セルジオ・ペレスがロシアGPで、また株を上げた。タイヤをもたせて順位を上げる戦略は彼の十八番だが、堂々としたドライビングには磨きがかかっている。ザウバーからマクラーレン入りを果たしてもなお「ペイドライバー」という不名誉な称号につきまとわれていたが、ドライバーを育てるチームで生まれ変わった。ペレスとフォース・インディアの戦いぶりを無線交信から見てみよう。

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「チェコ、まだ3位を走っているが、この戦略を成功させるためには最大限のタイヤマネージメントが必要だ」

 レースが終盤に差しかかった42周目、レースエンジニアのティム・ライトがセルジオ・ペレスに無線で指示を送った。

 ペレスは12周目のセーフティカー導入時にタイヤ交換を行い、残り41周をソフトタイヤで最後まで走り切る策に出ていた。同じ戦略を採ったレッドブルのダニエル・リカルドよりも良いペースで走り、バルテリ・ボッタスとキミ・ライコネンがピットストップを終えて後方に回ると、レース終盤まで3位のポジションをキープしていた。

「これ以上できないくらい、やってるよ。どのタイヤが一番厳しい?」

 そう訴えるペレスに、ライトは「右フロントが一番厳しい」と最もマネージメントが必要な箇所を伝える。

「チェコ、この周のマネージメントは良かったよ」

 翌周にはテレメトリーデータを確認したライトがペレスにそう伝える。それでも、まだ残り10周ある。タイヤの摩耗は限界ギリギリだった。

 45周目、ようやくボッタスがリカルドを抜いて、ペレスの背後に迫ってきた。ボッタスに対してレースエンジニアのジョナサン・エドルズは「前のペレスはフロントタイヤに苦しんでいる。捕まえろ!」と、すかさず情報を与える。

 一方、ライトはペレスに情報を伝えながらも、安心させるように付け加えた。

「ボッタスがリカルドを抜いた。でも、それまでに17周もかかったぞ」

 ペレスはタイヤマネージメントに腐心しながらも必死に逃げを打つ。しかしタイヤを気遣ってハードブレーキングやレイトブレーキングはできず、苦しい戦いを強いられていた。

 レースは残り2周、この時点でボッタスにフルパワーモード使用の許可が与えられた。

「モード1。1周だけモード1を使ってもいいぞ」

 これでボッタスは一気にペレスとの差を詰め、バックストレートでDRSを使い、ターン13でインを突く。ペレスは防戦することもできず、続いてライコネンにもポジションを奪われてしまった。

「最後は2台に追いつかれて、タイヤがほとんど残っていなかったからハードブレーキングもできなかったし、彼らを抑え込むのは難しかった。フラットスポットを作ったら、その時点でおしまいだというリスクを抱えていたからね。残り1周の時点で抜かれて、すべてを失った気分だったよ」

 しかし最終ラップでボッタスとライコネンがクラッシュ、再びペレスに3位が転がり込んできた。

「P3だ、チェコ! 素晴らしい、よくやった! この結果にふさわしいよ」

「フゥ〜! すごくハードなレースだった。もうタイヤは残ってないよ。みんな、よくやってくれた、ありがとう! この瞬間を楽しんでくれ」

「表彰台で会おう」

 チームにとって3度目、昨年バーレーンGP以来の表彰台に、スタッフたちは歓喜して表彰台の下へと駆けつけた。しかし、フィニッシュ直前までチーム内には緊張が漂っていたという。タイヤの摩耗が、すでに限界値を超えていたからだ。

 フォースインディアのタイヤマネージメントとビークルダイナミクスを管轄する松崎淳エンジニアは言う。

「右フロントのゴムは、もうほとんど残っていませんでした。今週末はデータも限られていて(タイヤの摩耗データは)ギリギリを越えたところだったんで、最後はヒヤヒヤどころの騒ぎじゃありませんでした。ギャンブル的な戦略ではありませんでしたが、レース中盤のペースが少し速すぎたんです。チェコとは、あとでしっかり話さないといけませんね(笑)。巷では『マクラーレンにペイドライバーというレッテルを貼られた』とか言われていますが、僕はそう思いません。彼は十分に自分の腕でやっていけるドライバーですよ」

 フォースインディアのガレージでは「PEREZ P3」のボードとともにシャンパンが振る舞われ、大いに沸いた。上位勢の自滅に助けられた面もあったとはいえ、戦略とタイヤマネージメントも含め、表彰台争いを繰り広げたのは彼らの実力。ペレスの腕とフォース・インディアの底力が光ったロシアGPだった。

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