアムズFW36は直線の立ち上がりからハミルトンを引き離し、最高速も伸びる。セクター3ではテール・トゥ・ノーズにまで接近する2台だが、セクター1と2ではDRSを使われてもスリップに入らせないほどに引き離すことができた。
「ルイスを抑えるのは本当に大変だった。僕にとってはDRSゾーンのストレートに向けてターン1、ターン2〜3でできるだけ良い加速を決めることがとにかく重要だった。そしてヘアピン(ターン6)でできるだけブレーキングを遅らせるだけだった」
ボッタスは一時的にパワーユニットの性能を最大限にするオーバーテイクボタンや、エンジンモードの切り替えによってストレートを最大限に重視したセッティングで応戦していたのだ。
「無線で常に交信をしていて、エンジニアからはあらゆる情報を教えてもらった。ポジションを守るためにどのエンジンモードを使えば良いのかといった指示もすごく重要だったし、僕自身も最大限にプッシュしたよ」
コントロールライン上では0.4秒差まで迫ったハミルトンだが、ストレートで追い付くことができなければオーバーテイクを仕掛けることも難しい。
「彼はストレートが速すぎるよ!」
その叫びもむなしく、ハミルトンは3位のままでチェッカーを受けた。
「素晴らしいレースだった! 素晴らしいドライブだったよ、バルテリ。2位だ!」
初表彰台から3戦連続の登壇となったボッタスだが、過去2戦はバトルを避け堅実に確保した表彰台。しかし今回は違う。後続を抑えきって得た初めての表彰台は、彼をさらに成長させてくれたはずだ。